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無断外泊

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 あの不幸な初夜の日から1年が経った。白い結婚を申請出来るまで、残り1年だ。
 伯爵様も忘れているようだし、このまま結婚記念日もお互いの誕生日も無視してよう。

 この1年、おばちゃん根性で頑張ったよ…。
 金儲けは順調で、飲食店だけでなく若者向けのリーズナブルな服のお店や、マダム向けのエステサロンまでオープンして、社交界で話題になっている。

 伯爵様とは相変わらず週に2回、一緒に食事をしているのだが、私はその時間をちょっとした打ち合わせだと思って過ごしている。


 ある日のディナーにて。

「エレノア。学生時代の友人の邸で夜会があるのだが、一緒に行ってくれないか?みんなエレノアに会いたがっているんだ。」

「夜会はいつですか?」

「来月の10日だ。」

「その日は私は、取引先から別のパーティーに誘われていますので無理ですわ。」

「…そうか。残念だがしょうがないな。」

「申し訳ありません。」

「大丈夫だ。気にするな。」


 伯爵様の友人の夜会は、5回に1回くらいしか参加していない。
 私は私で別の付き合いがあるし、伯爵様の友人の夜会は嫌いだし。
 伯爵様自身も、自分の友人達が私に跡取りの催促をしたり、私の店の予約を優先的に頼もうとしてきたりと、私が嫌な思いをしていることに気付いたらしく、無理に誘ってこなくなったのだ。

 この伯爵様には何の期待もしていないが、少しだけ人として成長はしてきたかとは思う。

 しかし伯爵様と一緒に夜会に参加する機会が少ないせいで、一部の人からは、私達は不仲だと思われていたようだ。
 まあ、不仲ですけどね。

 更に、ただ不仲なのではなく、伯爵様はお金で強引に結婚した私を嫌がっているのでは…と考える人が今でもいるらしい。ギルや私の友人達が教えてくれた。
 まあ、それも否定はしませんけどね。



 そんな風に周りから思われていたことが、あの事件のきっかけになったのだと思う。



 取引先との夜会の翌日、休日ということもあり、のんびり起床した鬼嫁。
 起床してすぐにメイド長が来る。…何かあった?

「奥様、ご報告があります。」

 メイド長の顔がいつもと違う…。

「何かあったのかしら?」

「はい。実は……、旦那様が昨夜の夜会から帰って来ませんでした。」

 ……えっ?

「昨夜は確か…、友人のエイジャー伯爵家の夜会だったわよね。泊まると連絡はあったのかしら?」

「いえ。私は聞いておりませんし、家令も何も知らないようです。
 …奥様、どういたしましょうか?」

 無断外泊ねぇ。遊び人なら珍しいことではないのだろうけど。あの伯爵様でそれは珍しいよね。

「あまり大袈裟に騒ぎ立てるのも良くないでしょうから、もう少し待ってみましょうか。」

「畏まりました。」

 ボロ馬車で何か事件に巻き込まれた?午後になっても戻らなかったら、一応捜索してもらうか。
 いくら愛のない旦那様でも、探すくらいはしないと、また外野から何を言われるか分からないからね。表面上は旦那様を心配する優しい妻を演じないとね。



 遅めの朝食をのんびり食べていると…

「奥様、旦那様が今帰られました!」

「そう。無事に帰って来て良かったわね。」

「奥様…、無事ではないかもしれません。私は旦那様が子供の頃からこの邸で働いておりますが、あんな旦那様は初めて見ました。」

 メイド長がそこまで言うなんて。これは何かあったのかもね。

「メイド長、ありがとう。貴女が色々と教えてくれるから、本当に助かっているわ。
 何かあれば、報告くらいはしてくれるでしょうから、私からは何も聞かないわ。」

「奥様……。」



 朝食を食べ終えて、執務室で今度オープンさせる店の内装を考えていると、伯爵様が執務室に来たようだ。
 無断外泊の説明でもしに来たかな?

 伯爵様は顔面蒼白だった。
 殺人現場でも見てきたかー?なんて考えていた私はまだ甘かったのだ…。

 いつものように人払いを頼んだ後、伯爵様が話し出したことは、無断外泊で連想させる裏切りだった。



 
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