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贈り物
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あの日、王太子殿下に会ってしまってから、私はお気に入りの教会に行くことをやめることにした。
今さら気付いたことだけど、旦那様が私と殿下の面会を断ってくれていたから、殿下は公爵家に来れなかったのだろう。しかし、私が一人で教会に行っていることを何かのきっかけで知り、ああやって強引に接触してきたのだと思う。
もう婚約者ではないのだから、二人きりになってしまう場所では会わないようにしよう。些細な失敗が身を滅ぼすことになるのだから。
記憶喪失になる前の私のように……
教会に行かなくなった私は、邸にひきこもって執務をしたり読書をしたりして過ごしている。
そんな私の所には、最近、贈り物が多く届いていた。
「奥様。バトラー侯爵家から贈り物が届いております」
「また?」
「ええ。今日はドレスのようですわ。届けに来た商人の話では、奥様が結婚前に贔屓にしていた店の新作のドレスだそうです」
「ハァー……。メイド長、とりあえず私の部屋に運んでおいてもらえるかしら?」
「畏まりました」
バトラー侯爵家からの手紙を無視していたら、手紙の代わりに贈り物が届くようになってしまった。
宝石だったり、ドレスだったり、靴や帽子、他国の紅茶やワインなど。
こんなにたくさん送りつけてきて、私の機嫌でも取ろうってことかしら?
ドレスや宝石は、結婚する時に沢山持たせてくれたのだからこれ以上は必要ないのに。
バトラー侯爵家だけでなく旦那様も色々贈り物をしてくれるから、衣装部屋に入りきらないほどになっている。
そろそろ要らないと手紙を書くべきなのかもしれない。もしかして、手紙を私に書かせるために贈り物をしているのかも。あの人達ならありえるわ。
本当に自分達のことしか考えてないのね……
「奥様、ここだけの話なのですが……」
「アンナ、何かしら?」
「もし、ドレスや宝石が沢山あって使わないのなら、売ってしまってもいいと思います。
そのお金を孤児院や修道院に寄付するとか、内緒で貸し金庫にでも貯めておくとか。
いざという時のために、自分で自由に使えるお金があると便利かと……」
いざという時……!
私にとってのその時は、国王陛下が退位して、やっぱり離縁しようとなった時のことかしら?
旦那様は今は離縁しないと言っているけど、五年後・十年後はどうなるか分からないわ。子供ができなければ、王命でも離縁が認められる可能性もあるもの。
お飾りの妻だから今は旦那様と寝室は別にしているし、今後も一緒に寝ることはないはず。
私たちに子供はできないから、恐らく数年後には離縁ね……
さすがアンナだわ。嫁いだ男爵家で苦労して色々経験しているから、いいアドバイスをしてくれるのよね。
私は世間知らずだから、アンナから色々学ばないといけないわ。
「アンナ、ありがとう。貴女の言う通りね。
いざという時に自分のお金が必要になるから、使わないドレスと宝石は売ることにするわ。
旦那様から頂いた物はさすがに悪いから、バトラー侯爵家から頂いた物だけを売るわ。
売ったお金を全部、私の物にしてしまうと旦那様たちにバレてしまうから、売ったお金の三割程度を貸し金庫に入れて、残りは寄付しようかしら」
「それがいいかもしれませんわ。
今後もバトラー侯爵家からの贈り物は有り難く受け取りましょう!
奥様のご両親がしたくてしているのですから、問題はありません」
「そうね! 有り難く使わせてもらうことにするわ」
そうと決まったら、バトラー侯爵家から贈り物を送ってきても何とも思わなくなった。
バトラー侯爵家の贈り物は一級品ばかりなので、高い額で引き取って貰えることが驚きだった。
「奥様。こちらのドレスですが、未使用で最近出たばかりの新作の布地を使っている上に、人気のデザイナーのタグまで付いているので、かなりいい金額で引き取って貰えるみたいですわ!
こちらの宝石類も未使用で人気のブランドの宝石ですから、高く売れそうです!」
「まあ! さすがバトラー侯爵家ね。
有り難く現金にさせて貰いましょう」
アンナは商人との値段交渉も上手で、見ていて面白いやり取りをしている。
商人から言われた額で売るのではなくて、交渉することであんなに額が違ってくるのね。本当に勉強になるわ!
「ふふっ……。最近の奥様は笑顔が増えてきたようで、私は嬉しいですわ」
「アンナのおかげよ。これからも色々なことを教えてちょうだい。頼りにしているわ」
「奥様が笑顔になって下さるなら、私の貧乏生活で知り得たものは何でもお教え致します。
こんな貧乏くさい話、貴族ならみんな馬鹿にするのに……、ここまで喜んでくれるのは奥様だけですわ!」
売ることのできない紅茶やワインは、使用人たちにプレゼントしてみた。みんなとても喜んでくれて、公爵家の使用人たちとも馴染めた気がする。
使用人たちに、些細な物でもプレゼントすれば喜んでくれることを教えてくれたのはアンナだった。
今さら気付いたことだけど、旦那様が私と殿下の面会を断ってくれていたから、殿下は公爵家に来れなかったのだろう。しかし、私が一人で教会に行っていることを何かのきっかけで知り、ああやって強引に接触してきたのだと思う。
もう婚約者ではないのだから、二人きりになってしまう場所では会わないようにしよう。些細な失敗が身を滅ぼすことになるのだから。
記憶喪失になる前の私のように……
教会に行かなくなった私は、邸にひきこもって執務をしたり読書をしたりして過ごしている。
そんな私の所には、最近、贈り物が多く届いていた。
「奥様。バトラー侯爵家から贈り物が届いております」
「また?」
「ええ。今日はドレスのようですわ。届けに来た商人の話では、奥様が結婚前に贔屓にしていた店の新作のドレスだそうです」
「ハァー……。メイド長、とりあえず私の部屋に運んでおいてもらえるかしら?」
「畏まりました」
バトラー侯爵家からの手紙を無視していたら、手紙の代わりに贈り物が届くようになってしまった。
宝石だったり、ドレスだったり、靴や帽子、他国の紅茶やワインなど。
こんなにたくさん送りつけてきて、私の機嫌でも取ろうってことかしら?
ドレスや宝石は、結婚する時に沢山持たせてくれたのだからこれ以上は必要ないのに。
バトラー侯爵家だけでなく旦那様も色々贈り物をしてくれるから、衣装部屋に入りきらないほどになっている。
そろそろ要らないと手紙を書くべきなのかもしれない。もしかして、手紙を私に書かせるために贈り物をしているのかも。あの人達ならありえるわ。
本当に自分達のことしか考えてないのね……
「奥様、ここだけの話なのですが……」
「アンナ、何かしら?」
「もし、ドレスや宝石が沢山あって使わないのなら、売ってしまってもいいと思います。
そのお金を孤児院や修道院に寄付するとか、内緒で貸し金庫にでも貯めておくとか。
いざという時のために、自分で自由に使えるお金があると便利かと……」
いざという時……!
私にとってのその時は、国王陛下が退位して、やっぱり離縁しようとなった時のことかしら?
旦那様は今は離縁しないと言っているけど、五年後・十年後はどうなるか分からないわ。子供ができなければ、王命でも離縁が認められる可能性もあるもの。
お飾りの妻だから今は旦那様と寝室は別にしているし、今後も一緒に寝ることはないはず。
私たちに子供はできないから、恐らく数年後には離縁ね……
さすがアンナだわ。嫁いだ男爵家で苦労して色々経験しているから、いいアドバイスをしてくれるのよね。
私は世間知らずだから、アンナから色々学ばないといけないわ。
「アンナ、ありがとう。貴女の言う通りね。
いざという時に自分のお金が必要になるから、使わないドレスと宝石は売ることにするわ。
旦那様から頂いた物はさすがに悪いから、バトラー侯爵家から頂いた物だけを売るわ。
売ったお金を全部、私の物にしてしまうと旦那様たちにバレてしまうから、売ったお金の三割程度を貸し金庫に入れて、残りは寄付しようかしら」
「それがいいかもしれませんわ。
今後もバトラー侯爵家からの贈り物は有り難く受け取りましょう!
奥様のご両親がしたくてしているのですから、問題はありません」
「そうね! 有り難く使わせてもらうことにするわ」
そうと決まったら、バトラー侯爵家から贈り物を送ってきても何とも思わなくなった。
バトラー侯爵家の贈り物は一級品ばかりなので、高い額で引き取って貰えることが驚きだった。
「奥様。こちらのドレスですが、未使用で最近出たばかりの新作の布地を使っている上に、人気のデザイナーのタグまで付いているので、かなりいい金額で引き取って貰えるみたいですわ!
こちらの宝石類も未使用で人気のブランドの宝石ですから、高く売れそうです!」
「まあ! さすがバトラー侯爵家ね。
有り難く現金にさせて貰いましょう」
アンナは商人との値段交渉も上手で、見ていて面白いやり取りをしている。
商人から言われた額で売るのではなくて、交渉することであんなに額が違ってくるのね。本当に勉強になるわ!
「ふふっ……。最近の奥様は笑顔が増えてきたようで、私は嬉しいですわ」
「アンナのおかげよ。これからも色々なことを教えてちょうだい。頼りにしているわ」
「奥様が笑顔になって下さるなら、私の貧乏生活で知り得たものは何でもお教え致します。
こんな貧乏くさい話、貴族ならみんな馬鹿にするのに……、ここまで喜んでくれるのは奥様だけですわ!」
売ることのできない紅茶やワインは、使用人たちにプレゼントしてみた。みんなとても喜んでくれて、公爵家の使用人たちとも馴染めた気がする。
使用人たちに、些細な物でもプレゼントすれば喜んでくれることを教えてくれたのはアンナだった。
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