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閑話 王弟アレクシス 

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 何も気付かない私達の所に、少し離れた場所にいた、私の護衛騎士が気不味そうにやって来る。

『殿下。お話中、申し訳ありません。』

 護衛騎士が会話を遮る時は、余程の時だ。

『構わない。どうした?』

『先程、リーナ様がいらしたのですが、泣いて戻って行かれましたが、大丈夫でしょうか?』

 リーナが来ていた?泣いていた?
 もしかして、さっきの私達の会話を聞かれたか?

 親友達の顔が蒼白になるのが分かった。

『殿下!申し訳ありません。私があのような話をしたばかりに。』

『申し訳ありません。今からリーナの所へ行き、誤解を解いて来ます。』

『私からも、リーナに謝罪してきます。申し訳ありませんでした。』

 しかし、私もその話に同調していたのは事実だ。親友達だけが悪い訳ではない。

『…いや。私もお前達の話に同調していた。私も悪い。リーナの所へは私が行ってくる。』

 しかし、リーナはいくら面会を希望しても、茶会や食事に誘っても応じてくれることはなかった。
 
 聖女という身分は国王と同等だ。リーナが拒否したら、いくら王太子の私が望んでも許されない。
 会って話がしたいと何度も依頼するが、全く取り合ってくれなかった。



 そして、満月の夜になる。

 その日、私は父である国王陛下から呼び出しを受けた。

『アンドリューよ。リーナは今夜帰る。見送りは最低限でいいと希望して、私もお前も来なくてよいと言っていた。』

 最後の別れもさせてくれないのか…?

『私は、最後に…、リーナに会いたいです。』

『アンドリュー、全て聞いた。お前達は、リーナを必ず帰すと約束しながら、気が変わり、帰したくないと話していたようだな。しかも、その会話をリーナに聞かれて、信用を失ったそうじゃないか。』

『…はい。』

『バカが。お前は自分の立場を理解してなかったようだな。しかも立ち話して聞かれるとは…。お前達のその隙や失言が、いずれ命取りになるぞ。よく反省することだ。』

 陛下は、私達が神殿に見送りに行くことを許さなかった。



 その夜。

 リーナの使用していた部屋を見に行く。
 部屋は、まだリーナが使用したままになっていた。

『リーナは、何か持って帰ったのか?』

 リーナの専属メイドに尋ねる。

『いいえ。こちらに来た時に着ていた服に着替えて帰られましたので、ドレスも宝石も、何も持って行かれませんでした。』

『そうか…。』

 クローゼットの中には、私が贈ったドレスや宝石がそのまま残っていた。
 リーナに物欲がないのは知っていた。それでも、喜んで欲しくて、必死になって選んだ物なのに。

『これらの物も、私も…、リーナにとっては捨て置く価値しかなかったってことか。』

『…殿下?』

『いや。何でもない。…リーナが気に入ってよく身につけていたネックレスがあったよな?』

『一粒ダイヤモンドのネックレスでしょうか?シンプルなデザインの物がお好きでしたから。……このネックレスですね。』

 小さなダイヤモンドが一粒だけの貧相なネックレス。これだけはリーナがよく着けていた。

『これは私が貰っていく。他のものはお前達で分けるか、好きにするとよい。』

『ありがとうございます。』



 
 今生の別れは、こうやって訪れたのだった。


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