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記憶が戻った後の話
41 ボロを出してしまった
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相変わらず公爵とは微妙な関係のままだったが、毎週必ず観劇に連れて行ってくれるようになった。
「アリー、今度の観劇も『孤高の王』でいいのか?
違う演目もあるからそのチケットを手配するか?」
「私は『孤高の王』が好きなのです。何度見ても飽きませんわ」
本当は主演のロミオが大好きなだけだが、公爵にそんなことを言える雰囲気ではなかった。
「君がそう言うなら『孤高の王』のチケットを手配しよう」
「ありがとうございます。
もし公爵様が飽きてしまったと思われるなら、私一人で行って来ますわ。お忙しいでしょうし、私一人で大丈夫ですから」
「君を一人で行かせることは出来ない。私がいない時に何かあったら嫌だし、私は君と一緒に行きたいんだ」
私と一緒に行きたいのか、私を監視したいのか、全く分からないわ。
「私はもう大丈夫ですのに……」
一緒に行くのは嫌だったが、公爵はいつもいいボックス席を取ってくれるのでそれだけは嬉しかった。
「公爵閣下、いつもご利用いただきありがとうございます。
監督と主演の俳優が閣下に挨拶がしたいと申しております。お時間よろしいでしょうか?」
それはいつものように観劇に行った時だった。毎週のように高価なボックス席を利用する私達はすっかり劇場のお得意様になっており、最近では支配人が直接席まで案内してくれるというVIP待遇になっていたのだが……
監督と主演の俳優が挨拶をしたいですって?
もしかしてロミオに会えるの?
「支配人、いつも良い席を用意してくれて感謝している。
監督と主演の俳優には、気持ちだけいただくと伝え……」
「公爵様、せっかくですから挨拶をしていただきましょう!」
「アリーがそう言うなら……」
危なかったわ。せっかく挨拶しに来てくれるのに、断ろうとするなんて……
それから数分後、監督とロミオが挨拶に来てくれた。
緊張して何を話したのかは覚えていない。でも、近くで見るロミオはとっても素敵で、ずっと聞いていたいくらいの聞き心地のいい声だった。
思ったより背が高くて細かったなぁ……
氷像のような公爵を見て緊張している姿が可愛かったわ。
「アリー、大丈夫か? ボーっとしているように見えるが」
ロミオに会うことは前世からの夢であり、念願叶った私は放心状態になっていた。
ロミオに会いたくて出待ちを繰り返したこともあった。ロミオのサインを貰うために店まで走って行ったのに、うっかり殺されてしまったこともあった。
生まれ変わって何とか生きてきて、やっと最推しに会えたのだから、普通の状態でいれるはずがない。
「やっと会えたことが嬉しくて……
ずっと好きだったのです。辛いことがあっても、彼を見ているだけで元気になれました。彼の頑張る姿は私の心の支えになりましたし、彼は私の人生の全てなのです。今日は会えて嬉しかったですわ。これで私はいつ死んでも構いません」
ロミオに会えたことが嬉しすぎて、推し活仲間に語るようなことをつい口走っていた。
「ずっと……好きだった……? 人生の全て……?」
公爵の消えそうな声にハッとした時には遅かった。
嬉しすぎて理性を失い、公爵相手についペラペラと喋ってしまったわ。
ああ……ボロを出してしまったわよ!
「あ、あの……、さっきの主演の俳優の大ファンになったので、会えて嬉しかったのです。
嬉しくてつい大袈裟なことを言ってしまいましたわ。恥ずかしいので忘れて下さい。申し訳ありませんでした」
「アリー、あの俳優は素晴らしいからファンになるのは分かる。
ただ……いつ死んでも構わないなどとは言わないでくれ」
ブルッ! 公爵から冷気が……
怒ってしまったかしら? 夫の前で他の男性を褒めるなんて、良くないわよね。
「申し訳ありませんでした」
その後、気まずい雰囲気のまま観劇を見て帰ってきた。そして邸に戻ってすぐ、公爵が人払いをしたので、今は部屋に二人きりでいる。
もしかして説教でもされるのかしら?
ずっと無言で機嫌が悪そうだったもの。やだなぁ……
「私はアリーと観劇に行けて嬉しかったんだ……」
「あ、はい。私も嬉しかったです」
公爵は弱々しい口調で何を言ってるのかしら?
説教されると思っていたから、拍子抜けしてしまうわ。
「婚約者が君で嬉しかったんだ。私は君のことが大好きだった。
でも、美しい君を前にすると私は何も出来なくて、君をガッカリさせてばかりだった。
気がつくと、私達の仲は修復不可能な状態になっていた。
君が観劇が大好きだと聞いて、一緒に行きたいと何度思ったことか……
大好きな舞台俳優がいると聞き、どんな男か見に行ったこともあった。私とはタイプの違う男で、自分は君の好みではないと知り、ショックを受けたこともあった……」
公爵は何を言っているの?
「……」
「もう隠さなくていいんだ。
アリーはアリスなんだろう?」
公爵にもバレていたらしい……
「アリー、今度の観劇も『孤高の王』でいいのか?
違う演目もあるからそのチケットを手配するか?」
「私は『孤高の王』が好きなのです。何度見ても飽きませんわ」
本当は主演のロミオが大好きなだけだが、公爵にそんなことを言える雰囲気ではなかった。
「君がそう言うなら『孤高の王』のチケットを手配しよう」
「ありがとうございます。
もし公爵様が飽きてしまったと思われるなら、私一人で行って来ますわ。お忙しいでしょうし、私一人で大丈夫ですから」
「君を一人で行かせることは出来ない。私がいない時に何かあったら嫌だし、私は君と一緒に行きたいんだ」
私と一緒に行きたいのか、私を監視したいのか、全く分からないわ。
「私はもう大丈夫ですのに……」
一緒に行くのは嫌だったが、公爵はいつもいいボックス席を取ってくれるのでそれだけは嬉しかった。
「公爵閣下、いつもご利用いただきありがとうございます。
監督と主演の俳優が閣下に挨拶がしたいと申しております。お時間よろしいでしょうか?」
それはいつものように観劇に行った時だった。毎週のように高価なボックス席を利用する私達はすっかり劇場のお得意様になっており、最近では支配人が直接席まで案内してくれるというVIP待遇になっていたのだが……
監督と主演の俳優が挨拶をしたいですって?
もしかしてロミオに会えるの?
「支配人、いつも良い席を用意してくれて感謝している。
監督と主演の俳優には、気持ちだけいただくと伝え……」
「公爵様、せっかくですから挨拶をしていただきましょう!」
「アリーがそう言うなら……」
危なかったわ。せっかく挨拶しに来てくれるのに、断ろうとするなんて……
それから数分後、監督とロミオが挨拶に来てくれた。
緊張して何を話したのかは覚えていない。でも、近くで見るロミオはとっても素敵で、ずっと聞いていたいくらいの聞き心地のいい声だった。
思ったより背が高くて細かったなぁ……
氷像のような公爵を見て緊張している姿が可愛かったわ。
「アリー、大丈夫か? ボーっとしているように見えるが」
ロミオに会うことは前世からの夢であり、念願叶った私は放心状態になっていた。
ロミオに会いたくて出待ちを繰り返したこともあった。ロミオのサインを貰うために店まで走って行ったのに、うっかり殺されてしまったこともあった。
生まれ変わって何とか生きてきて、やっと最推しに会えたのだから、普通の状態でいれるはずがない。
「やっと会えたことが嬉しくて……
ずっと好きだったのです。辛いことがあっても、彼を見ているだけで元気になれました。彼の頑張る姿は私の心の支えになりましたし、彼は私の人生の全てなのです。今日は会えて嬉しかったですわ。これで私はいつ死んでも構いません」
ロミオに会えたことが嬉しすぎて、推し活仲間に語るようなことをつい口走っていた。
「ずっと……好きだった……? 人生の全て……?」
公爵の消えそうな声にハッとした時には遅かった。
嬉しすぎて理性を失い、公爵相手についペラペラと喋ってしまったわ。
ああ……ボロを出してしまったわよ!
「あ、あの……、さっきの主演の俳優の大ファンになったので、会えて嬉しかったのです。
嬉しくてつい大袈裟なことを言ってしまいましたわ。恥ずかしいので忘れて下さい。申し訳ありませんでした」
「アリー、あの俳優は素晴らしいからファンになるのは分かる。
ただ……いつ死んでも構わないなどとは言わないでくれ」
ブルッ! 公爵から冷気が……
怒ってしまったかしら? 夫の前で他の男性を褒めるなんて、良くないわよね。
「申し訳ありませんでした」
その後、気まずい雰囲気のまま観劇を見て帰ってきた。そして邸に戻ってすぐ、公爵が人払いをしたので、今は部屋に二人きりでいる。
もしかして説教でもされるのかしら?
ずっと無言で機嫌が悪そうだったもの。やだなぁ……
「私はアリーと観劇に行けて嬉しかったんだ……」
「あ、はい。私も嬉しかったです」
公爵は弱々しい口調で何を言ってるのかしら?
説教されると思っていたから、拍子抜けしてしまうわ。
「婚約者が君で嬉しかったんだ。私は君のことが大好きだった。
でも、美しい君を前にすると私は何も出来なくて、君をガッカリさせてばかりだった。
気がつくと、私達の仲は修復不可能な状態になっていた。
君が観劇が大好きだと聞いて、一緒に行きたいと何度思ったことか……
大好きな舞台俳優がいると聞き、どんな男か見に行ったこともあった。私とはタイプの違う男で、自分は君の好みではないと知り、ショックを受けたこともあった……」
公爵は何を言っているの?
「……」
「もう隠さなくていいんだ。
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公爵にもバレていたらしい……
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