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二度目の話

残酷な言葉

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 お義兄様への気持ちを今更自覚しても、苦しいだけだった。


「私はアナとブレア公爵令息の婚約なら…、非常に悔しいが…、認めてもいいと思っている。
 あの男とは一度目は失敗したかもしれないが、今回はきっと上手くいくだろう。
 アナを深く愛してくれているのがよく分かるし、あの男なら、きっとアナを大切にしてくれるはずだ。」


 残酷な言葉だった…

 
 お義兄様は、義妹である私の幸せを願ってくれているからこそ、そのように言ってくれているのだろう。
 私はお義兄様にとって大切な…、ただの義妹だから。

「……そうですね。それは分かっております。」

「アナ、迷っているのか?あまり嬉しそうには見えないな。
 もしかして、学園に好きな男でもいるのか?私達には紹介出来ないような身分の男だとか?」

「……。」

 こんな時もお義兄様は鋭い。でも、私の好きな人が学園にいると大きな勘違いしているようだ。
 お義兄様でも勘違いすることがあることに驚きだわ。

 家族に紹介出来ない恋人がいるのはお義兄様の方なのに…
 自分がそうだったからと、私まで同じだと思わないで欲しい。


「黙るということは、アナの好きな男は学園にいるのだな。
 …ミルズ先生か?先生と生徒という関係では、誰にも話せないし、隠れて付き合わなければならないからな。
 ミルズ先生は貴族学園の教員になるくらい優秀な男かもしれないが、教員になって陛下から爵位を貰ったと言っても、領地を持たない、しがない男爵位だ。
 侯爵令嬢であるアナとは身分が違いすぎる。」

「なぜミルズ先生が出てくるのです?
 先生とは何の関係もありませんわ。」

 私がミルズ先生との関係を否定する姿を見て、お義兄様は冷ややかに笑うのだった。

 お義兄様が私にこんな顔をするなんて…

「私が何も知らないと思ったか?
 ミルズ先生は昔と違い、カッコよくて、優しくて、面倒見の良い先生として、女子生徒に大人気だと聞いている。
 人気のミルズ先生は、他の女子生徒とは一線を画しているのに、アナだけは自分の教科係に指名したりして、近くに置いているのだろう?
 資料作りだと言って、放課後に二人きりで過ごしたり、アナは何度もミルズ先生に助けられているらしいじゃないか。
 二人はお似合いだけど、身分が違いすぎるから結ばれない、可哀想な恋人達だと言われているらしいな。」

 初めて聞いた話だった…。
 これは学園でチェルシー達に聞いてみよう。

「ふふっ…。お義兄様は、そんなつまらない噂話を信じるのですか?」

 余りにも馬鹿らしい噂話に、乾いた笑いが出てきてしまう。

「アナは王太子殿下の婚約者候補の筆頭と言われていて、殿下とは仲が良かったし、陛下や王妃殿下にも気に入られていた。
 そんなアナが突然婚約者候補を辞退したのだから、他に好きな男がいるのではと思われても仕方がないだろう?
 私は、アナはブレア公爵令息に未練でもあるのかと思っていたのだが、今のアナを見る限りそうではないようだな。
 私はブレア公爵令息なら認めるが、ミルズ先生は認めることは出来ない。」

 自分が秘密の恋人と結ばれることが出来ないからって…
 それに、ミルズ先生とは何の関係もないわ!

「……認めて貰えなくて結構ですわ!」

「アナ!待ちなさい!」
 
 馬鹿らしい話をすることに耐えられなくなった私は、お茶の席から立ち上がり、その場を足速に離れた。


 アナスタシア・コールマン、17歳。
 二度目の人生で、義兄への気持ちを自覚した日は、生まれて初めて兄妹喧嘩をした日になった。



 翌日の朝食時…


「あら、アナとルークは喧嘩でもしたの?
 珍しいわね。」

「お母様、喧嘩なんてしていませんわ。
 そろそろ学園に行って来ます。
 今日は少し帰りが遅くなります。では!」

「そう…。気をつけてね。」

 言葉を交わさない私達を見て、お母様はすぐに兄妹喧嘩に気付いたらしい。
 学園から早く帰ると、お義兄様とお茶を一緒するのがお約束のようになっていたから、しばらくは早く帰ってくるのはやめよう。

 放課後は図書室でも行こうかしら。
 今日はチェルシー達に、噂話について何か知っているか聞いてみよう。


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