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二度目の話

手強い義兄

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 女狐の後に採用した家庭教師の先生は、ミルズ先生という、まだ貴族学園を卒業したばかりの18歳くらいの子爵令息だった。
 この先生は、優秀な成績で学園を卒業したらしく、家庭教師の経験を積んで、いずれは貴族学園の先生になるらしいと聞いた。

 お父様とお母様は、そんな将来有望そうなミルズ先生が私の家庭教師として来てくれたことをとても歓迎していたが、ミルズ先生の方は、大きな勘違いをしていた。
 非常にありがちな話だけど、ミルズ先生はうちの自慢のパーフェクト令息である、私のお義兄様の家庭教師になるつもりで来たのだ。
 お義兄様の優秀さは、家庭教師の先生方の中ではかなり有名らしい…。

 優秀だと有名なコールマン侯爵令息の家庭教師になるつもりで張り切っていたのに、コールマン侯爵家に来てみたら、無名のちんちくりん義妹の家庭教師の依頼だと知らされた時の先生の顔…。

 そんな顔しないでー!

 そうやって優秀すぎるお義兄様と比べられて惨めな気持ちになったから、一度目の人生の時は、卑屈になって、お義兄様との距離を感じてしまったのよー!
 今は、自他共に認めるブラコンだから平気だけど…。

「……私は高等教育が専門ですし、正直、まだ幼い令嬢の扱いには自信がないのですが、大丈夫でしょうか?」

 遠回しに、私の家庭教師はやりたくないって言っている…。
 地味に傷つくわね!!

「先生!義妹をその辺の令嬢と一緒にしないで頂けますか?
 私の義妹は優秀です。信じられないなら、一度テストをして判断して頂きたい。
 義妹はまだ10歳ですが、私と同じレベルか、それ以上のことを理解しています。外国語は私よりも出来ますし、私と一緒に勉強しているのですよ。」

 お、お義兄様ー!!大口を叩かないでー!

「…コールマン侯爵令息がそこまでおっしゃるなら、御令嬢の学力を判断する為のテストをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「勿論です。
 アナ…、私の可愛いお姫様が優秀だってことを、先生に見せてあげるんだよ。」

 サラッとお姫様とか恥ずかしいことを言っているけど…、お義兄様だから許すわ。こんな言葉を口にする人だったなんて少し驚きだけど。

 お義兄様の笑顔から圧みたいなのを感じる…。

「ペラペラ…ペラ、ペラ…」
(アナなら大丈夫。アナを馬鹿にしたことを後悔させてやるんだ。)

「ペラーペラー…ペーラ…」
(最善を尽くしますわね。)

 最近、二人だけの会話をする時、なぜかチャイー語になる私達であった。


 翌日、ミルズ先生は中等教育と高等教育の両方のテストを作ってきて、ミルズ先生の目の前で問題を解かされた。
 結果…、両方とも高得点であった。

 一度目の知識があるから当然よ。満点取れなかったのは悔しいけれど。

 お義兄様は私のテストの結果を見て、私のことを抱き上げて大喜びしていた。

「さすが私のアナだ!
 やはりアナは凄いよ!」

 あのお義兄様がここまで喜びを表に出すなんてね…。一度目の時はこんな表情は見せてくれなかったわよね。
 お義兄様が喜んでくれるのは嬉しいのだけれど、私がちんちくりんだからって、小さな子供みたいに扱われることに、少しだけ抵抗を感じる今日この頃だわ。

 そんな私達を、不本意そうな目で見つめるミルズ先生。

「先生。義妹にテストを受ける機会を与えて下さり、ありがとうございました。
 テストの結果は私が思っている以上の結果で、アナの学力は私と同等かそれ以上かもしれないということが分かりましたので、アナは私と一緒に、私の家庭教師の先生方に勉強を教えてもらうことにします。
 先生は、アナみたいな幼い令嬢に教えることに抵抗があるようですし、優秀な先生を私達が無理に縛り付けるようなことは出来ませんので、家庭教師の話はなかったことにしてください。
 先生には遠くから来て頂いて、テストでアナの学力を診断して下さったので、契約予定であった一年分の給金を謝礼としてお支払い致します。」

 え…!このお義兄様は何を言ってるの?

「お、お義兄様と一緒に勉強するのですか?
 私はそこまで出来ませんわ!」

「アナ、大丈夫だ。ここまで出来るなら、何の問題もないよ。」

 ああ…、その怖い笑顔はやめて欲しい。

「お待ち下さい!コールマン侯爵令息の話は理解しておりますが、お嬢様の学力が高いことが分かったので私は……」

「アナの学力が高いから、今更、家庭教師をしてやってもいいと言うのですか?
 散々、アナを蔑むような目で見ておきながら?」

 慌てるミルズ先生に、お義兄様がキレている…
 お義兄様は、私の名誉を守るために怒ってくれているのね。
 
「わ、私はそんなつもりでは…」

「教えを乞う者に対して、貴方のその態度はどうなのでしょうか?教育者としての資質を疑います。
 アナ。先生がお帰りになる前に、感謝の気持ちを込めて、アナがお茶を入れてあげなさい。
 このまますぐにお帰り頂くのは申し訳ないからね。」

「…はい。分かりました。
 先生、応接室にご案内致しますわ。」


 相手に反論させる隙を与えない義兄は、一度目の義兄と一緒だわ。
 我が家は、両親よりも義兄が手強いわね…

 今日だって、ミルズ先生を義兄が対応すると言ったら両親は、『ルークがいるなら、私達は居なくても大丈夫だね』って言っていたくらいだもの。13歳にして、義兄は私の立派な保護者代理になっているわね。

 ミルズ先生は、私がお茶を淹れる様子をじっと見ていたような気がするが、お茶を飲み終えるとすぐ帰っていった。


 翌日から、本当にお義兄様と一緒に勉強することになってしまい、プレッシャーで胃に穴が開きそうになりながら、必死に勉強する私であった。

 ひぃー、今回の人生は頑張らないって決めていたのにー。なんで今からガリ勉しなきゃならないのよー!


 そんな私は、あっと言う間に12歳になっていた。




 
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