上 下
14 / 41

13 夜会

しおりを挟む
 結婚式まで一か月を切った。最近の私は、社交に復帰してアストン様と夜会にも参加するようにしている。
 この男と一緒に夜会には行きたくなかったが、目的のために仕方なく参加していた。
 その目的とは、リリアンと不貞している現場をセシリア達にも目撃してもらうこと。
 私が二人の不貞を置き手紙に書いて暴露しても、アストン様とリリアンが嘘をつく可能性がある。いざという時、セシリアやマクラーレン様に証言してもらえるように、不貞現場を直接見てもらいたかったのだ。

 そしてリリアンは、私が二人の関係を諦めていると勘違いしているのか、最近は遠慮なく不貞を匂わすようなことを口にしている。
 私が苦しむ姿を見たくてわざと絡んでくるのだろうが、リリアンは泳がせておいた方がいいと判断し、放っておくことにした。
 反対にアストン様の方は、必死に私のご機嫌取りをしているようなところがある。この男は何を考えているのか本当に分からない。

 ある日、夜会に行く前に玄関ホールでリリアンと鉢合わせしてしまう。
 リリアンは婚約者がいないので、いつも親戚の令息達が交代でエスコートしてくれているが、今夜のエスコート当番になっている令息が迎えに来るのを待っているようだった。

「お義姉様。今日の夜会はまた壁の花になるのかしら?
 たまには、婚約者以外の殿方ともダンスを踊ってみてはいかがですか? それも大切な社交なのですから」

『今日の夜会もレイモンド様は私と過ごすから、お義姉様は壁の花ね。他にダンスを踊ってくれる方がいないお義姉様は可哀想……』とでも言いたいのだろう。
 今夜も二人で逢瀬の約束をしているということなのね。この女の思慮が浅くて助かったわ。

 世の奥様たちからの評価が非常に低いリリアンに、社交について語られるなんてちょっと苛つくけど、あと一か月後にはサヨナラだから、ちょっとだけ言い返して我慢しましょうか。

「心配ありがとう。リリアンこそ、今日の夜会で婚約者になってくれる人に出会えるといいわね。
 愛人ではなくて、正妻にしてくれる人を探しなさい。
 愛人は何の保障もないし、何かあれば直ぐに捨てられてしまうわよ。見た目しか取り柄がないなら尚更ね。年を取ったら、若くて美しい女性に愛人の座なんて簡単に奪われてしまうのだから。
 あらっ? ちょっと香水の匂いが強いわね。度を過ぎて臭いのは逆効果よ。
 ……では、夜会の会場でね」

「なっ、何ですってぇー!」

 あー、はっきりと言い返したらスッキリしたわ! 
 リリアンが五月蝿そうだから、私はその場からすぐに離れることにした。
 
 リリアンが出発して少ししてから、アストン様が迎えに来てくれたので、私達も夜会に出発する。
 アストン様は今日も、〝ローラと夜会に行ける私は幸せだ〟とか〝君が一番美しい〟とか〝結婚式が待ち遠しい〟とか、心にもないこと言っていて、黙って聞いているだけでも苦痛だった。

 夜会ではいつものように、アストン様とダンスを二曲続けて踊る。
 その後、今までのように二人でおしゃべりをしていると……

「ローラ。少しだけ友人と話をしてきてもいいかい?
 前に君が気分が悪くなってしまったことがあるから、すぐに戻るようにする。
 本当に申し訳ない……」

 そんな泣きそうな顔で頼まなくても、私は駄目だなんて言わないのに。
 むしろ私はこの瞬間を待っていたのよ。少し前にリリアンの姿が消えたから、そろそろ言われるとは思っていたのよね。

「ええ。それも大切な社交ですわ。ご友人達とゆっくりお話をしてきて下さいませ」

 アストン様が行った後、離れていた場所から私達を見ていたセシリアとマクラーレン様に目配せをする。
 すると、二人はアストン様の向かった方に行ったようだ。実は今日、二人が逢瀬の現場を見に行ってくれることになっているのだ。
 セシリアは足音を立てないで早歩き出来そうだからと、ヒールの低い靴を選んで履いていくと言ってとても張り切っていたのだが……、二人はすぐに戻って来た。
 二人の表情は恐ろしいほど引き攣っている。何かを見てしまったようだ。

「あの二人、最悪ね……
 私達が覗いていることも知らずに、よろしくやっていたわ」

「セシリア、嫌な思いをさせてしまってごめんなさいね。マクラーレン様も、申し訳ありませんでした」

「私は大丈夫だ。一番辛いのはシーウェル嬢だろう? 君はよく耐えている」

 マクラーレン様は口調こそ優しいが、殺気のようなものを放っている。

「ルイス。仏頂面で冷気を漂わせないでちょうだい。余計に怖いわよ。
 あっ、気分転換にフローラとダンスでもしてきたら? フローラもいつも婚約者としか踊らないけど、たまには友人とダンスを踊ってもいいと思うわよ」

 確かに、今までの私はあの男しか見てなかったから、他の男性とは全く踊っていなかった。そんな私をリリアンは馬鹿にしていたのよね……

「……シーウェル嬢。こんな時に君をダンスに誘っても大丈夫か?」

 殺気立っていたはずのシーウェル様が、恥ずかしそうにダンスのお誘いをしてくれている。
 ふふっ! こんな一面があったのね……
 
「はい。喜んで」

 私だって夜会を楽しんでもいいわよね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

もう離婚してください!

キムラましゅろう
恋愛
わたしの旦那は誉れ高き王宮精霊騎士。 優しくて甘ったれで、わたしの事が大好きな旦那。 でも旦那には遠征地ごとに妻と子どもがいるのだ。 旦那はわたしが本妻だというけれど、 ハッキリ言ってもうウンザリ。 こんな好色旦那、とっとと捨てて、新しい人生を送ってやる! だけど何故かなかなか上手くいかない……なんでやねん! ※クルシオ王国カンサイ州出身の妻が時々カンサイ州語を炸裂させます。 超ゆるゆる設定。 非リアリティ主義のお話です。 細かいツッコミは勘弁していただけると助かります。 性描写はありませんが、 性的な表現、そしてワードが出てきます。 苦手な方は回れ右をお薦めいたします。 そしてイライラ系旦那が出て来ます。 血圧が上がるのを避けたい方も 回れ右をお願いいたします。 小説家になろうさんの方では別バージョンのラストで投稿しております。

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。

葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。 それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。 本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。 ※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。 番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。 (2021/02/07 02:00) 小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。 恋愛及び全体1位ありがとうございます! ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた

まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。 その上、 「お前がフリーダをいじめているのは分かっている! お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ! お前のような非道な女との婚約は破棄する!」 私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。 両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。 それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。 私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、 「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」 「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」 と言って復縁を迫ってきた。 この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら? ※ざまぁ有り ※ハッピーエンド ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。 小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...