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05 許さない
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リリアンが私の部屋にやって来た次の日の午後、部屋のドアがノックされる。
ベッドで上半身を起こしてボーっとしていた私は、何も考えずに返事をしたのだが……
「お義姉様、レイモンド様がお見舞いに来てくださいましたわよ」
ドアを開けて入って来たのは、リリアンとレイ様だった。
「……っ!」
二人の姿を見て、私の心は一瞬で凍りついてしまう。リリアンは、レイ様の腕に自分の腕を絡めてべったりとくっ付いていたのだ。
二人のそんな姿を見せられ、私は目眩を起こしそうになってしまった。
しかし、リリアンはそんな私にお構いなく笑顔で話を続ける。
「お義姉様。せっかくレイモンド様が来て下さったので、私がお連れしましたのよ。
レイモンド様は一目でいいからお義姉様にお会いしたかったようですし、ずっと臥せっているお義姉様をとても心配されていたんですって。
臥せっていても会話くらいは出来るのですから、少しはレイモンド様にお顔を見せてあげて下さいまし」
リリアンからは悪意しか感じられなかった。
この子はここまでするのね……
「ローラ、大丈夫かい?
また痩せたか? 医者には診てもらっているのか?」
レイ様は、痩せて顔がゲッソリした私を見て驚愕の表情を浮かべている。
このような時でも、自分の腕に絡んでいるリリアンの手を振り払うことはしないのね。私の目の前で他の女性と密着していても構わないということなのかしら。
リリアンとの関係を隠す必要もないってこと?
その瞬間、自分の中で何かが弾けた……
「……レイ様。見てお分かりになると思いますが、私はまだ体調が戻っておりません。
長く臥せっていたせいでこんな姿になってしまい、みっともない自分を見られたくないという、私の馬鹿げた乙女心からお見舞いを遠慮して頂きたいと思っておりましたが……、どうやらレイ様もリリアンも分かって下さらなかったようですわね。非常に残念です……」
今の私は、自分でも驚くほど冷たい口調になっていたと思う。
すると、レイ様は悲しげに私を見つめる。
悲しいのは私なのに、この人はどうしてそんな目をするの? 本当に演技の上手い人だわ。
「ローラ……、すまない。
愛する君が心配だという自分の思いだけで、君のその気持ちまで考えていなかった。
早く元気になってくれ。私達の結婚まであと三ヶ月だろう? 君と夫婦になる日を、私はとても楽しみにしているんだ」
「そうですね……。私達は本当に結婚するのですよね」
「……ローラ?」
こんな状態で結婚の話をされた瞬間、私は将来を絶望してしまった。
しかし落ち込みそうになる私に関係なく、リリアンはまた悪意のこもった言葉を投げかけてくる。
「お義姉様ってば、本当に酷いわぁ。
レイモンド様は心配して来て下さっているのに、そんなに冷たい態度を取るなんて……
私なら愛する婚約者にそんな突き放すようなことは言わないわ。
レイモンド様、お義姉様は私に対してもいつも冷たいのですよ」
レイ様に困ったように笑いかけるリリアン。
「人って、体が弱った時に本性が出るものなのですね。たとえ、周りから淑女と褒め称えられるお義姉様であっても、こんな時はただの一人の女性だということなのですね。
あっ、だからレイモンド様にお会いしたくなかったのでしょうか?
そんなお義姉様のお気持ちを察することが出来なくて申し訳ありませんでした」
さっさとレイ様と婚約を解消しろと言いたいのかしら?
私の代わりにリリアンがレイ様と婚約するから、私は必要ないと?
貴族の結婚は家同士の契約みたいなものだから、シーウェル家の娘なら私じゃなくてもいいということ?
「……気分が悪いわ。そろそろお帰り頂いても?」
「ローラ……、本当にごめん。
君が元気になる日をずっと待ってる。
愛してるよ」
こんな時に〝愛してる〟と軽々しく言われると、こんなに惨めな気持ちになるのね。
私の部屋を出て行った二人は、今頃、私のことをせせら笑っていることだろう。
リリアンとは気が合わなくても、血は繋がってなかったとしても、一応は家族だから困っている時は手を差し伸べようとしたし、道を外れそうな時はそれとなく注意を促すようにしていた。
リリアンが何かをすると、義母が悲しそうにしていたし、義母がこの伯爵家とリリアンのために頑張っているのを知っていたから。
いつか義母や私の気持ちが伝わってくれる日が来ると信じて、多少のことは目をつぶっていたけど、それはもうやめよう。
お義母様、ごめんなさい。私はもうあの女を義妹だと思うのはやめます。
そしてレイモンド・アストン。私は貴方を許さない……
ベッドで上半身を起こしてボーっとしていた私は、何も考えずに返事をしたのだが……
「お義姉様、レイモンド様がお見舞いに来てくださいましたわよ」
ドアを開けて入って来たのは、リリアンとレイ様だった。
「……っ!」
二人の姿を見て、私の心は一瞬で凍りついてしまう。リリアンは、レイ様の腕に自分の腕を絡めてべったりとくっ付いていたのだ。
二人のそんな姿を見せられ、私は目眩を起こしそうになってしまった。
しかし、リリアンはそんな私にお構いなく笑顔で話を続ける。
「お義姉様。せっかくレイモンド様が来て下さったので、私がお連れしましたのよ。
レイモンド様は一目でいいからお義姉様にお会いしたかったようですし、ずっと臥せっているお義姉様をとても心配されていたんですって。
臥せっていても会話くらいは出来るのですから、少しはレイモンド様にお顔を見せてあげて下さいまし」
リリアンからは悪意しか感じられなかった。
この子はここまでするのね……
「ローラ、大丈夫かい?
また痩せたか? 医者には診てもらっているのか?」
レイ様は、痩せて顔がゲッソリした私を見て驚愕の表情を浮かべている。
このような時でも、自分の腕に絡んでいるリリアンの手を振り払うことはしないのね。私の目の前で他の女性と密着していても構わないということなのかしら。
リリアンとの関係を隠す必要もないってこと?
その瞬間、自分の中で何かが弾けた……
「……レイ様。見てお分かりになると思いますが、私はまだ体調が戻っておりません。
長く臥せっていたせいでこんな姿になってしまい、みっともない自分を見られたくないという、私の馬鹿げた乙女心からお見舞いを遠慮して頂きたいと思っておりましたが……、どうやらレイ様もリリアンも分かって下さらなかったようですわね。非常に残念です……」
今の私は、自分でも驚くほど冷たい口調になっていたと思う。
すると、レイ様は悲しげに私を見つめる。
悲しいのは私なのに、この人はどうしてそんな目をするの? 本当に演技の上手い人だわ。
「ローラ……、すまない。
愛する君が心配だという自分の思いだけで、君のその気持ちまで考えていなかった。
早く元気になってくれ。私達の結婚まであと三ヶ月だろう? 君と夫婦になる日を、私はとても楽しみにしているんだ」
「そうですね……。私達は本当に結婚するのですよね」
「……ローラ?」
こんな状態で結婚の話をされた瞬間、私は将来を絶望してしまった。
しかし落ち込みそうになる私に関係なく、リリアンはまた悪意のこもった言葉を投げかけてくる。
「お義姉様ってば、本当に酷いわぁ。
レイモンド様は心配して来て下さっているのに、そんなに冷たい態度を取るなんて……
私なら愛する婚約者にそんな突き放すようなことは言わないわ。
レイモンド様、お義姉様は私に対してもいつも冷たいのですよ」
レイ様に困ったように笑いかけるリリアン。
「人って、体が弱った時に本性が出るものなのですね。たとえ、周りから淑女と褒め称えられるお義姉様であっても、こんな時はただの一人の女性だということなのですね。
あっ、だからレイモンド様にお会いしたくなかったのでしょうか?
そんなお義姉様のお気持ちを察することが出来なくて申し訳ありませんでした」
さっさとレイ様と婚約を解消しろと言いたいのかしら?
私の代わりにリリアンがレイ様と婚約するから、私は必要ないと?
貴族の結婚は家同士の契約みたいなものだから、シーウェル家の娘なら私じゃなくてもいいということ?
「……気分が悪いわ。そろそろお帰り頂いても?」
「ローラ……、本当にごめん。
君が元気になる日をずっと待ってる。
愛してるよ」
こんな時に〝愛してる〟と軽々しく言われると、こんなに惨めな気持ちになるのね。
私の部屋を出て行った二人は、今頃、私のことをせせら笑っていることだろう。
リリアンとは気が合わなくても、血は繋がってなかったとしても、一応は家族だから困っている時は手を差し伸べようとしたし、道を外れそうな時はそれとなく注意を促すようにしていた。
リリアンが何かをすると、義母が悲しそうにしていたし、義母がこの伯爵家とリリアンのために頑張っているのを知っていたから。
いつか義母や私の気持ちが伝わってくれる日が来ると信じて、多少のことは目をつぶっていたけど、それはもうやめよう。
お義母様、ごめんなさい。私はもうあの女を義妹だと思うのはやめます。
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