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62 誕生日

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 ケイヒル卿が旅立った後、マリアは今まで以上に仕事に没頭していた。
 休日は寂しさや不安を紛らわせるために、図書館で勉強したり、街の孤児院の手伝いをしたりして過ごす。

 ケイヒル卿が旅立って一か月が経過したある日、マリアは十九歳の誕生日を迎える。誕生日といっても、田舎の貧しい農民の娘として育ってきたマリアは、盛大に誕生日を祝ってもらったことなどない。両親が服をプレゼントしてくれたことや、当時付き合っていたテッドが花を摘んできてくれたことを覚えているくらいだ。
 だから、誕生日といっても普通に仕事をして、いつも通りに過ごすだけだと思っていたのだが……

「マリア、やっと戻ってきた!
 早く来てごらん。マリアに贈り物が届いているんだよ」

 仕事を終えて寮に帰ると、管理人のおばさんに声を掛けられ、管理人室に連れていかれる。すると、そこには沢山のプレゼントらしき箱が並べられていた。

「贈り主はケイヒル様だって! 良かったねぇ。早く開けてみるといいよ。
 あっ、そっちの箱はケーキが入っているみたいだから、気を付けて運ぶんだよ」

「……ケーキ? こんなに大きな箱の?」

 それはケーキが大好きなマリアのために、ケイヒル卿が王都の有名な店に注文したものであった。
 以前、マリアが花束よりもケーキやお菓子を貰った方が嬉しいと話したことをケイヒル卿は覚えており、マリアの誕生日プレゼントを手配してから戦地に旅立って行ったようだ。

「いくら私がケーキが好きでも、こんな大きなケーキは食べ切れないわよ……っ」

 ケイヒル卿への恋しさが溢れ出し涙が流れてくる。
 そんなマリアを管理人のおばさんは優しく抱きしめてくれたのだった。
 結局、大きなケーキは食堂のおじさんが綺麗にカットしてくれ、寮に住んでいるメイド仲間達と分けて食べた。

 夜、一人でいる時に他のプレゼントを開けてみる。大きな箱にはワンピースやドレス、中くらいの箱には靴、小さな箱にはダイヤモンドのネックレスやブレスレットが入っており、メッセージカードが付いていた。

『愛しいマリアへ
 誕生日おめでとう。私のことを忘れないように、沢山プレゼントを用意したよ。
 必ず帰るから、それまで待っていてくれ』

 愛する人からの誕生日プレゼントはとても嬉しい。しかし、今のマリアは豪華なプレゼントよりケイヒル卿に会いたくてたまらなかった。ケイヒル卿にお礼の手紙を書いた後、ダイヤモンドの入っている箱を抱きしめてマリアは眠りについた。

 マリアの誕生日を過ぎて数日後、国王陛下は関係の悪化していたシーズ国に宣戦布告し、国中が緊張状態になる。
 マリアはついにその日がきてしまったのかと、体から力が抜けていくような気分になる。今の自分に出来るのは、愛する人の無事を祈ることだけ。その日から、休みの日には教会に通うことがお決まりの過ごし方になった。


◇◇


「ご機嫌よう。貴女が平民出身のダイアー子爵令嬢かしら?」

 公爵夫人がレストランでパーティーをしている間、使用人用の待合室で待機していると、初対面と思われる令嬢から話しかけられる。護衛騎士とメイドを引き連れ、豪華な衣装を身にまとうご令嬢は、使用人用の待合室では明らかに浮いていた。

「……ご機嫌よう。私はマリア・ダイアーと申します。ご令嬢のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 マリアはご令嬢が自分よりも身分の高い人だと瞬時に判断し、立ち上がって丁寧にカーテシーをする。

「私はアマンダ・ホーリスよ。平民出身の貴女には分からないかもしれないけれど、ホーリス伯爵家の一人娘とでも言えば分かるかもしれないわね」

 ご令嬢はマリアを値踏みするかのように、頭の天辺から足の爪先までジロジロと見つめている。嫌悪を感じる嫌な視線だった。

「田舎の農民の娘が運良く公爵夫人に気に入られ、貴族の養子になったからと調子に乗らないことね。上手くやっているつもりでも、平民の血筋であることには変わりないの。
 アンドリュー様はこんな小娘のために、武功を立てたいと戦地に旅立ってしまわれたなんて……」

 このご令嬢はアンドリュー様をお慕いしていたのね。

「こんな平民より私を選んでくださっていたなら、戦争になんて行かなくて済んだのに……
 アンドリュー様に何かあったら貴女のせいよ。私は貴女を許さない!」

「……っ」

 マリアをギロっと睨みつけたご令嬢は、そのまま部屋から出て行ってしまった。
 







※私生活が忙しく、なかなか更新できなくて申し訳ありません。
  
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