こっぴどく振られたこともあったけど、今はけっこう幸せです

せいめ

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59 告白

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 マリアは沈んだ気持ちのまま応接室に入る。見合い相手の顔を見る余裕なんてなかった。
 相手が誰なのか分からないが、貴族令嬢として初対面の縁談相手にカーテシーをして挨拶をしようとした時……

「マリア、緊張しなくて大丈夫だ。早く座りなさい」

 子爵から座るように言われて顔を上げたマリアの目に入ってきたのは、仕事で毎日顔を合わせているケイヒル卿だった。

「……!」

 どうしてケイヒル様が? この方が私の縁談相手だったの?

「マリアったら、ケイヒル卿を見てそんなに驚いたのかしら?
 仕事でいつもお世話になっているんでしょう? エスコートをしていただいたり、親しくさせてもらっているんだから、そんなに緊張しなくてもいいじゃないの」

 義母はケイヒル卿を歓迎しているように見えた。
 四人でお茶をした後、義両親は二人きりで話をする時間も必要だからと応接室から出て行ってしまう。ドアは開いたままだが、応接室でケイヒル卿と二人きりになったことで、マリアは心臓がドキドキしていた。
 何か話さなくてはいけないと思うが、何から話せばいいのか分からない。

 こんな時、初対面の人なら職業や年齢、趣味など何でも聞けるのに、いつも職場で顔を合わせているケイヒル卿に今更そんなことは聞けないし、困ったわ……

 その時、ケイヒル卿からマリアに話しかけてくれた。

「マリアさん、今日は会ってくれて感謝している。
 私はずっと……君のことが好きで……、公爵閣下や奥様が君に縁談を勧めていると聞き、君を諦められない私はダイアー子爵様に君との婚約……いや、まだ君の心が分からないから、まずは友人として親しく付き合うことを認めてもらえないかと許可を取りにきた。
 君があまり結婚に乗り気でないことも、騎士が苦手だということも知っている。だが、私が頑張る機会をくれないか? 私は君に認められたいんだ」

「……ケイヒル様が私を好き?」

 何かの聞き間違いだと思った。自分がこんな凄い人に告白されるわけがないのだから。
 疑い深くなっているマリアを、ケイヒル卿は熱のこもった目で見つめている。

「ずっとマリアさんを見ていた。でも、君とは身分が違うから気持ちを伝えることが出来なかった。
 君が子爵家の養子になり、身分に問題がなくなっても、恋愛や結婚に興味がなさそうにしていたし、騎士が苦手だと聞いて告白する勇気が出せなかった。
 だが、君の縁談話を聞いて居ても立っても居られなくなり、気がつくと実家の両親に君に婚約を申し込みに行きたいと相談していた」

 ケイヒル卿がここにいるということは、両親から許可を得ることが出来たのだろう。
 しかし、マリアは素直に喜ぶことが出来なかった。

「私はケイヒル様と仕事をさせていただくことが多いので、貴方様がどれほど素晴らしい方なのかを知っているつもりです。
 ケイヒル様は優秀な騎士で、婿に望まれる貴族が多いとお聞きしております。私のような元平民より、貴方に相応しい方がいらっしゃると思います。私と結婚しても何の利益にもなりません。
 ケイヒル様は……平民になる覚悟はお持ちですか?」

 私と結婚してもケイヒル卿には何の得にもならない。子爵家の三男で跡取りでないケイヒル卿は、自分と結婚したら平民になってしまう。貴族令嬢から人気の方を平民にするのは申し訳ない。
 マリアはケイヒル卿にあえて厳しい質問を投げかけた。
 しかし、ケイヒル卿は険しい表情でいるマリアにふわりと笑いかける。

「私は生まれた時から子爵家の三男として育てられている。跡取りの兄と比べて自由にさせてもらったが、いずれは家を出て平民になるという覚悟を持って生きてきた。
 そんな私には、元平民で真面目な働き者であるマリアさんが側にいて欲しい。ワガママな貴族令嬢では無理なんだよ」

 その言葉を聞いてマリアの胸が高鳴る。
 憧れの人からそんなことを言ってもらえて嬉しかったのだ。

「ケイヒル様、私は結婚を約束していた騎士をしている元恋人に裏切られ、恋愛はもう懲り懲りだと思って生きてきました。騎士という職業の人はカッコよくてモテるので、また裏切られたらどうしようという不安があります。何かあれば、疑い深い私は貴方に迷惑をかけてしまうかもしれません……」

 気付くとマリアは、自分の過去をケイヒル卿に打ち明けていた。

「マリアさんは、まだその元恋人に未練でもあるのか?」

「いえ、未練は一切ありません。今では別れてよかったと思っております」

「それなら何の問題もない。私は君以外の女性に興味がないから裏切ることは絶対にしない。だから、私との将来を考えてくれないか?」

「……はい。よろしくお願い致します」

 マリアはケイヒル卿の手を取ることに決めた。
 その後、義両親に婚約前提でお付き合いをしていきたいと報告するが、その時に同席した義祖母のカミラが黙っていなかった。

 
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