こっぴどく振られたこともあったけど、今はけっこう幸せです

せいめ

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54 何かがおかしい

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 天気のいい休日、図書館でドロドロの恋愛小説を読んでいると横から声を掛けられる。

「隣の席は空いてますか?」

「はい。空いてます」

 一人で来ていたのでマリアの隣の席は空いていた。読書に夢中になっていたので、話しかけてきた人物の顔すら確認せず、特に何も考えないで席が空いていると答えてしまった。
 隣に座ってきた人物からフワッと男性らしい香水の匂いがしてきて、その時にハッとする。平日の図書館は空いていて席はガラ空きなのに、なぜこの人は私の隣に座るのかしらと。

 もしかして変な人……? この本はもう読み終わるから、本棚に戻した後に別の席に移動しようかしら。

 本を読み終えたので、スッと席を立ち上がった瞬間……

「もうお帰りですか?」

 隣の席の男性から話しかけられる。
 本当は読み終えた本を戻した後に違う本を選び、席を移動しようとしていたが、そんなことは言えなかった。

「はい。読み終えたので帰ります。失礼します」

 その時に話しかけてきた男性の顔を初めて見たが、目の覚めるような美青年だった。

「待って下さい。よかったら、一緒にお茶でも行きませんか?」

 その言葉を聞いた瞬間、マリアは不思議と冷静になる。この美青年は、田舎者の私を狙う詐欺師に違いないと思ったからだ。
 テッドから二股をかけられたことやダレルから天パの田舎娘と言われたこと、ドリスからバカにされた経験などがあり、マリアは自分に自信がなかった。こんな自分に近づいてくる人は何か裏があると思って警戒心を抱いてしまう。

「ごめんなさい。用事があるので失礼させていただきます」

 それだけを言ってサッとその場を離れて図書館から出るが、その美青年は外に出た瞬間、また声をかけてくる。

「お茶は無理でも家まで送らせて下さい。少しでいいので貴女とお話がしたいのです」

 しつこい男だわ……
 こんな私に必死になるなんてますます怪しい。やっぱり詐欺師にしか見えない。

「急いでいるのでごめんなさい!」

 早歩きでその場を離れる。しかし、美青年はなかなか諦めないようで、しばらくはマリアの後ろをついて来る。その後、走って逃げたら諦めたようでいなくなっていた。

 また違う日に街で買い物をしていると、今度は前とは違ったタイプの美青年に声を掛けられる。マリアの中で美青年は詐欺師か遊び人にしか見えず、相手にせずに逃げるようにして帰って来てしまった。
 最近、何かがおかしいと感じていると、今度は仕事の昼休み中に公爵家で文官として働いている貴族令息から話しかけられる。

「マリア、ちょっといいか?」

 顔は知っていたが、会話をしたことすらないのに馴れ馴れしく話しかけられて何だか嫌な感じがした。しかし相手は貴族令息なのでぞんざいに扱うことは出来ない。
 令息はマリアを人の少ない場所に連れて行こうとする。これはヤバそうだと感じたマリアは用件を聞くが、何だか様子がおかしい。

「黙ってついて来てくれるか?」

 ますます怪しいわ……

「そろそろ仕事に戻らなくてはならないので、用件をお伺いしたいのです」

 すると令息は面倒そうな表情をした後に驚くことを口にする。

「私の父がお前に会いたがっているんだ。男爵家の当主が平民のマリアに会うために裏口で待っている。有り難く思え!」

「私のような平民が男爵様とお会いしなくてはならない理由が分からないのですが」

「煩い! 黙ってついてくればいいんだ」

 この令息は穏やかな文官に見えていたけど、実はキレやすくて最悪な性格だったのね……
 どうしよう? この男を見る限り父親も最悪そうだから会いたくない。

「そろそろお嬢様の所に戻る時間なのです。
 申し訳ありませんが失礼い……痛っ!」

 理由をつけて戻ろうとするが、令息から腕を強く掴まれてしまう。
 
「ここまで来て逃げようだなんて思うな。
 お前はお嬢様に気に入られているんだから、少しくらい遅れても大丈夫だろう?
 私の父がお前に有り難い話をするんだ。早くこい!」

 理由をつけて戻ろうとするが、令息から腕を強く掴まれてしまう。
 ここまでするなんて、やっぱり何かがおかしい。

「離して下さいませ!」

 本気で困っていたその時……

「待て! マリアさんをどこに連れて行くんだ?」

 声をする方に目をやると、そこには息を切らせたケイヒル卿とダレルがいたのであった。
 
 
 
 
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