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49 公爵家

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 公爵家に戻ったマリアを出迎えたのは、クレアお嬢様と仲間のメイド達……だけではなかった。
 そこにはクレアお嬢様の両親である公爵と公爵夫人の他に、その側近や家令にメイド長までいたのだ。
 平民のマリアから見たら、公爵や公爵夫人はまともに顔を見ることすら許されない人達だ。マリアは公爵家に戻れた嬉しさより、緊張の方を強く感じてしまい、表情がこわばってしまう。

 今さらだけど、着替えや化粧品を買って良かったー。
 ボロボロの服とボサボサの髪、すっぴんの貧相な顔だったら、恥ずかしくて馬車から降りれなかったかもしれない。
 見つけてくれたのが幼馴染のテッドで良かった。あんな酷いカッコを公爵家の関係者には見せられないもの。

 馬車から降りるマリアに手を貸してくれたのはケイヒル卿で、降り立ったマリアが姿勢を正して挨拶をしようとした瞬間……

「マリアー、よく帰ってきてくれたわ!
 ずっと待っていたのよ。なかなか見つからなくて、もうこの世にいないのかと思ったんだから。本当に無事で良かったわ!」

 テレサ仕込みのそこそこ綺麗だと褒められるカーテシーをして、公爵や公爵夫人にキチッと挨拶をしようとしたのに、勢いよくやって来たクレアお嬢様に強く抱きしめられ、身動きが取れなくなってしまう。

「お嬢様……、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。ただいま戻りました」

「グズッ……、こんなに痩せてしまって……苦労したのね」

 人目を憚らず、泣きながらマリアを抱きしめるお嬢様。とても感動的な再会になったはずだが……

「クレア、落ち着きない! マリアが困っているわよ」

 公爵夫人にピシャリと言われ、その場は静まり返る。

「マリア、娘が大変世話になった。二度も助けてくれたことに感謝している。
 お前の実家には褒美を与えた。マリア個人の褒美も何がいいのか考えておくといい。これからもクレアを頼んだぞ」

 マリアは初めて公爵から声を掛けていただいた。その辺にいるおじさんとは全然違うオーラを纏っている公爵は、貫禄のある美丈夫だった。
 マリアが何かを言う前に、忙しい公爵は行ってしまった。

「マリア、長い逃亡生活で疲れがあるでしょうから、しばらく休みを与えます。随分と痩せてしまったようだし、栄養のある食事を出すように寮の方には連絡しておくわ。
 娘を守ってくれて感謝しているわ。これからもクレアの側にいてあげて。
 クレア、いつまでもマリアにくっついていたら、痩せすぎたマリアが折れてしまうわよ。
 メイド長、マリアを頼みました」

「畏まりました」

 公爵夫人はニコッと微笑んだ後、執務に戻っていった。


◇◇


 久しぶりに寮に戻ったマリアを、寮の管理人のおばさんが抱きしめてくれた。
 その後、食堂に連れて行かれて食べきれないほどのご馳走様を出される。

「こんなに痩せてしまうほど、沢山苦労したんだね……
 奥様から、沢山食べさせるようにと言われているから、しっかり食べて早く元気になりな」

「おばさん、ありがとうございます」

 公爵家に戻ってきて、顔を合わせた人達みんながマリアが痩せてしまったとか、血色が悪いとか言って心配してきた。
 自分が痩せてしまったことに気付いていなかったが、部屋に戻って着替えた時に、寮で着ていたワンピースがブカブカになっていることに気付く。
 緊張の連続で食が細くなっていたのと、世話になったカールとダニーの家は貧しく、あまりいい食事がとれなかったということもあり、みんなが心配するほど痩せてしまったらしい。
 
 貧しいのに私を家に置いてくれた二人は優しい人達だった。あんな事があったけど、最後に挨拶が出来て良かったな……

 その日の夜は、アンがマリアの肌や髪、爪のお手入れをしてくれた。
 マリアを磨くのが趣味になっていたアンは、痩せて髪やお肌がボロボロになって帰ってきたマリアを見て涙を流していた。

「せっかく私がマリアを綺麗にしたのに、こんなになってしまうなんて。
 一体、何があったんだい? 誰かに乱暴されたりしなかっただろうね?」

 泣きながら怒るアンを見て、相当な心配をかけたのだと感じた。

「運が良かったようで、乱暴な人に会う前に逃げることが出来ました。でも、逃亡生活は自分が気付いていなかっただけで、実は大きなストレスになっていたようですね。
 ここに帰ってこれて良かったです。アンさん、心配をかけてごめんない」

「無事に帰ってきてくれたからいいよ。それより、お嬢様の専属メイドは綺麗じゃなければならない。今日から毎晩、私が磨いてやるからね」

 その日の夜は積もる話が沢山あったので、また遅くまでアンと話し込んでしまった。


 
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