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32 閑話 テッド
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テッドは王都のある大病院に入院していた。先日まで辺境の病院にいたが、設備の整っているこの病院に仲間数人と転院したのだ。
「テッド、怪我が治ったらリハビリをするのか?」
隣のベッドに入院していた仲間の騎士が心配そうに尋ねてくる。
騎士団の遠征で魔物討伐に参加したテッドは、仲間の騎士を庇った時に大怪我を負ってしまう。リハビリをすれば良くなるかもしれないが、騎士として復職するのは難しいと診断されていた。
「リハビリはするが、騎士でいるかはまだ迷っている。職務中の事故だから騎士は無理でも騎士団で働かせてくれるらしいし、給与も補償してくれるって騎士団長が言ってくれた。俺は騎士に誇りは持っていたけど、給与を補償してくれるなら騎士団の裏方の仕事でもいいと思っている」
実家の家族に仕送りをしたくて騎士になったのに、死んでしまったら仕送りは出来なくなってしまう。死を意識するほど魔物討伐は過酷だった。
「……そうか。俺はテッドが騎士団に残ってくれるならそれだけで嬉しいよ。これからもよろしくな」
「ああ! よろしく」
騎士団に入団したばかりの頃は、田舎育ちのテッドをバカにしてくる同僚が沢山いて、人間関係に悩んでばかりだった。しかし、真面目に仕事をこなすようにしていたら、気の合う仲間も出来てそれなりに充実した日々を過ごせるようになっていた。
恋人のドーリィーも我儘なところはあるがとっても可愛いし、遠征に行く前には彼女の両親に挨拶を済ませ、交際を認めてもらえることになった。あとは結婚に向けてお金を貯めるだけ。
お金のかかっていたドーリィーとのデートは、弁当を持ってピクニックに行ったり、無料で入れる植物園を散歩したり、高台に夜景を見に行ったりと節約デートにしてもらい、外食を控えてコツコツと貯金に回すようにしていた。高級なレストランやお洒落なカフェ、ショッピングが好きなドーリィーは、少し不満そうにしていたが、結婚して子供ができたら更にお金が必要になるから、今のうちに我慢を覚えてもらいたいと思っている。
一年後には、正式にプロポーズをしたいとテッドは考えていたのだが……
「……騎士に復帰出来るか分からないですって?」
それは、お見舞いに来てくれたドーリィーに医師からの診断を打ち明けた時だった。
さっきまではニコニコして『テッドー、会いたかったわ。私がお世話するから大丈夫よ』って言ってたのに、今のドーリィーは先程とは別人のような表情になっていて、テッドはそんな彼女の顔を見たのは初めてだった。
「騎士に復帰出来なくても大丈夫だ。
今まで通りに騎士団で働かせてくれるらしいし、給与も補償してくれる。だから何の心配もないよ」
ドーリィーは将来を心配しているようだが、これからも騎士団で働けることを伝えれば安心するだろう。
テッドはそう思って話をしたのだが、ドーリィーの反応は意外なものだった。
「私の子供の頃からの夢はね……、強くてカッコいい騎士様のお嫁さんになることだったわ。そして旦那様には出世してもらい、騎士の爵位をもらって貴族になることだったのよ。
騎士団で働く、ただの団体職員のお嫁さんになるつもりはないの。
テッド……、残念だけど私達は結ばれない運命のようね。
今までありがとう。サヨナラ!」
「……」
こんな感じで、結婚まで考えていたドーリィーとはあっさりと終わりを迎えたのだった。
落ち込んだテッドを励ましてくれたのは、上官や同僚達だった。身を挺して仲間を庇い、大怪我を負ったテッドを騎士団の仲間たちは大切に思ってくれていたのだ。
辛いリハビリをして日常生活を送れるようになったテッドは、退院後に長い休暇を与えられた。休みを取って故郷に帰省でもすれば元気になるだろうという上官からの配慮からだった。
しかし、マリアやドーリィーとのことがあり、テッドは気まずさから帰省する気にはなれず、騎士団の寮の自室にこもる生活が続く。
もう騎士団も辞めて、誰も知らない場所に行ってしまおうか……
そう思ったテッドがドンっと壁にもたれかかった瞬間、バサバサっと棚の上から何かが降ってくる。
それは開封すらしていないマリアからの手紙だった。
「テッド、怪我が治ったらリハビリをするのか?」
隣のベッドに入院していた仲間の騎士が心配そうに尋ねてくる。
騎士団の遠征で魔物討伐に参加したテッドは、仲間の騎士を庇った時に大怪我を負ってしまう。リハビリをすれば良くなるかもしれないが、騎士として復職するのは難しいと診断されていた。
「リハビリはするが、騎士でいるかはまだ迷っている。職務中の事故だから騎士は無理でも騎士団で働かせてくれるらしいし、給与も補償してくれるって騎士団長が言ってくれた。俺は騎士に誇りは持っていたけど、給与を補償してくれるなら騎士団の裏方の仕事でもいいと思っている」
実家の家族に仕送りをしたくて騎士になったのに、死んでしまったら仕送りは出来なくなってしまう。死を意識するほど魔物討伐は過酷だった。
「……そうか。俺はテッドが騎士団に残ってくれるならそれだけで嬉しいよ。これからもよろしくな」
「ああ! よろしく」
騎士団に入団したばかりの頃は、田舎育ちのテッドをバカにしてくる同僚が沢山いて、人間関係に悩んでばかりだった。しかし、真面目に仕事をこなすようにしていたら、気の合う仲間も出来てそれなりに充実した日々を過ごせるようになっていた。
恋人のドーリィーも我儘なところはあるがとっても可愛いし、遠征に行く前には彼女の両親に挨拶を済ませ、交際を認めてもらえることになった。あとは結婚に向けてお金を貯めるだけ。
お金のかかっていたドーリィーとのデートは、弁当を持ってピクニックに行ったり、無料で入れる植物園を散歩したり、高台に夜景を見に行ったりと節約デートにしてもらい、外食を控えてコツコツと貯金に回すようにしていた。高級なレストランやお洒落なカフェ、ショッピングが好きなドーリィーは、少し不満そうにしていたが、結婚して子供ができたら更にお金が必要になるから、今のうちに我慢を覚えてもらいたいと思っている。
一年後には、正式にプロポーズをしたいとテッドは考えていたのだが……
「……騎士に復帰出来るか分からないですって?」
それは、お見舞いに来てくれたドーリィーに医師からの診断を打ち明けた時だった。
さっきまではニコニコして『テッドー、会いたかったわ。私がお世話するから大丈夫よ』って言ってたのに、今のドーリィーは先程とは別人のような表情になっていて、テッドはそんな彼女の顔を見たのは初めてだった。
「騎士に復帰出来なくても大丈夫だ。
今まで通りに騎士団で働かせてくれるらしいし、給与も補償してくれる。だから何の心配もないよ」
ドーリィーは将来を心配しているようだが、これからも騎士団で働けることを伝えれば安心するだろう。
テッドはそう思って話をしたのだが、ドーリィーの反応は意外なものだった。
「私の子供の頃からの夢はね……、強くてカッコいい騎士様のお嫁さんになることだったわ。そして旦那様には出世してもらい、騎士の爵位をもらって貴族になることだったのよ。
騎士団で働く、ただの団体職員のお嫁さんになるつもりはないの。
テッド……、残念だけど私達は結ばれない運命のようね。
今までありがとう。サヨナラ!」
「……」
こんな感じで、結婚まで考えていたドーリィーとはあっさりと終わりを迎えたのだった。
落ち込んだテッドを励ましてくれたのは、上官や同僚達だった。身を挺して仲間を庇い、大怪我を負ったテッドを騎士団の仲間たちは大切に思ってくれていたのだ。
辛いリハビリをして日常生活を送れるようになったテッドは、退院後に長い休暇を与えられた。休みを取って故郷に帰省でもすれば元気になるだろうという上官からの配慮からだった。
しかし、マリアやドーリィーとのことがあり、テッドは気まずさから帰省する気にはなれず、騎士団の寮の自室にこもる生活が続く。
もう騎士団も辞めて、誰も知らない場所に行ってしまおうか……
そう思ったテッドがドンっと壁にもたれかかった瞬間、バサバサっと棚の上から何かが降ってくる。
それは開封すらしていないマリアからの手紙だった。
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