こっぴどく振られたこともあったけど、今はけっこう幸せです

せいめ

文字の大きさ
上 下
32 / 62

32 閑話 テッド

しおりを挟む
 テッドは王都のある大病院に入院していた。先日まで辺境の病院にいたが、設備の整っているこの病院に仲間数人と転院したのだ。

「テッド、怪我が治ったらリハビリをするのか?」

 隣のベッドに入院していた仲間の騎士が心配そうに尋ねてくる。
 騎士団の遠征で魔物討伐に参加したテッドは、仲間の騎士を庇った時に大怪我を負ってしまう。リハビリをすれば良くなるかもしれないが、騎士として復職するのは難しいと診断されていた。

「リハビリはするが、騎士でいるかはまだ迷っている。職務中の事故だから騎士は無理でも騎士団で働かせてくれるらしいし、給与も補償してくれるって騎士団長が言ってくれた。俺は騎士に誇りは持っていたけど、給与を補償してくれるなら騎士団の裏方の仕事でもいいと思っている」

 実家の家族に仕送りをしたくて騎士になったのに、死んでしまったら仕送りは出来なくなってしまう。死を意識するほど魔物討伐は過酷だった。

「……そうか。俺はテッドが騎士団に残ってくれるならそれだけで嬉しいよ。これからもよろしくな」

「ああ! よろしく」

 騎士団に入団したばかりの頃は、田舎育ちのテッドをバカにしてくる同僚が沢山いて、人間関係に悩んでばかりだった。しかし、真面目に仕事をこなすようにしていたら、気の合う仲間も出来てそれなりに充実した日々を過ごせるようになっていた。

 恋人のドーリィーも我儘なところはあるがとっても可愛いし、遠征に行く前には彼女の両親に挨拶を済ませ、交際を認めてもらえることになった。あとは結婚に向けてお金を貯めるだけ。
 お金のかかっていたドーリィーとのデートは、弁当を持ってピクニックに行ったり、無料で入れる植物園を散歩したり、高台に夜景を見に行ったりと節約デートにしてもらい、外食を控えてコツコツと貯金に回すようにしていた。高級なレストランやお洒落なカフェ、ショッピングが好きなドーリィーは、少し不満そうにしていたが、結婚して子供ができたら更にお金が必要になるから、今のうちに我慢を覚えてもらいたいと思っている。
 一年後には、正式にプロポーズをしたいとテッドは考えていたのだが……

「……騎士に復帰出来るか分からないですって?」

 それは、お見舞いに来てくれたドーリィーに医師からの診断を打ち明けた時だった。
 さっきまではニコニコして『テッドー、会いたかったわ。私がお世話するから大丈夫よ』って言ってたのに、今のドーリィーは先程とは別人のような表情になっていて、テッドはそんな彼女の顔を見たのは初めてだった。

「騎士に復帰出来なくても大丈夫だ。
 今まで通りに騎士団で働かせてくれるらしいし、給与も補償してくれる。だから何の心配もないよ」

 ドーリィーは将来を心配しているようだが、これからも騎士団で働けることを伝えれば安心するだろう。
 テッドはそう思って話をしたのだが、ドーリィーの反応は意外なものだった。

「私の子供の頃からの夢はね……、強くてカッコいい騎士様のお嫁さんになることだったわ。そして旦那様には出世してもらい、騎士の爵位をもらって貴族になることだったのよ。
 騎士団で働く、ただの団体職員のお嫁さんになるつもりはないの。
 テッド……、残念だけど私達は結ばれない運命のようね。
 今までありがとう。サヨナラ!」

「……」

 こんな感じで、結婚まで考えていたドーリィーとはあっさりと終わりを迎えたのだった。

 落ち込んだテッドを励ましてくれたのは、上官や同僚達だった。身を挺して仲間を庇い、大怪我を負ったテッドを騎士団の仲間たちは大切に思ってくれていたのだ。
 辛いリハビリをして日常生活を送れるようになったテッドは、退院後に長い休暇を与えられた。休みを取って故郷に帰省でもすれば元気になるだろうという上官からの配慮からだった。
 しかし、マリアやドーリィーとのことがあり、テッドは気まずさから帰省する気にはなれず、騎士団の寮の自室にこもる生活が続く。
 もう騎士団も辞めて、誰も知らない場所に行ってしまおうか……
 そう思ったテッドがドンっと壁にもたれかかった瞬間、バサバサっと棚の上から何かが降ってくる。
 それは開封すらしていないマリアからの手紙だった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

わたしがお屋敷を去った結果

柚木ゆず
恋愛
 両親、妹、婚約者、使用人。ロドレル子爵令嬢カプシーヌは周囲の人々から理不尽に疎まれ酷い扱いを受け続けており、これ以上はこの場所で生きていけないと感じ人知れずお屋敷を去りました。  ――カプシーヌさえいなくなれば、何もかもうまく行く――。  ――カプシーヌがいなくなったおかげで、嬉しいことが起きるようになった――。  関係者たちは大喜びしていましたが、誰もまだ知りません。今まで幸せな日常を過ごせていたのはカプシーヌのおかげで、そんな彼女が居なくなったことで自分達の人生は間もなく180度変わってしまうことを。  体調不良により、現在感想欄を閉じております。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...