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06 仕事
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「メイド長をしているシャロン・ヘイゼルです。
この公爵家で働く前に、決まり事を説明させてもらいます」
「マリアです。平民ですので家名はありません。
よろしくお願いします」
マリアは早速、メイド長と面談をしている。
落ち着いた声でありながら、聞きやすくハキハキと話すメイド長は、仕事の出来るカッコいい女性のように見えた。
「マリアは平民ですから、まずは下働きからやってもらいます。
何かやりたい仕事や出来そうなことがあれば、一応聞いておきますが?」
やりたい仕事と言われたマリアはピンときた。
「掃除や洗濯、庭師の見習いでも結構です。馬小屋の掃除も出来ます!
もし私が公爵家の使用人に相応しくないと思われるなら、公爵家とお付き合いのある商店を紹介してくれると助かります」
マリアは家事の手伝いや農家の仕事をしていたので、下働きなら自分に合っていてちょうど良いと思ったのだ。
しかし、メイド長の反応は意外なものだった。
「マリア……、下働きから始めるとは言いましたが、貴女に外の仕事はさせられないわ。外仕事は男性が担当しているの。
それに、奥様もお嬢様も貴女を公爵家で雇うと決めたのだから、この邸の中のお仕事をしてもらいます。
公爵家で働く女性は華やかさに憧れて、みんな奥様やお嬢様付きのメイドになりたがるのに、マリアはそういう欲はないのね」
田舎育ちのマリアにとってメイド長から言われたことは初耳だった。〝公爵家〟で働くことは身近なことではなく、非日常のことだったからだ。
マリアの育った村で、貴族の邸に働きに行くなんて聞いたことがなかったと思う。あの貧しい田舎の村に生まれた女の子は、そのまま村の男の子と結婚して農業をやるか、都会の商店や食堂などに就職するか、村一番の金持ちである村長さんの家でお手伝いをさせてもらうとか、それくらいの選択肢しかなかったからだ。
それもあって、マリアには仕事に華やかさを求めるという感覚が分からなかった。華やかさよりも、給金の方が大切だと思っていたのだ。
決してマリアに欲がないというわけではないのだが、そんな事情を知らないメイド長は、欲もなく、飾らない性格のマリアに勝手に好印象を持っていた。
『破落戸に絡まれていたお嬢様を体を張って守ろうとしただけでなく、お礼がしたいと言っても断り続けて、そのまま去ろうとしたところを強引にお嬢様と護衛騎士が連れて来たとは聞いていたけど……
下働きの仕事だと言われても嫌な顔をしないし、謙虚で良い子じゃないの。
行儀見習いに来ている、仕事の出来ない下位貴族の令嬢達よりも全然いいわ』と、メイド長は心の中で呟いていた。
「では、マリアには洗濯の仕事からやってもらいます。
貴女の部屋は、このアンと一緒の部屋です。
アンはマリアを寮の部屋に案内してあげて。寮のルールや仕事内容など、色々教えてあげて下さいね」
「畏まりました」
メイド長の横にいた若くて可愛いメイドはアンという名前らしい。
アンはメイド長が紹介してくれた時は、愛想良くにっこりと笑いかけてくれたのだが、寮の部屋に案内されて二人きりになった途端に態度が一変するのであった。
「ベッドとクローゼットはそっちのを使って。
ハァー……、今まで二人部屋を一人で使っていたから気楽で良かったのに。
アンタ、私に迷惑を掛けないようにしてよね。何かあると、先輩である私の責任になるんだから」
さっきまで、ニコニコしていて可愛い先輩だと思っていたのに、口調も表情もあまりにも変わってしまったアンを見て、マリアは絶句してしまった。
「ちょっとー、返事はないわけ?」
「は、はい! よろしくお願いします」
その日は夕食を食べた後、アンに公爵家のことや使用人として気を付けることなどを教えてもらうと、すぐに眠くなってしまった。
色々あって疲れた一日だったので、マリアは失恋の悲しさを感じる暇もなく、ぐっすりと眠ってしまった。
この公爵家で働く前に、決まり事を説明させてもらいます」
「マリアです。平民ですので家名はありません。
よろしくお願いします」
マリアは早速、メイド長と面談をしている。
落ち着いた声でありながら、聞きやすくハキハキと話すメイド長は、仕事の出来るカッコいい女性のように見えた。
「マリアは平民ですから、まずは下働きからやってもらいます。
何かやりたい仕事や出来そうなことがあれば、一応聞いておきますが?」
やりたい仕事と言われたマリアはピンときた。
「掃除や洗濯、庭師の見習いでも結構です。馬小屋の掃除も出来ます!
もし私が公爵家の使用人に相応しくないと思われるなら、公爵家とお付き合いのある商店を紹介してくれると助かります」
マリアは家事の手伝いや農家の仕事をしていたので、下働きなら自分に合っていてちょうど良いと思ったのだ。
しかし、メイド長の反応は意外なものだった。
「マリア……、下働きから始めるとは言いましたが、貴女に外の仕事はさせられないわ。外仕事は男性が担当しているの。
それに、奥様もお嬢様も貴女を公爵家で雇うと決めたのだから、この邸の中のお仕事をしてもらいます。
公爵家で働く女性は華やかさに憧れて、みんな奥様やお嬢様付きのメイドになりたがるのに、マリアはそういう欲はないのね」
田舎育ちのマリアにとってメイド長から言われたことは初耳だった。〝公爵家〟で働くことは身近なことではなく、非日常のことだったからだ。
マリアの育った村で、貴族の邸に働きに行くなんて聞いたことがなかったと思う。あの貧しい田舎の村に生まれた女の子は、そのまま村の男の子と結婚して農業をやるか、都会の商店や食堂などに就職するか、村一番の金持ちである村長さんの家でお手伝いをさせてもらうとか、それくらいの選択肢しかなかったからだ。
それもあって、マリアには仕事に華やかさを求めるという感覚が分からなかった。華やかさよりも、給金の方が大切だと思っていたのだ。
決してマリアに欲がないというわけではないのだが、そんな事情を知らないメイド長は、欲もなく、飾らない性格のマリアに勝手に好印象を持っていた。
『破落戸に絡まれていたお嬢様を体を張って守ろうとしただけでなく、お礼がしたいと言っても断り続けて、そのまま去ろうとしたところを強引にお嬢様と護衛騎士が連れて来たとは聞いていたけど……
下働きの仕事だと言われても嫌な顔をしないし、謙虚で良い子じゃないの。
行儀見習いに来ている、仕事の出来ない下位貴族の令嬢達よりも全然いいわ』と、メイド長は心の中で呟いていた。
「では、マリアには洗濯の仕事からやってもらいます。
貴女の部屋は、このアンと一緒の部屋です。
アンはマリアを寮の部屋に案内してあげて。寮のルールや仕事内容など、色々教えてあげて下さいね」
「畏まりました」
メイド長の横にいた若くて可愛いメイドはアンという名前らしい。
アンはメイド長が紹介してくれた時は、愛想良くにっこりと笑いかけてくれたのだが、寮の部屋に案内されて二人きりになった途端に態度が一変するのであった。
「ベッドとクローゼットはそっちのを使って。
ハァー……、今まで二人部屋を一人で使っていたから気楽で良かったのに。
アンタ、私に迷惑を掛けないようにしてよね。何かあると、先輩である私の責任になるんだから」
さっきまで、ニコニコしていて可愛い先輩だと思っていたのに、口調も表情もあまりにも変わってしまったアンを見て、マリアは絶句してしまった。
「ちょっとー、返事はないわけ?」
「は、はい! よろしくお願いします」
その日は夕食を食べた後、アンに公爵家のことや使用人として気を付けることなどを教えてもらうと、すぐに眠くなってしまった。
色々あって疲れた一日だったので、マリアは失恋の悲しさを感じる暇もなく、ぐっすりと眠ってしまった。
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