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05 ベインズ公爵家へ
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マリアが仕事を探していると知ったお嬢様の反応は早かった。
「あら! 仕事を探しに王都に出てきたなら、うちの公爵家で雇ってあげるわ。
私と一緒にいらっしゃい」
「……お気持ちだけ頂きます。私では公爵家の皆様に迷惑をかけてしまいますから」
仕事を紹介してくれるのは有り難いと思ったが、田舎者のマリアだって〝公爵家〟というものがどれほど凄いのかは知っている。
マリアは思った。田舎で伸び伸び育ってきた自分には、公爵家という場所は絶対に合わないだろうと。そんな所で働いたら堅苦しくて疲れそうだし、仕事内容も厳しそうだ。ストレスで自分の胃に穴が開くかもしれない。元気だけが取り柄の私には無理な仕事だろうと。
そう思ったこともあって、マリアは迷わずにお嬢様からのお誘いを断ることにした。
どうせなら、公爵家と取引のある八百屋やパン屋、花屋などを紹介してもらいたいと思ったマリアだが、流石にそこまで図々しいことを口には出来なかった。
しかし……
「大丈夫よ。私が雇うって言ってるんだから遠慮しないで。
住み込みで食事も出すから何の問題もないわ。制服も支給するし、他所よりもうちの給金は良いらしいわよ。
荷物は宿に置いてあるのね? どこの宿かしら?
今すぐ荷物を取りに行かせましょう。貴女は私と一緒に来なさい」
お嬢様はなかなか強引で押しの強い方のようだ。
気がつくと、マリアはお嬢様と一緒に豪華な馬車に乗せられていたのであった。
馬車に揺られて十五分くらい経っただろうか?
荷馬車や乗り合い馬車にしか乗ったことがなかったマリアが、豪華でふかふかの座席に感動していると、あっという間に公爵家に到着したようだ。
「馬車を降りたら、早速、お母様とメイド長を紹介するわね。
……そんな不安そうにしないでちょうだい。マリアは私の恩人なのだから、堂々として」
「……はい。よろしくお願いします」
お嬢様は優しく微笑んでくれているが、マリアは不安で笑い返すことすら出来なかった。
馬車を降りたマリアは、目が飛び出しそうなほど驚いていた。公爵家と聞いてはいたが、目の前にあるのはお城とかホテルのように大きくて豪華な邸だったからだ。
驚いて絶句しているマリアの横では、お嬢様が出迎えてくれた初老の使用人と話をしている。
「セバスチャン。この子は、街で破落戸に絡まれていた私を助けてくれた恩人なのよ。
職を探して王都に来たばかりだって言うから、うちで雇うことにしたわ。
すぐにお母様とメイド長に紹介したいの。呼んでくれるかしら?」
「畏まりました」
セバスチャンと呼ばれていた使用人の他にも出迎えの使用人は沢山いて、マリアはまた嫌な視線を感じていた。
そんな中、応接室に案内してもらい、そこで公爵夫人とメイド長を待つことになる。
しばらく待たされた後、着替えをしてきたらしいお嬢様と、お嬢様によく似ている気の強そうな美女、メガネをかけた四十代くらいの厳格そうなメイド、若くて可愛らしいメイドが部屋に入って来る。
マリアは慌てて立ち上がりお辞儀をする。農家育ちの平民であるマリアは、このような場ではどのように挨拶すべきなのかを分からなかったのだ。
ただ、この場で自分から口を開いてはいけないということを雰囲気で察していた。
「貴方がマリアね。顔を上げなさい」
お嬢様に似た品のある美女から声を掛けられたマリアは、恐る恐る顔を上げる。
「私はクレアの母でベインズ公爵夫人のセシリーよ。
クレアから話は聞いたわ。この子が街で護衛騎士を撒いて一人でフラフラし、破落戸に絡まれて困っているところを貴女が助けてくれたようね?
感謝しているわ。ありがとう」
「私は当然のことをしただけです」
この年齢不詳の美女はお嬢様のお母さんらしい。お嬢様と同じ輝くような金髪に大きな水色の瞳、シミ一つない陶器のような肌……、子供がいるとは信じられないくらい若々しくて綺麗な夫人だ。
「娘の恩人であるマリアには、公爵家から何かお礼をしたいと思っているのだけど、仕事を探しに田舎から出てきたというならばこれも何かの縁でしょう。せっかくだからうちで働きなさい。
詳しくはうちのメイド長のシャロンと話をしてちょうだい。
では、私達は失礼するわね。クレアは私と一緒に来なさい」
「……はい、お母様。
メイド長、マリアのことを頼んだわよ」
「お嬢様、畏まりました」
公爵夫人とお嬢様が部屋を出て行った後、マリアはメイド長と若いメイドと部屋に残されるのであった。
「あら! 仕事を探しに王都に出てきたなら、うちの公爵家で雇ってあげるわ。
私と一緒にいらっしゃい」
「……お気持ちだけ頂きます。私では公爵家の皆様に迷惑をかけてしまいますから」
仕事を紹介してくれるのは有り難いと思ったが、田舎者のマリアだって〝公爵家〟というものがどれほど凄いのかは知っている。
マリアは思った。田舎で伸び伸び育ってきた自分には、公爵家という場所は絶対に合わないだろうと。そんな所で働いたら堅苦しくて疲れそうだし、仕事内容も厳しそうだ。ストレスで自分の胃に穴が開くかもしれない。元気だけが取り柄の私には無理な仕事だろうと。
そう思ったこともあって、マリアは迷わずにお嬢様からのお誘いを断ることにした。
どうせなら、公爵家と取引のある八百屋やパン屋、花屋などを紹介してもらいたいと思ったマリアだが、流石にそこまで図々しいことを口には出来なかった。
しかし……
「大丈夫よ。私が雇うって言ってるんだから遠慮しないで。
住み込みで食事も出すから何の問題もないわ。制服も支給するし、他所よりもうちの給金は良いらしいわよ。
荷物は宿に置いてあるのね? どこの宿かしら?
今すぐ荷物を取りに行かせましょう。貴女は私と一緒に来なさい」
お嬢様はなかなか強引で押しの強い方のようだ。
気がつくと、マリアはお嬢様と一緒に豪華な馬車に乗せられていたのであった。
馬車に揺られて十五分くらい経っただろうか?
荷馬車や乗り合い馬車にしか乗ったことがなかったマリアが、豪華でふかふかの座席に感動していると、あっという間に公爵家に到着したようだ。
「馬車を降りたら、早速、お母様とメイド長を紹介するわね。
……そんな不安そうにしないでちょうだい。マリアは私の恩人なのだから、堂々として」
「……はい。よろしくお願いします」
お嬢様は優しく微笑んでくれているが、マリアは不安で笑い返すことすら出来なかった。
馬車を降りたマリアは、目が飛び出しそうなほど驚いていた。公爵家と聞いてはいたが、目の前にあるのはお城とかホテルのように大きくて豪華な邸だったからだ。
驚いて絶句しているマリアの横では、お嬢様が出迎えてくれた初老の使用人と話をしている。
「セバスチャン。この子は、街で破落戸に絡まれていた私を助けてくれた恩人なのよ。
職を探して王都に来たばかりだって言うから、うちで雇うことにしたわ。
すぐにお母様とメイド長に紹介したいの。呼んでくれるかしら?」
「畏まりました」
セバスチャンと呼ばれていた使用人の他にも出迎えの使用人は沢山いて、マリアはまた嫌な視線を感じていた。
そんな中、応接室に案内してもらい、そこで公爵夫人とメイド長を待つことになる。
しばらく待たされた後、着替えをしてきたらしいお嬢様と、お嬢様によく似ている気の強そうな美女、メガネをかけた四十代くらいの厳格そうなメイド、若くて可愛らしいメイドが部屋に入って来る。
マリアは慌てて立ち上がりお辞儀をする。農家育ちの平民であるマリアは、このような場ではどのように挨拶すべきなのかを分からなかったのだ。
ただ、この場で自分から口を開いてはいけないということを雰囲気で察していた。
「貴方がマリアね。顔を上げなさい」
お嬢様に似た品のある美女から声を掛けられたマリアは、恐る恐る顔を上げる。
「私はクレアの母でベインズ公爵夫人のセシリーよ。
クレアから話は聞いたわ。この子が街で護衛騎士を撒いて一人でフラフラし、破落戸に絡まれて困っているところを貴女が助けてくれたようね?
感謝しているわ。ありがとう」
「私は当然のことをしただけです」
この年齢不詳の美女はお嬢様のお母さんらしい。お嬢様と同じ輝くような金髪に大きな水色の瞳、シミ一つない陶器のような肌……、子供がいるとは信じられないくらい若々しくて綺麗な夫人だ。
「娘の恩人であるマリアには、公爵家から何かお礼をしたいと思っているのだけど、仕事を探しに田舎から出てきたというならばこれも何かの縁でしょう。せっかくだからうちで働きなさい。
詳しくはうちのメイド長のシャロンと話をしてちょうだい。
では、私達は失礼するわね。クレアは私と一緒に来なさい」
「……はい、お母様。
メイド長、マリアのことを頼んだわよ」
「お嬢様、畏まりました」
公爵夫人とお嬢様が部屋を出て行った後、マリアはメイド長と若いメイドと部屋に残されるのであった。
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