上 下
81 / 104
新しい生活

久しぶりのバーネット伯爵家

しおりを挟む
 バーネット様と2人きりで馬車に乗ったのはいつぶりだろうか?
 私の隣に座ったバーネット様は、私の腰を抱き寄せてくる。


「…バーネット様?」

「リア、夫婦なのだからこれくらいは許してくれ。」


 行方不明になる前よりも、距離が近いような気がする。
 夫婦としてのスキンシップはあったが、人前で見せつけるように抱きしめてきたり、馬車の中でまでこんなにくっついて座ったりとかはなかった。
 何を考えているのか分からないし、前とは違ったことをするから、余計に警戒してしまう。


「リアが王太子殿下と仲が良いみたいで良かったよ。
 殿下の優秀な影が動いてくれたから、リアは助かったのだからね。
 殿下には感謝しないといけないな…。」

「ええ…。殿下とアンブリッジ公爵様には本当にお世話になっているのです。」


 私の話を笑顔で聞いてくれるバーネット様。
 しかし、気がついてしまった。バーネット様の目は全く笑っていなかったことに…。


「……!」

「…リア?どうかしたか?」

「い、いえ。バーネット様が怒っておられるように見えてしまったので、少し驚いてしまっただけですわ。」

「まあ…、怒ってはいるよ。大事な妻が危険に晒されたのだから当然だろう?
 私が守ることが出来なくて悔しかったのに、殿下やアンブリッジ公爵様に助けてもらったとリアは嬉しそうに話すものだからね…。
 私は嫉妬深い男なんだよ。」


 前はこんなことを話すような人ではなかったと思う。今更、本性をさらけ出すことにしたのかしら?


 馬車がバーネット伯爵家に着いたようだ。
 このバーネット伯爵家は王宮から馬車で10分くらいの一等地にある。
 今更だが、バーネット伯爵家はかなり裕福で力のある伯爵家であることを理解する。力のあるバーネット伯爵家だから、離縁を望んでも私の実家からの圧力はあまり効果はないし、他の家門も無視は出来ない家門でもあるのだ。

 こんなバーネット伯爵家の当主だから、あのスカル男爵令嬢は寝取ってやろうと考えたのかもしれない。
 見目麗しい資産家の伯爵様が、妻と上手くいってないと知り、私を嵌めてまで手に入れようとしたのだろう。

 この人が欲しいのなら、もっと上手くやって欲しかったわね…。
 スカル男爵令嬢が殿方からあそこまで評判が悪くなる程、異性関係にだらしなかったなんて知らなかった。だから以前は、可愛いとか恋人にしたいとか評判になっていたのに、最近はそんな話は全く聞かなかったのだろう。
 どんな方にも公平に接する真面目なアンブリッジ公爵様が、あそこまで嫌悪感をあらわにしていたのだから、相当すごい令嬢だったのね。


「…リア?追い詰めたような顔をしているけど大丈夫か?
 邸についたけど、具合が悪いなら抱っこするか?」

「だ、大丈夫ですわ。」

「そうか。」


 馬車を降りると、家令のダニエルが出迎えてくれた。


「ダニエル。リアが帰って来てくれたから、部屋の用意を頼む。
 それと疲れているから、湯の用意と夜食を頼めるか?」

「畏まりました。急いで準備致します。
 奥様、お帰りをずっと待っておりました。」

「ダニエル、元気そうで良かったわ。
 今夜はお世話になります。」


 ダニエルはバーネット様が一番信用している家令だ。
 私もダニエルには伯爵家のことを教えてもらったり、バーネット様が行方不明になった時は支えてもらったりと、とにかくお世話になった記憶しかない。


「リア、まずは湯に浸かって疲れを取ってくるといい。
 その後に一緒に夜食でも食べよう。」


 確かにあの近衛騎士に触れたれたりしたから、体を洗いたいわね。


「そうさせていただきますわ。ありがとうございます。」


 この邸で生活していた時にもお世話になっていた、馴染みのメイド達が湯浴みをしてくれた。


「奥様。寝る前ですので、こちらのドレスでよろしいでしょうか?」


 メイドが出してきたドレスは、私がこの邸で生活していた時に使っていた物だった。
 休日や夜間などに着ていた、ゆったりとしたシンプルなドレス。


「勿論よ。……まだ取っておいてくれたのね。」

「あの時、奥様は私物を処分して欲しいと言ってこの邸を出て行かれましたが、アドルフ様が処分せずに取っておくようにと命令されまして、奥様の物はそのまま取っておいてあるのです。」


 バーネット様の弟のアドルフ様が…。


「アドルフ様は今はどちらにいらっしゃるのかしら?」

「アドルフ様は子爵位を継いでから、別邸の方に引っ越されました。」

「そうなのね…。」


 バーネット様と2人きりの邸は気不味いから、アドルフ様もいてくれたら良かったのに…。そう思ってしまったことは内緒だ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...