上 下
77 / 104
新しい生活

影と盗み聞き

しおりを挟む
 ベッドに押し倒された私は涙が流れていた。


「泣かないで…。」


 近衛騎士の顔が近づいてくる…


 キスされる?ひぃー…


 その時…


「動くな。静かにしろ!」


 低くて小さな声が聞こえる。
 部屋が暗いからよく見えないが、黒ずくめの男が二人いて、私を押し倒している近衛騎士の首にナイフを突き付けていた。


「…誰だ?」

「影と言えば分かるな。」

「な…、なぜ影が?」


 影って…、殿下の?
 とりあえず私は助かったの?


 影と名乗る二人は、サッと近衛騎士の体を拘束し猿轡までして、身動きのとれない状態にしていた。


「バーネット伯爵夫人、驚かせて申し訳ありません。
 私達は殿下の命令でここに来ました。
 もうすぐ伯爵が到着するかと思いますので、それまではこの部屋で待機するようにとのことです。」

「は、はい。」


 影の二人はそれを伝えた後に、サッと姿を消してしまった。


「………。」

「……。」


 先程の近衛騎士は、手足を縄で拘束されて床に寝かされている。
 暗いからはっきり見えていないのだが、近衛騎士からの視線を感じるような気がする。


 何とも言えない、気まずい雰囲気だわ…


 そんな雰囲気の中、数分が経っただろうか。
 廊下からコツコツと人の歩く音がする。

 バーネット様が来たのかしら?
 スカル男爵令嬢とバーネット様は、元々こうやって密会するくらいの関係だったのかが気になる。


「バーネット伯爵が隣の部屋に入りましたので、夫人は二人が不貞をしているのかを確認しにいきますか?」

「…!!」


 殿下の影?…いつの間にいたの?
 物音もせずに急に現れ、小さな声で話しかけてきたので、私は驚いてしまった。


「…驚かせてしまいましたね。申し訳ありません。
 もし隣の部屋の様子を伺いたいのなら、夫人は靴を脱いだ方がいいかもしれませんね。」


 廊下は靴の音が響くようだから、その方がいいわね。
 不貞行為しているなら、その場に直接乗り込んだ方がいいだろうし……、行くことに決めた!!

 
「分かりました。」


 靴を脱いだ後、影の後に付いて部屋を出て行く。物音を立てないように慎重に。
 隣の部屋の前に来ると、ドアは閉まっているが、ドアの下に大きめの隙間があるので、話し声が聞こえてくる。



「バーネット伯爵様が忘れられないのですぅ。ずっと好きでした。
 他のお方とお付き合いをさせて頂いたこともありましたがぁ、バーネット様を忘れたことはありませんでした…。」


 スカル男爵令嬢…、私に話す時と口調が変わり過ぎよ。


「…忘れられないと言われる程の付き合いはなかったはずだが。」


 え…、そういう関係ではなかったということなの?
 スカル男爵令嬢は私を嵌めるためだけにあんな風に言っていただけ?
 バーネット様の声も低くて冷たい感じがする。あの方がこんな風に話をする声は、初めて聞いたかもしれない。


「あの時はぁ、婚約者がいるとお聞きしていたのでぇ、お慕いしている気持ちを我慢していただけなのですぅ。
 でもぉ、バーネット夫人が別の方と関係があるのを知ってしまったらぁ、私の伯爵様への気持ちも抑えられなくなってしまってぇ。
 こんな素敵な旦那様がいるのにぃ、夫人は不貞をしているのです。許せないわぁ。」


 くっ…、スカル男爵令嬢ー!!


「図々しく邸に手紙まで寄越してきて、妻のことで大切な話があると書かれていたから、わざわざこんな場所まで来てやったのだが無意味だったようだ。
 最近、妻の様子が変だとは思っていたがお前が原因だったのだな…。
 私の妻を侮辱する発言をしたことを後悔させてやる。スカル男爵家には正式に抗議させてもらおう。
 失礼する!!」


 え…、こっちに来る?
 もう終わりなの?不貞現場に乗り込むつもりでいたけど、逃げないと……


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

処理中です...