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新しい生活

この先のこと

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 私は、バーネット様との死後離婚は取り消しになり、以前と同様に夫婦であると教会が認めたという話を、すぐに王妃殿下とヘミングウェイ伯爵夫人に報告することにした。

 報告しながら涙が出てきそうになるのを何とか堪える。


「アメリア。令嬢なら養子縁組は出来るけれど、既婚者という立場では養子縁組は出来ないわね。
 私としては、教会がそのことを決めてしまう間に、貴女を公爵家の人間にしてしまおうと考えていたのに、間に合わなかったことがとても残念だわ。
 バーネット卿はよほど貴女を離したくないのね。」

「王妃殿下や前アンブリッジ公爵夫人には大変申し訳なく思っております。
 大変不本意ですが、養子縁組の件は諦めるしかなさそうです。
 しかし、バーネット様とは今後夫婦であり続けるのは無理です。何とか離縁出来る方法がないか考えていきたいと思っています。
 ですから…、どうかこれからもここで働かせて頂きたいのです。よろしくお願い致します。」

「ふふ!アメリアが働きたいと言ってくれる限りは、ずっとここで働いてもらうわよ。」


 こんな時でも明るく笑ってくれる王妃殿下には、感謝しきれないくらいだわ。
 本当は落ち込みたいくらいだけど、泣いている時間があるならば、あの男と上手く離縁できる方法を探さなくてはならない。

 そう思った私は、昼休みに王宮の図書館に行き、離縁について調べることにした。

 しかし図書館に行ってみて、その考えがとても甘いことだということに気付いてしまった。
 王宮の図書館は、国内一の広さで、本の蔵書数も国内一なのだ。法律関係の本だけでもあり得ないくらいの数があり、その中から離縁について詳しく書いてある本を探すだけでも、かなりの時間がかかりそうだ。
 
 図書館の司書に聞けば早いのだけれど、今の私はとにかく目立つ。役職もだが、バーネット様と夫婦に戻るらしいなんて噂が立ち始めているようだし、そんな私が離縁について調べているなんてバレたら、どんな噂が立つのかと考えただけで恐ろしい。

 目立たぬようにと、人目を盗みながら本を探す日々が始まるのであった。


 そんな昼休みを送っていたある日。


 その日も昼休みに図書館で本を探していると、後ろから声を掛けられる。

「リア…。最近は昼休みは図書館で過ごしいるんだって?
 何を調べているんだい?私で良かったら手伝おうか?」

 急に背後から声を掛けられて、ビクッとしてしまった。

「…どうして?」

「愛しい妻が普段は何をしているのか気になっていたからね。王宮で働く友人に教えてもらったんだ。」

「……っ!何をするのです?離して下さいませ。」


 気付くと後ろから抱きしめられていた…。
 何だかゾクっとするような気がする。
 

「ここは目立たない場所だから少しくらいは許してくれ。なかなか会えないから、寂しくてしょうがなかったんだ。」

「誰かに見られたら困りますから、早く離して下さい!」

「私達は仲の良い夫婦なのだから、誰に見られても問題はないだろう。私達がどれくらい愛し合っているのかを、色々な者に見せつけてやりたいくらいだ。」


 そう言って、後ろから私の首筋や耳にキスをしてくるバーネット様。
 チュッ、チュッとリップ音が耳元で聞こえてくる。


「……っ。やめて下さい!」

「ふっ!リアは首筋が弱かったな。
 久しぶりに痕を付けてみようか?王宮内でリアを狙っている男が沢山いたことは聞いているし、リアが誰のものなのか分かるように、ここに痕をつけておこうか?」


 この人は変わってしまったの?
 普段は真面目な人だったと思うし、人に見られそうな場所で、こんなことをするような人ではなかったと思っていたのに。


「リア、私と離縁が出来る方法があるか調べようとしているのか?」

「………。」

「離縁は私が同意しなければ出来ないし、私が不貞行為をしたという証拠があれば裁判でもすればいいのかもしれないけど、私は結婚してからは君を裏切ることは何もしていないから、まず無理だろうな。
 婚約期間中に君を傷つけることをしたことは認める。だが、言い訳に聞こえるかもしれないが、私が望んでそうなった訳ではない。リア以外に愛した者もいない。」

「でも私を裏切ったことに変わりはありませんよね。
 私は貴方を許さない…。」

「リア…。私は許してもらおうとは思っていないよ。憎まれても、私を愛せなくてもいい。
 それでもいいから、私と夫婦でいて欲しい。」

「その手で触れられることですら苦痛なのです。
 貴方とは夫婦でいられません。
 そろそろ仕事に戻りますので、離して下さい。」

「……また会いにくるよ。」

 私をガッチリと抱きしめていた、バーネット様の腕の力が抜けたと同時にサッとその場から離れた。


 図書館にはもう来れないわね…



 後ろを振り向かずにその場から逃げ出した私は、バーネット様が光を失った目で私を見つめていたことに気付けなかった。






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