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新しい生活

信用出来ない

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「リア……。記憶が戻ったんだ。近々、君を迎えに行くよ。」


「………。」


 あの頃と同じ優しげな目元で、私のことを〝リア〟と呼ぶバーネット様。


 本当に記憶が戻ったの?


 いや、また誰かに何か言われて、そのように振る舞っているだけかもしれない。
 親しかった者に記憶喪失になる前の話を聞けば、記憶が戻ったような演技くらいは、この人なら出来るのかもしれないわ。
 この人は信用出来ない。


 何よりも、私自身がバーネット様の記憶が戻ったことを認めたくなかった。



「…リア?驚かせてしまったかな。」


「バーネット様、ご機嫌よう。
 私達はもう他人になりました。愛称で呼ぶことは遠慮して頂きたいですわ。
 お元気そうで安心致しました。引き続き、パーティーをお楽しみ下さいませ。
 私はすぐに戻らなければいけませんので、失礼させて頂きます。」


 バーネット様が話をする隙を与えず、平常を装った私はその場をサッと離れることにした。






 その後のことはよく覚えていないが、気がつくと自分の部屋に戻り、ベッドに横になっていた。



 バーネット様は私を迎えに行くと言っていた。
 でも、どうやって…?

 絶対にあの男の所には戻りたくない!

 またもし会うことがあっても、極力避けるようにしよう。



 翌日。



 最近の激務で疲れていた私は、休日ということもあり、いつもよりのんびりと寝ていた。

 午後になり、近くの図書館にでも行こうかと考えていると、両親が会いに来てくれたとメイドが知らせてくれる。


 昨夜の夜会では話をすることも出来なかったから、わざわざ会いに来てくれたのかしら?


「リア。昨夜は殿下とダンスを踊っていて、お父様は驚いてしまったぞ。」

 え…?わざわざその話をしに来たのかしら?

「お父様。殿下は生徒会で一緒だったので、学生時代から交流がありましたわ。ダンスくらいで驚かないで下さいませ。」

「リア。殿下とのダンスはとても素敵だったわ。
 しかも、昨日のドレスは王妃殿下からのプレゼントなんですってね。とても似合っていたわ。
 他の夫人達もみんなリアを褒めて下さってね…、お母様は嬉しくなってしまったの。」

 王妃殿下から贈られたドレスを着た私を貶せるような強者は、この国にはいないわよ。

 でも…、両親が喜んでくれたのは嬉しい。
 娘である私の色々な噂のせいで、両親が肩身の狭い思いをするのではと、少し気掛かりだったから…。

 王妃殿下やヘミングウェイ伯爵夫人、王太子殿下には感謝しなければならないわね。


 昨日の夜会でのことを嬉しそうに話してくれる両親を見てホッとした私に、両親は急に表情を変えて、とんでもないことを話し出すのであった。


「リア。今日会いに来たのは、別に話したいことがあったから来た。」

 急に厳しい顔になるお父様。

「何でしょうか?」

「あの男から手紙が届いた。」

 お父様がそんな顔で〝あの男〟と呼ぶのは1人しかいない。

「…バーネット様ですか?」

「ああ…。自分が亡くなったと勘違いされて、本人の意思とは関係なく、リアとの婚姻関係が解消されていたことは無効にすべきだと書いてあった。
 教会にそのことを働き掛けているので、認められ次第、すぐにリアを迎えに行きたいと書いてあったのだ。」


 ああ……。

 あの男はまた私を苦しめるつもりなのね。


「……お父様。私、絶対に嫌ですわ。」

「分かっている。しかし、教会が認めてしまったら、いくらリアが嫌がっても難しいだろう。
 あの男の言い分は間違ってはいないのだからな。
 教会に太刀打ち出来るくらいの権力があれば何とかなるのだが…。うちは普通の伯爵家だから。
 何とかならないか私達で考えてはみる。リアは仕事を頑張りなさい。」

「……はい。」

「リアは仕事を頑張っているのだし、上司のヘミングウェイ伯爵夫人に相談してみたら?
 もしあの男の妻に戻ることになったら、騎士団にお勤めで留守が多い旦那様の代わりに、妻が領主代行の仕事をしなくてはいけなくなるのだから、王妃殿下の侍女を続けられなくなる可能性も出てくるのよ。
 早めに話くらいはしておいてもいいかもしれないわ。」


 あの仕事を辞めなければいけなくなるの…?
 やっと見つけた私の居場所なのに。

 あの男はどうして私を離してくれないの?
 どこまで私を苦しめるの?


「リア?そんな絶望した顔をしちゃダメ。まだ決まったわけではないのだから。」

「分かっています。でも、お母様の言う通りだと思いますわ。
 休み明けにでも、ヘミングウェイ伯爵夫人に相談してみようかと思います。」


 
 落ち込みそうになるけど、負ける訳にはいかない。
 
 
 

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