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新しい生活

別れの言葉

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 副団長に連れて行かれた公園のベンチには、元旦那様であるバーネット様が座っている。彼も私が来たことに気付いたようで、こっちをじっと見ているような気がする。

 会いたくなかったけど、ここまで来てしまったら引き返せないし、元妻としてきちんと最後にお別れをした方がいいかしら。

 バーネット様に向かって歩いて行くと、彼もすぐに立ち上がって私の方に歩いて来る。

「急に呼び出してしまって申し訳なかった。
 君にずっと会いたいと思っていた。」

 私の知る元旦那様とは違った口調と表情だった。
 記憶喪失になり、ほぼ別の人格になってしまったのだと理解できる。
 元旦那様というより、商家で働いていた時に出会った護衛騎士のロイ様としか見れない。というか、あの時のロイ様が元旦那様で間違いないわね。

「ご無事で何よりですわ。」

「その……。すまなかった。記憶を失くして君のことも忘れてしまっていた。
 君に辛い思いをさせてしまったことを申し訳なく思う。」

 真っ直ぐに私を見つめる瞳に、嘘や偽りは感じられなかった。

「バーネット様も大変な思いをなさったのですし、こうやって生きていて下さっただけで良かったと思っておりますわ。
 これからは別々の人生を歩んでいくことになりますが、バーネット様の今後の幸せを願っております。
 どうかお元……」

「待ってくれ!別々の人生…?
 私は記憶喪失になってしまったが、今の君のことを知りたいと思っていたし、やり直したいと言いに来たんだ。
 私達は仲の良い夫婦だったと聞いている。いきなり前のように戻れなくても、少しずつ仲良くなっていきたい。ダメか?」

 やはり、周りの人達が余計なことを吹き込んだのね…
 これははっきり言った方がいいわね。

「バーネット様。周りの方々が何を話しておられたのか分かりませんが、私達はただの政略結婚でしたし、バーネット様には別に愛する人がいらしたのかも知れません。
 バーネット様は記憶を失くしていらっしゃるようですし、私は新しい居場所を見つけましたわ。ですから、お互い過去にこだわるのはやめましょう。」

 元妻というだけで執着をされたくないから、別に愛する人がいた可能性を伝えてみることにした私。
 メイドに手を出すような人だったのだから、隠れて愛人を囲っていたとしてもおかしくはないと思うのよ。

「私に別に愛する人がいた?そんなことは聞いてないし、自分でもそれは考えられない。
 私は君を愛していたのだと思う。」

 自分の都合の良いように解釈するのね。
 いや、周りがそのように吹き込んだのかしら…。

「…そうでしょうか?不貞行為をするような方でしたから、私の知らないところで、他に愛する人がいたのではないかと思っておりましたが。」

 私は我慢出来なかった。

「……不貞?私は君を裏切ったのか?」

「ただの政略結婚でしたから、貴方には別に愛する人がいたのかもしれませんと先程私は言いましたよね?
 貴方は、私が何度も婚約を解消して欲しいと言っても聞き入れてくれませんでした…。
 ここまで話をすれば、理解して頂けると思います。」

「………。」

 青ざめた顔で絶句しているバーネット様。

 記憶を失っている人にこんなことを伝えるなんて、とても残酷なことをしているのは分かっているの。
 でも私は、貴方とはやり直すつもりはないということを明確に伝えておきたかった。
 今はっきり伝えておかないと、何も知らない貴方はまた、周りの人たちに言われたことを鵜呑みにするだろうから。

 夫婦には、他人には分からない事情が沢山あることを理解して欲しいと思う。

「バーネット様。結婚生活はたった1年でしたが、貴方は表面上は妻である私をとても大切にして下さいました。
 感謝していますわ…。本当にありがとうございました。
 バーネット様が今後、心から愛する人と結ばれることを願っております。次こそは幸せになって下さいませ。
 それでは失礼致します。」

 絶句したままのバーネット様をおいて、私はその場から離れた。








「シャノン伯爵令嬢、もうお話は済んだのですか?」

 離れた所に待機していた副団長に話しかけられる。

 このお方も私と元旦那様が愛し合っていたと勘違いしている人達の中の一人ね。
 愛し合う二人が再会したから、涙を流しながら沢山話し込むだろうとでも思っていたのかしら…。

 本当に迷惑だわ。

「はい。副団長様のお陰で、きちんと別れの挨拶をお伝えすることが出来ましたわ。
 ありがとうございました。」

「え?別れって……。」

「これでお互い前に進めますわ。このような場を設けて下さって感謝しております。
 私はすぐ戻らなければならないので、ここで失礼致しますわ。」

「…あ、はい。気をつけて。」

 これで副団長も、今後は私とバーネット様を会わせようとはしないはず。


 私は振り返ることなく、早足でその場を後にしたのであった。





 

 これで元旦那様とは終わりだと思っていた……




 
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