20 / 104
未亡人の私は
仕事の紹介
しおりを挟む
喪が明けた私の所に訪ねて来たのは、王妃殿下の侍女長をしているヘミングウェイ伯爵夫人だった。
このお方とは今まで個人的なお付き合いはしていなかっただけに、何となく警戒してしまう。
人払いが済んだ部屋で、私と夫人の2人きりになる。
「バーネット伯爵夫人、亡くなられたご主人様のお悔やみを申し上げますわ。喪は明けましたが、まだ伯爵夫人の心の傷は癒えないことでしょう。
しかしバーネット伯爵夫人は、もうすぐご実家に戻られるとお聞きしましたわ。」
「…ええ。この邸にいるべきではないと考えまして、実家に戻ることに決めました。」
「実家に戻られた後のことは、何か決まっているのでしょうか?
バーネット伯爵夫人は、まだお若くて美しいですし、すでに縁談のお話が沢山来ていると噂になっておりますわ。」
実家からは縁談の話のことは聞いていない…。お父様が気を遣って言わないだけなのかしら。
どちらにしても、いずれはまた誰かと結婚しなくてはいけないのね…。
「何も決めておりませんわ。両親や兄の迷惑にならないように、しばらくは実家の領地で静かに暮らそうかと考えてはいましたが…。」
「そうですか。両親やお兄様の迷惑にならないように静かに過ごしたいと…。
バーネット伯爵夫人は、学生時代にとても優秀で、学園の先生方から文官試験を勧められていたとお聞きしましたわ。そこまで優秀ならば、仕事をするというお考えはないのでしょうか?」
「優秀だなんて、とんでもないですわ。
確かに働きたいと考えた時期はありました。でも、仕事をするなら、どこか遠くの誰も知らないような場所で一からやり直したいですわ。
…失礼しました。私のささやかな夢を語ってしまいましたわね。」
「どこか遠くでやり直したい…?
最愛のお方との思い出の場所は、色々と思い出すことが多いですから、お辛いでしょうね。どこか遠くで、新しい生活をしたいという気持ちは理解できますわ。」
「ふふっ。ありがとうございます。
ところで、私に頼みたいこととは何でしょうか?」
「ええ。そのお話なのですが、これはバーネット伯爵夫人にしかお願い出来ないことなのです。
引き受けて下さるなら、高額報酬をお約束しますし、夫人が先程話されていた、どこか遠くの場所で新しい生活が出来るように、住む場所や仕事の紹介も致しますわ。
高額報酬ですから、新しい生活の資金に出来ると思います。」
こんな都合の良い話があるのかしら?
「高額報酬とおっしゃっていますが、この話の依頼主はどなたなのでしょうか?」
「王妃殿下ですわ。」
やはり…
「そうでしたか。」
「王妃殿下ですから高額報酬をお約束出来ますし、夫人の希望する新しい生活をする為に、私から王妃殿下にお力添えをお願いすることも出来ますわ。」
「とても魅力的な提案ではありますが、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「王太子殿下の閨指導をお願いしたいのです!」
「え?閨指導ですか…?」
「ええ。これは夫人にしかお願い出来ませんわ。王妃殿下からのご指名なのです。ぜひバーネット伯爵夫人にお願いしたいと話されておりました。」
「あの…、私は閨指導が出来るほどの経験はあるとは言えませんが…。」
「経験は関係ありませんわ!殿下は、きっとバーネット伯爵夫人なら閨指導を受けてくれるかと思います。
実は今までも、他のお方から受けてもらおうとしたのですが、殿下が強く拒否されまして…。
しかし今年、殿下はモンサンミ国の王女殿下との婚姻を控えておりますので、その前に閨指導を済ませておきたいのです。」
「殿下は私の閨指導も拒否されるかと…。」
「いえ!夫人なら大丈夫です。秘密はお守り致しますし、表向きは、私から侍女教育を受けているということにしておきましょう。」
「……。」
ヘミングウェイ伯爵夫人の熱意と高額報酬、新しく住む場所に、仕事の紹介までしてくれると言われた私は、仕事を引き受けてしまった…。
生徒会の後輩であった殿下とこんな感じで再会するのは気まずいが、もし殿下が私の閨指導を拒否しても、報酬は払ってくれるらしい。恐らく拒否してくれるだろうから、その時は報酬だけもらって帰ってこよう。
それに、憎い旦那様に好きにされた体だから、今更どうしたいとも思わない。
一晩我慢して新しい生活のためになるならば…。
このお方とは今まで個人的なお付き合いはしていなかっただけに、何となく警戒してしまう。
人払いが済んだ部屋で、私と夫人の2人きりになる。
「バーネット伯爵夫人、亡くなられたご主人様のお悔やみを申し上げますわ。喪は明けましたが、まだ伯爵夫人の心の傷は癒えないことでしょう。
しかしバーネット伯爵夫人は、もうすぐご実家に戻られるとお聞きしましたわ。」
「…ええ。この邸にいるべきではないと考えまして、実家に戻ることに決めました。」
「実家に戻られた後のことは、何か決まっているのでしょうか?
バーネット伯爵夫人は、まだお若くて美しいですし、すでに縁談のお話が沢山来ていると噂になっておりますわ。」
実家からは縁談の話のことは聞いていない…。お父様が気を遣って言わないだけなのかしら。
どちらにしても、いずれはまた誰かと結婚しなくてはいけないのね…。
「何も決めておりませんわ。両親や兄の迷惑にならないように、しばらくは実家の領地で静かに暮らそうかと考えてはいましたが…。」
「そうですか。両親やお兄様の迷惑にならないように静かに過ごしたいと…。
バーネット伯爵夫人は、学生時代にとても優秀で、学園の先生方から文官試験を勧められていたとお聞きしましたわ。そこまで優秀ならば、仕事をするというお考えはないのでしょうか?」
「優秀だなんて、とんでもないですわ。
確かに働きたいと考えた時期はありました。でも、仕事をするなら、どこか遠くの誰も知らないような場所で一からやり直したいですわ。
…失礼しました。私のささやかな夢を語ってしまいましたわね。」
「どこか遠くでやり直したい…?
最愛のお方との思い出の場所は、色々と思い出すことが多いですから、お辛いでしょうね。どこか遠くで、新しい生活をしたいという気持ちは理解できますわ。」
「ふふっ。ありがとうございます。
ところで、私に頼みたいこととは何でしょうか?」
「ええ。そのお話なのですが、これはバーネット伯爵夫人にしかお願い出来ないことなのです。
引き受けて下さるなら、高額報酬をお約束しますし、夫人が先程話されていた、どこか遠くの場所で新しい生活が出来るように、住む場所や仕事の紹介も致しますわ。
高額報酬ですから、新しい生活の資金に出来ると思います。」
こんな都合の良い話があるのかしら?
「高額報酬とおっしゃっていますが、この話の依頼主はどなたなのでしょうか?」
「王妃殿下ですわ。」
やはり…
「そうでしたか。」
「王妃殿下ですから高額報酬をお約束出来ますし、夫人の希望する新しい生活をする為に、私から王妃殿下にお力添えをお願いすることも出来ますわ。」
「とても魅力的な提案ではありますが、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「王太子殿下の閨指導をお願いしたいのです!」
「え?閨指導ですか…?」
「ええ。これは夫人にしかお願い出来ませんわ。王妃殿下からのご指名なのです。ぜひバーネット伯爵夫人にお願いしたいと話されておりました。」
「あの…、私は閨指導が出来るほどの経験はあるとは言えませんが…。」
「経験は関係ありませんわ!殿下は、きっとバーネット伯爵夫人なら閨指導を受けてくれるかと思います。
実は今までも、他のお方から受けてもらおうとしたのですが、殿下が強く拒否されまして…。
しかし今年、殿下はモンサンミ国の王女殿下との婚姻を控えておりますので、その前に閨指導を済ませておきたいのです。」
「殿下は私の閨指導も拒否されるかと…。」
「いえ!夫人なら大丈夫です。秘密はお守り致しますし、表向きは、私から侍女教育を受けているということにしておきましょう。」
「……。」
ヘミングウェイ伯爵夫人の熱意と高額報酬、新しく住む場所に、仕事の紹介までしてくれると言われた私は、仕事を引き受けてしまった…。
生徒会の後輩であった殿下とこんな感じで再会するのは気まずいが、もし殿下が私の閨指導を拒否しても、報酬は払ってくれるらしい。恐らく拒否してくれるだろうから、その時は報酬だけもらって帰ってこよう。
それに、憎い旦那様に好きにされた体だから、今更どうしたいとも思わない。
一晩我慢して新しい生活のためになるならば…。
78
お気に入りに追加
3,307
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる