上 下
460 / 501
アフターストーリー

第4話ー③ 夢、叶うまで

しおりを挟む
 ――車内。
 
 仕事を終えた凛子は、自宅へと向かっていた。

「凛子、無理はしていない?」

 ルームミラー越しにマネージャーは凛子にそう尋ねた。

「大丈夫ですよ。お芝居もアイドル活動も楽しいですから」

 凛子は座席シートに身を預けたまま、笑顔でそう答えた。

「そう。それならよかったわ」

 ホッとした声でマネージャーはそう言った。

 アイドル活動が原因で私が『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』に覚醒したこと、まだ気にしているのかな――

 そう思いながら、凛子は運転するマネージャーの後姿を見つめた。

「――そういえば、そろそろよね」
「そうですね」

 マネージャーが言った「そろそろ」と言うのは、凛子のアイドル活動卒業の日を示していた。

「もう少し早くてもいいんじゃない? だって朝ドラの主演も決まったし、これ以――」
「いいえ。私は、ちゃんと最後までアイドルをやりたいですから」

 凛子はしっかりとした口調でそう告げた。

 昔の私なら、絶対にこんなことを言わなかったのにね――

 そんなことを思い、凛子は小さく笑う。

「そっか。うん、わかったわ。じゃあ私は、凛子が最後までアイドルでいられるように支えるわ」
「ええ、頼りにしていますね。マネージャー」
「うん」

 そして凛子は帰宅したのだった。



 ――凛子の部屋。

「ああああ……」

 凛子はそう言いながら、ベッドに顔を埋めた。

 大丈夫とは言いつつも、やっぱり疲れは溜まるものだね――

 そして体勢を変えて、天井を見る凛子。

「『はちみつとジンジャー』の全国ツアー、か……もうそこまで来ているなんてね」

 私はまだ、役者として活動をできていない。そんな私を彼らは……しおん君はライバルと思ってくれるでしょうか――

「はあ」

 それから凛子は、先日観た『はちみつとジンジャー』の音楽番組を思い出す。


 * * *


『さて、先日発売された1stアルバムのことをお聞かせください!』

 司会の女性が笑顔でそう尋ねると、

『はい! 今回のアルバムは自分たちのファーストシングルからライブのみで披露してきた楽曲を含むアルバムになっています!』

 しおんははつらつとそう答えた。

『なるほど。それは『はちみつとジンジャー』の歴史が詰まった一枚という事ですね! そしてそのアルバムですが、なんと週間オリコンランキング1位でしたよね! そちらのお気持ちをお聞かせください!!』

 しおんは頭をの後ろを掻くと、

『いやあ、まさか……って思いましたよ! でも、自分と真一が揃えばいつかはって思っていたので、これをきっかけにもっと上を目指していきたいです! そして、応援してくださるファンの皆さんには、本当に感謝しています! みんな、ありがとう!!』

 カメラ目線で喜色満面にそう言った。

 そんなしおんを観ていた司会の女性はクスクスと笑いながら、

『ありがとうございます! しおん君はいつもそんなに元気いっぱいなんですか? そこのところ、真一君はどう思います?』

 今度は真一の方を見てそう尋ねる。

 唐突に話を振られ、真一はビクッと肩を少し震わせてから、

『あ、はい……いつも騒がしくて、手を焼いています。ステージでも家でも、こんな感じなんですよね』

 困った顔でそう答えた。

『はあ!? そんなことないだろ!! むしろ、真一の方が――!』
『でも――そんなしおんだから、僕は一緒に音楽をやりたいと思うんだと思います』

 真一はしおんの言葉を遮り、笑顔でそう言った。

『真一……』
『うふふ。そんな2人の絆を確かめることができたところで、一曲ご披露いただきましょう! お2人は演奏の準備をお願いします!!』

 それから『はちみつとジンジャー』はアルバムに収録されているデビュー曲、『風音のプレリュード』を披露したのだった。


 * * *


「まさかそんな人気アーティストになるなんてね……私も、負けていられない」

 役者としてだけじゃなく。アイドルとして、音楽をやる人間として――

 凛子はそう思いながら、唇をキュッと結ぶ。

 そして凛子はこれまで以上に活動へ力を入れていくのだった。


 * * *


 ツアーが決まって1か月が経過した頃――

 事務所のレッスンルームでしおんと真一は新曲を制作していた。

「まとまらないな……」

 ため息交じりにそう言うしおん。

「別に新曲はなくてもいいんじゃない?」

 真一は、はちみつジンジャードリンクを持ちながらそう言った。

「そうだけどさ」

 そう言いながら、「うーん」としおんは唸る。

「まあ、凛子のために何かしてあげたい気持ちはわかるけど――」
「だから凛子ためじゃないって!」
「はいはい」

 真一はそう言って、はちみつジンジャードリンクを口に含む。

「ぐぅ」

 真一の奴、俺たちのことをちょっとからかってるよな、絶対に――

 そう思いながら、恨めしく真一を見るしおん。


「――そういえば。凛子と全然打ち合わせもしていないけど……その辺は大丈夫なの?」

「あ……確かに」

「『ASTERアスター』の先輩たちとは、大体話はまとまった。でも凛子とは、あれから一度も連絡を取っていないよね。新曲のこともいいけど、まずはそっちだと思うんだ」


 真一の言う事も一理ある――

「社長に言って、凛子の事務所に連絡を取ってもらわないとな」

 腕を組みながら困り顔でそう言うしおん。

「ねえ」
「あ、なんだ?」
「ずっと疑問に思っていたんだけどさ。しおんと凛子ってあんなに仲がいいのに、なんで連絡先の一つも知らないわけ? 意味がわからないんだけど」

 真一は首を傾げてそう言った。

「べ、別に仲良くねえよ! むしろ仲は悪い方だろうが!!」
「ふーーん」

 そう言って怪訝な顔をする真一。

「なんだよ、その目……真一だって、俺以外に連絡とってる奴いんのか? 事務所関係者以外で!!」
「いるよ」

 そう言ってスマホを取り出す真一。そして真一は自身のチャットアプリの履歴をしおんに見せた。

「なん……だと!? まゆおと結衣とのグループチャットじゃないか! なんで俺、入れてもらってないわけ!?」
「え、入れてほしかったの?」

 ぽかんとした顔をする真一。

 少しくらいは俺の加入を検討してくれても良かったんじゃないか――!?

 それからしおんは小さくため息を吐き、

「そうだけど――でも、いいや! お前ら3人って、なんだか特別って言うか……俺がその中に入るのはなんか変な気がするから」

 諦めた表情でそう言った。

 だって幼馴染だもんな、3人は。だから俺とは違う絆ってもんがあるだろうし――

「うーん。まゆおも結衣も良いって言いそうだけど」

 聞いてみようか、と真一は真剣な顔でそう言った。

 もしかして俺、友達のいない可哀そうな人間だと思われてる――!?

 それを否定できない自分に少し悲しくなるしおん。

「だからいいって! まあそれはそれとしてだ――俺と凛子は仲良くねえ!!」
「はあ、わかった。じゃあ、社長にお願いしよう」
「それでいいんだよ!」

 そう言って鼻を鳴らしながら、腕を組んで座るしおん。

「はいはい」

 ため息交じりに真一はそう言ったのだった。

 そして後日、しおんたちはついに凛子と再会することになったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...