上 下
434 / 501
第10章 未来へ繋ぐ想い

第85話ー③ 別れの時

しおりを挟む
 ――施設内、職員室にて。

「はあ。資料のこと、すっかり忘れていたな……急がないと」

 そう言って暁はPCを起動し、書類の作成を再開する。

 それから数時間が経過し、

「はああ……終わった」

 そう呟いた暁は椅子の背もたれに背中を預ける。

「送信まで終わったし、あとは不備があったときに修正するだけだな」

 そう言って暁はゆっくりと天井を見つめた。

「にゃーん」

 唐突に聞こえたその声に、視線を床に向ける暁。

「ミケさん……」

 それからミケはゆっくりと暁の前に座る。

「また心配してきてくれたのか?」
「にゃん!」
「そうか……ありがとう」

 そう言って微笑む暁。

「この間、話したばかりだったのにな。すぐにこんなことになるとは思わなかった……」
「にゃーん」

 やっぱり、俺はもうミケさんと話すことができないんだな――

 そう思いながら、暁は悲し気な表情をした。

「ごめんな。俺はもうミケさんと会話をしてやれない。――だから、ミケさんはミケさんの自由に生きてくれ。本当はここに留まってほしいけど……もう俺と会話ができないのに、それをお願いされるのは嫌だよな」

 そして暁は、まだ『ゼンシンノウリョクシャ』の可能性があるかけるのことをふと思い出す。

「篤志さんのところはどうだ? 俺の弟の翔も『ゼンシンノウリョクシャ』だし、きっとミケさんと会話もできる。だから――」

 ミケはそう言う暁の膝の上に飛び乗った。そして身体を丸くしてから、暁の膝に頬ずりをする。

「もしかして、俺のところに居たいって言ってくれているのか……?」
「にゃーん」
「ミケさん……よし! じゃあミケさんもずっと一緒だからな!! これからは俺の家族だ!!」
「にゃん!!」

 それからしばらくして、暁は眠ったミケを自室に運んだ。

「俺の能力がなくなっても、今まで積み重ねてきたものがなくなるわけじゃないんだな……」

 そう言って眠る水蓮とミケを見つめる暁。そして職員室に戻ると、先ほどまでいた自分の席の椅子に座った。

「なんだか今日まであっという間だったよな……初めてこの施設に来たときは、右も左もわからなかったのに」

 そう言ってクスッと笑う暁。

「生徒たちとぶつかって、わかり合って……そして挫折したり、励まされたこともあったよな――」

 そう呟いて暁は窓からグラウンドを見つめた。

「そういえば、誘拐されたこともあったっけ。あの時は驚いたなあ。でもそれを企てた狂司が、またこの施設で一緒に生活しているなんて、なんだか不思議な感じだな」

 そして暁はこれまでのことを振り返りながら、静かに窓の外を見つめていた。

「――俺は……俺の願いは、叶ったんだろうか」

 そんなことをふと呟く暁。

 生徒たちの心を救うと言って、この施設に足を踏み込んだ。そして今の自分はどうだろう――?

「自分じゃ、わからないな。ははは」

 そして思い出す生徒たちの顔。

「俺はもっと多くの生徒たちの笑顔が見たい。だからその為に、また新しい一歩を踏み出すことにしたんだよな」



 子供たちの未来、そして自分の未来の為。俺はできることをこれからも続けていく。

 大切な別れを経験して、また一歩……未来へ近づいたのかもしれないな――



「よおし! これからも頑張るぞ!!」

 それから暁は、いつものように眠りについた。

 生徒たちと共に過ごす、明日を迎えるために。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

無能な神の寵児

鈴丸ネコ助
ファンタジー
全てが詰め込まれたダークファンタジー 無能という運命を努力により打ち砕く少年の物語 幼い頃に両親を亡くし、周囲から疎まれながら生きてきた主人公、僑國シノア。 ある日、クラスメイトと共に異世界へと召喚されてしまう。その世界はシノアたちの世界とはまるで異なり、科学の代わりに魔法が発達していた。 シノアたちを召喚した神官たちの話によると、長年続く戦争終結のためシノアたちを召喚したのだという。 ほかのクラスメイトたちが規格外の強さを有している中、シノアは何の能力も持たず無能の烙印を押されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 無能とは無限の可能性を秘めた最高の存在であることを。 ※第1章である異世界転生篇は説明回に近いです 週1回のペースで投稿しています 申し訳ありませんが、しばらくお休みを頂きたく存じます

婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ
ファンタジー
私、ルナ・ニールセン子爵令嬢。私は魔力が強い事で目を付けられ、格上のフォーラス侯爵家・長男ハリソン様と強引に婚約させられた。 ところが魔法を学ぶ学園に入学したけど、全く魔法が使えない。魔方陣は浮かぶのに魔法が発動せずに消えてしまう。練習すれば大丈夫と言われて、早三年。いまだに魔法が使えない私は“ポンコツ魔法使い”と呼ばれていた。 魔法が使えない事を不満に思っていた婚約者は、遂に我慢の限界がきたらしい。 「お前の有責で婚約は破棄する!」 そう大きな声で叫ばれて美女と何処かへ行ったハリソン様。 あの、ここ陛下主催の建国記念の大舞踏会なんですけど?いくら不満だったからってこんな所で破棄を言わなくても良いじゃない! その結果、騎士団が調査する事に。 そこで明らかになったのは侯爵様が私に掛けた呪い。 え?私、自分の魔力を盗まれてたの?婚約者は魔力が弱いから私から奪っていた!? 呪いを完全に解き魔法を学ぶ為に龍人の村でお世話になる事になった私。 呪いが解けたら魔力が強すぎて使いこなせません。 ……どうしよう。 追記 年齢を間違えていたので修正と統一しました。 ルナー15歳、サイオスー23歳 8歳差の兄妹です。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

処理中です...