上 下
417 / 501
第10章 未来へ繋ぐ想い

第82話ー② S級クラスの出来事

しおりを挟む
 翌日、研究所から一台の車がやってきて、その中からゆめかが降りてきた。

「やあ、暁先生! 調子はどうだい?」
「ええ、いつも通りですよ」
「そうか、そうか」

 ニコニコと笑いながらそう言うゆめか。

「お姉さん、こんにちは!」

 水蓮はそう言って暁の後ろからひょこっと顔を出す。

「ああ、水蓮。大きくなったね」
「うん! スイ、もう大人なので」
「あはは! そうか。水蓮ももう小学生だったよね。うんうん」

 そう言って水蓮の頭を撫でるゆめか。

「お姉さん、お仕事頑張ってね! スイはお姉さんを応援しています!!」
「あはは、ありがとう。頑張るよ! 水蓮もお勉強頑張って」
「はい!!」
「じゃあ私はこれで。ローレンス君、そろそろ車を降りたらどうだい?」

 ゆめかは車の中に向かってそう言った。

 そういえば、いつまで経っても出てこないなとは思っていたけど――

「恥ずかしがり、なんですか?」
「そういうわけじゃないさ。おーい」
「き、聞こえてるって!」

 そう言って顔を出すローレンスと呼ばれたツンツン頭の少年。

「ローレンス……?」

 なんだか名前の割に顔は日本人だな――

 そう思いながら顔を出したローレンスを見つめる暁。

「そういう反応されると思ったから顔を出すのが嫌だったんだって!」
「あははは! 暁先生は特にわかりやすいからね!」
「それ、馬鹿にしてませんか?」

 暁は笑うゆめかの顔を見て、唇を尖らせながらそう言った。

「それだけ素直だってことだよ!」
「ま、まあそういうことにしておきます。えっと、じゃあローレンス。今日からよろしくな!」
「は、はい……」

 そう言って車を降りるローレンス。

「じゃあ、あとはよろしく。またね、ローレンス君」
「あ、ありがとうございました」

 そう言ってローレンスは頭を下げた。

『エヴィル・クイーン』にいたって聞いていたけど、ちゃんと礼儀正しいんだな――

 暁はそんなことを思いながら、頭を下げるローレンスを見つめていた。

 それからゆめかは研究所に戻って行った。

「そうだ、俺の名前は三谷暁。ここで教師をしているんだ!」
「スイの名前は、最上水蓮です。小学1年生です! よろしくお願いします!!」

 暁と水蓮がそれぞれ挨拶をすると、ローレンスは軽く頭を下げてから「よろしくお願いします」と言った。

「よろしくな! じゃあ、さっそく行こうか。建物の中と生徒たちの紹介もしたいしな!」

 暁が笑顔でそう言うと、

「はい、お願いします!」

 とローレンスは、真面目な顔でそう言った。

 そして暁たちは建物の中へと向かって行ったのだった。



 ――廊下にて。

「この先が職員室。そしてあっちが食堂だ」

 暁は歩きながら施設内を説明して回っていた。

「へえ。意外とちゃんとしているんだな……」

 ローレンスは感心しながらそう言って歩いていた。

「そんなに興味を持ってもらえて嬉しいよ! そういえば、ローレンスはここに来る前は研究所にいたんだろ? どう過ごしていたんだ?」
「ああ、えっと……」

 困った顔でそう言うローレンス。

 もしかして、自分が『エヴィル・クイーン』だったことを気にしているのか――?

「ローレンスが『エヴィル・クイーン』にいたことは所長から聞いているよ。だから話せる範囲で構わないから気兼ねなく話してくれ」」
「そうですか。えっと……俺は研究所襲撃事件の後から、研究所の奥の部屋で閉じ込められていたんです」

 ローレンスは俯きながらそう言った。

「そう、か……」

 まあその襲撃事件だったり、『ゼンシンノウリョクシャ』の隔離事件だったり。『エヴィル・クイーン』にはあまりいい印象がなかったから仕方がないか――

 暁はそう思いながら、俯くローレンスを見つめた。

「でも研究所の偉い人が、暁先生のところなら安心だって言って、外に出ることができたんです。もう二度と出られないと思っていた外に。だから今度はちゃんとした人間になりたい。ここで勉強して、それでまともな人生を――って何言ってるんだろうな、俺ってば」

 そう言って悲しそうに笑うローレンス。

 このままじゃ、ローレンスは過去にしてしまった罪に押し潰されてしまいそうだ――暁はローレンスを見てそう思う。

「今までローレンスが何をしてきたのか、俺は知らない。だから俺はこれからのローレンスが全てだ」
「え……」
「この施設で何か一つでも大切なことを学んで、そして良い大人になれ、ローレンス。ここはそういう場所だからさ」

 そう言って微笑む暁。

「……はい!」

 ローレンスは笑顔でそう返した。

「じゃあ次、行こう! 食堂でみんなが待っているからさ」

 そして暁たちは食堂へ向かった。



 ――食堂にて。

「おーい、連れてきたぞ」
「お疲れ、先生! 新入りは――」

 そしてローレンスの顔を見た剛。

「ローレンス! 久しぶりだなあ!!」

 剛はそう言ってローレンスの傍により、肩をバンバンと叩く。

「剛、知り合いだったのか」
「おう! 研究所の時以来だな!」

 剛がそう言ってニッと笑うと、

「そう、だな」

 元気がなさそうに答えるローレンス。

 どのタイミングで剛とローレンスが出会ったのかはわからないけれど、おそらくさっき言っていた襲撃事件のことと関係があるんだろうな――

 ローレンスの表情を見ながらそんなことを思う暁。

「いやあ、まさか本当に暁先生のところに来るなんてさ!」
「まあ、なりゆきではあるんだけどな」
「え? 剛がローレンスに俺のことを?」
「まあ、そんな感じだな!」

 自慢げにそう言って笑う剛。

「あはは。確かに」
「そうか……」

 その時の剛が何を言ってくれたのかはわからないけど、ローレンスと俺がこうして出逢うきっかけを作ってくれたんだな――

 暁はそんなことを思い、微笑んだ。

「お久しぶりですね、えっと……ローリング君?」

 狂司はローレンスの元にゆっくりと歩み寄りながら、笑顔でそう言った。

「お、お前――!」

 そう言って狂司を睨むローレンス。

 2人の空気感に静まり返る食堂。

 この2人が出会えば空気が重くなることをなんとなく察していた暁は、

「過去は過去、今は今。そうだろ?」

 ローレンスと狂司の顔を見てそう言った。

 それから狂司はため息を吐くと、ニコッとローレンスに微笑んだ。

「まあ、先生の言葉には賛成です。今日からクラスメイトとしてよろしくお願いしますね、ロンリネス君?」
「ローレンスだって! それ、わかってやってるだろ!!」
「あははは!」

 狂司は笑いながら食堂を出て行った。

「烏丸君!」

 後ろで黙って見ていた織姫は、狂司を追って食堂を出て行った。

「あらら。織姫行っちゃったじゃん。まあいっか。私は如月実来! 宜しくね、ローランド? 君!」
「いや、だからローレンスだって! そんなホスト界の帝王みたいな名前で呼ぶなっ!!」
「あはは! 冗談だって! 宜しく、ローレンス君!!」
「よ、宜しく……」

 疲弊した様子でそう言うローレンス。

 まあ、食堂に来て早々に生徒たち絡まれて疲れたんだろうな――

 そんなことを思いながら、暁は困り顔でローレンスを見つめる。

「そういえば、なんでローレンス? 絶対に日本人じゃん」
「あ、それは……」
「もしかして――」
「え!?」

 ニヤリと笑う実来にはっとするローレンス。

「良いって、良いって。無理して言わなくてもわかってるから!!」

 実来は腕を組み、そう言って「うんうん」と頷く。

「お前、何を知って……」
「ほら、あれでしょ? 左手に封印された力が――! ってやつ!!」
「違うっ!!」
「あははは!!」

 実来は楽しそうに笑っていた。

 そういえば、実来もだいぶ施設に馴染んできたな――

 そんなことを思いながら、暁は実来を見つめる。

「ローレンスにも、早くここを好きになってもらいたいな」

 暁は微笑みながらそう呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...