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第10章 未来へ繋ぐ想い

第82話ー① S級クラスの出来事

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 優香たちが戻る5日前のこと。神社を出た暁は、数時間掛けてS級施設へと戻ってきていた。

 S級施設、エントランスゲートにて――

「優香は無事にキリヤと会えただろうか……」

 暁はそんなことを呟きながら、エントランスゲートを潜る。そして神主から聞いた異能力のことをふと思い出していた。

『私達の一族は代々、異能力を持って生まれる稀有な存在だった。しかし20年ほど前、突如私達の一族の力と類似した力……今は『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』と言うのだったな。その力が発見された――』

 それから神主の子孫たちの手によって『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』と呼ばれる前の異能力が未来で広がり、その力を『エヴィル・クイーン』にいた大人たちが現代に持ってきたということだった。

「でもまさか『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の元になる能力が存在していたなんてな」

 しかしその情報を外へ漏らすことは禁止された暁。それはその力の悪用を避けるためという事だった。

 この世界には『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』が広がっている。今更なぜ隠す必要が? それに研究所に報告すれば、きっと研究にも大きく役に立つはずなのにな――

「うーん。でもやっぱり他言無用だと言われたなら、そうするべき……だよな」

 そして暁は、今回得た情報は所長たちには開示しないことを決めたのだった。



 食堂にて――

「ただいま」

 暁がそう言って食堂に入ると、生徒たちが夕食を摂っていた。

「おう、おかえり先生!」

 そう言って暁の元へやってくる剛。

「ただいま、剛。みんな、変わりなかったか?」
「ああ。水蓮も良い子にしていたよな!」

 剛が水蓮に向かってそう言うと、

「うん! だってスイはもう子供じゃないもん!」

 水蓮は自慢げにそう言った。

「あらあら、先生がいなくて寂しいって昨日の夜に泣いていた子は誰だったかしら?」

 奏多はニコニコとしながら、水蓮にそう言った。

「奏多ちゃん、それはシーなの~!!」
「うふふ」

 奏多は嬉しそうに笑っていた。

「奏多もいろいろとありがとな」
「いえいえ。暁さんの為なら」
「おう!」
「ごほん、ここは食堂ですよ? いつまでいちゃいちゃとしていらっしゃるのです?」

 織姫はそう言って奏多と暁の間に立ってそう言った。

「いちゃいちゃなんて――!」
「織姫だって人の事は言えないでしょう?」
「わ、私はそんな公共の場でいちゃいちゃなんか――」
「公共の場?」

 奏多はニヤニヤと笑いながら織姫にそう言う。

「ううう……」

 ははは、今日も奏多さんは楽しそうだな――

 そんなことを思いながら、暁は織姫に同情の目を向けていた。

「織姫、それ以上はやめておけ。絶対に勝てない相手ってのはいるんだよ」

 暁は頷きながら織姫にそう言った。

 それから織姫は顔を真っ赤にして、座っていた席に戻ったのだった。

 昼間のことが嘘みたいに、ここは平和だな――

 ふとそんなことを思う暁。

「……何かありました?」

 奏多はそう言って暁の隣に立つ。

 他言無用とは言われたけど、奏多には話してもいいかもしれない。協力してもらってるしな――

「ああ、メシでも食べながら話すよ」
「はい」

 それから暁は今日までにあったことを奏多に説明した。

白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』がどこから生まれたのか、キリヤがどうなってしまったのか。そして優香が今どうしているのかを。

「まさか『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』が未来から来た力だったなんて……しかもその力はもともとこの世界に存在していると」

 目を丸くしながら奏多はそう言った。

「本当にびっくりだよな」
「キリヤは大丈夫なんですか? 帰って来られる保証は……?」

 不安げな顔でそう言う奏多。

 そして暁は神主から言われたことを思い出す。

『一定の期間、別の時間軸にいるとその世界に馴染んでしまって、元の世界のことを忘れていく――』

『――きっとここにいた時のことはきれいさっぱり忘れているだろう』

「わからない。でも、俺は優香とキリヤを信じる。きっと2人で帰ってくるさ」

 暁はそう言って笑った。

「ふふふ。暁さんはやっぱり暁さんですね」
「そ、そうか?」
「ええ。あなたが2人を信じるというのなら、私も信じましょう。剛のように、きっと今回も大丈夫です」

 そう言って奏多は剛の方を見た。

「そうだな」

 そして奏多と暁は嬉しそうに笑った。

「――あ、そろそろ迎えが来るみたいです。もっと暁さんとお話ししたいところですが、今回はこの辺で」

 そう言って立ち上がる奏多。

「あ、ちょっと待った!」
「え?」
「ゲートまで送るよ。それくらいはさせてくれ」
「ええ、もちろん」

 そして暁は奏多を見送り、授業の支度をしてから眠りについたのだった。



 ――翌日。

 いつものように教室では授業が行われていた。

「先生! わかりませんっ!!」

 水蓮は、元気よく手を上げながらそう言った。

「お~どれどれ」

 そんな平和な一日を終え、暁はいつものように職員室で報告書を作成していた。

「今日はこんなもんか……よし」

 そう言ってから背中を伸ばす暁。

 優香、大丈夫だろうか――

 そんなことをふと思う暁。

「まあ俺はここで信じて待つしかないよな――電話?」

 振動する暁のスマホ。その着信相手は――

「所長……? もしかして、優香たちが戻ったのか!?」

 そして着信に応じる暁。

「もしもし! どうしたんですか!? 優香たちが戻って――」
『ああ、ごめん! 違うんだ!! 紛らわしい電話をしてすまんな』
「俺もすみません……気がはやってしまって」

 さすがの優香でも2,3日じゃ、状況は変わらない、か――

 そんなことを思い、肩を落とす暁。

『まあ心配な気持ちはわかるよ。だから謝ることじゃないさ』
「はい……あの、それで?」
『ああ、そうだった。それが、また一人、暁君のところで見てほしい子がいてな……』
「はい」

 なんだろう。所長が少し困っているような? またSS級の子供が現れたのか――

『実は、『ポイズン・アップル』の被害者というか加害者というか……』
「へ? どっちなんですか?」
『ああ、それがね――』

 それから所長はその子供を保護した経緯を暁に話した。


「なるほど。つまりもともと『エヴィル・クイーン』にいて、自らが実験体として活動していたと」

『そうだ。それで、『エヴィル・クイーン』が『アンチドーテ』と敵対していたことは知っているよな?』

「はい――ああ、なるほど」


 おそらく所長が言いたいのは、狂司とその子供が会った時、何か問題が起こるのではないかという事だと悟る暁。

「そういう時のために俺がいるんですよ、所長?」
『あはは。君はそんなことまで言えるようになったんだな! じゃあ、お願いしてもいいかい?』
「はい、もちろん」
『じゃあ明日、連れて行くからな。よろしく頼んだよ』

 そして通話を終えた暁。

「そうか。またひと悶着ありそうだな……」

 そう言いつつも、何とかなるとそう思う暁だった。
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