上 下
407 / 501
第10章 未来へ繋ぐ想い

第80話ー③ 最後の足取り

しおりを挟む
「じゃあさっきの続きですね」

 そう言って神主は椅子に腰かけ、キリヤのことを暁たちに話し始める。

 ――3か月前、キリヤは『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』のことを調べるためにこの神社へやってきた。

 そしてその時に、この神社に棲む一族が『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の元となる力を受け継ぐ一族だったことを知る。

白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』は未来の子供たちが持ってきた種によって広がった力だと知ると、それを止めるために未来へ向かったという事だった。

「――じゃあキリヤは本当に今、未来に?」

 暁が目を丸くしてそう言うと、

「……わからない。もしかしたら、もう存在が消えてしまっているかもしれないし、別の次元に飛ばされている可能性だってある」

 神主はそう言って俯いた。

「そんな……」

 暁は不安げな表情でそう呟く。

 それって大丈夫なのか? もう、戻ってこれないなんてことはないのか――?


「戻って来れるようにと渡り石は渡していたけれど、もしかしたら使うのが間に合わなかったのかもしれない。それで――」

「どうしてですか! なぜそんな危険なことを、キリヤ君がしなくちゃならなかったんですかっ!!」


 優香は神主の言葉を遮るように、声を荒げてそう言った。

「命を懸けてでも守りたい大切な人のためだと、彼は言っていたな」
「え……?」
「君の為なんじゃないか?」

 神主はそう言って優香に微笑んだ。

「そ、それは、違います! きっと、私じゃないです!!」

 優香は頬を赤く染めて、狼狽えながらそう言った。

「なんでそこを否定するんだよ」

 暁はそう言って、クスクスと笑う。そして、

「まあ、それはそれとして……キリヤを連れ戻す方法はないんですか?」

 真面目な顔をして暁がそう尋ねると、

「ないこともないね」

 と神主は答えた。

「じゃあ――」
「でも、それもまたリスクを伴う」

 神主は暁の顔をまっすぐに見てそう言った。


「リスク……?」

「ああ。一定の期間、別の時間軸にいるとその世界に馴染んでしまって、元の世界のことを忘れていく。だから、なるべく早めに帰還しなければならないんだ」

「え、それって……キリヤはもしかしたら今いる世界が自分の生きてきた世界って思い込んでいる可能性がありませんか?」


 暁のその問いに、神主は静かに頷くと、

「その可能性が高いね。未来にいるのか別世界にいるのかはわからないけれど、きっとここにいた時のことはきれいさっぱり忘れているだろう」

 淡々とそう告げた。

「そんな……じゃあ私達が連れ戻そうとしても、キリヤ君がそれを望まないこともあり得るってことですよね」
「残酷だけど、そういうことだね」

 それを聞いた優香は肩を落とす。

「優香……」

 せっかくあの隔離事件が解決して、また優香はキリヤと一緒にいられるはずだったのに。こんな一方的な別れがあっていいのか――?

 暁はそっと目を閉じる。そしてその瞼には楽しげに笑う優香とキリヤの姿が映った。

 やっぱり、俺はこんなところで諦めたくはない――!

 それからゆっくりと目を開けた暁は、

「それでも行きたいと言ったら、どうします?」

 神主の顔を見て、そう言った。

「先生!?」

 驚いた顔で暁を見つめる優香。そして、

「もちろん、止めません。それに私も責任は感じているので、ちゃんと謝りたい。私が未来へ行くことを提案して、絶対大丈夫だと思っていたけれど、結果はこうだ……」

 神主は申し訳なさそうな顔でそう言った。

「……じゃあ、俺が行きます。キリヤを必ず説得します!」
「ああ、わかった」

 神主は笑顔でそう言った。それから「でもね」と言って眉を顰めると、

「その為には、条件を満たす必要があるんだ」

 とそう言った。

「条件?」

 首を傾げる暁。

「ああ、キリヤ君と繋がりのあるものを持っているかどうかってことだ。それを頼りにキリヤ君の元へと飛んでもらうからね」
「繋がりのあるもの……施設にはあるかもれないけど」

 暁がそう言って考えていると、

「これなら、どうですか……?」

 優香はそう言いながら、左手のバングルを神主に見せる。

「これは?」

 暁がそう尋ねると、

「キリヤ君とお揃いの物なんです。これなら、キリヤ君も」

 優香は真剣な顔でそう言った。

「うん。これならいける!」

 神主はそう言って微笑んだ。

「じゃあ先生に――」
「いや、優香が行くんだ」

 そう言ってバングルを外そうとした優香の手を止める暁。

「え?」
「これは優香とキリヤの絆だろう。だったら、優香が着けて行かないと意味がない、だろ?」

 暁はそう言ってニッと笑った。

「で、でも……私じゃきっと、キリヤ君を説得するなんて――」
「大丈夫。だって、俺より優香の方がずっとキリヤの傍にいただろうし、キリヤのことをわかっているんじゃないか?」
「……」

 俯く優香。

「それに俺は他の生徒たちのこともあるし、奏多に日曜日の夜には帰ってきなさいって言われているしな……だから優香に任せた!!」

 暁はそう言って親指を立てる。

 それを見た優香はくすっと笑うと、

「わかりました」

 笑顔で暁にそう言ったのだった。

「じゃあ、そろそろ準備はいいかな?」
「……はい」

 そして暁たちは神社の境内へ行くと、優香と神主は向き合って立つ。

「よろしくな、優香」
「はい!」
「あ、そうだ。これを渡しておくよ」

 そう言って神主は丸い小石を優香に差し出す。

「これは一体……?」
「帰るときに必要になる。キリヤ君にも渡した『渡り石』だ」
「なるほど。ありがとうございます!」

 優香はその小石を受け取り、ポケットにしまった。

「それじゃ、行こうか」

 神主がそう言うと、優香の周りが光り出した。

「はい!!」

 そして次の瞬間、優香の身体はそのまま消えてなくなったのだった。

「本当に能力者なんですね。しかも『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』じゃないなんて」
「ははは。これが我々の一族の特権みたいなものだからね」
「また詳しく教えてもらってもいいですか、その力のことを」

 暁がそう言うと、

「ああ、もちろん」

 神主はそう言って笑った。

「じゃあ家の中に入ろう。あとは彼女に任せてね」
「はい!」



 頑張れよ、優香――

 暁は空に向かってそう呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。

月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」  公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。 一応、R15にしました。本編は全5話です。 番外編を不定期更新する予定です!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...