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第10章 未来へ繋ぐ想い
第80話ー③ 最後の足取り
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「じゃあさっきの続きですね」
そう言って神主は椅子に腰かけ、キリヤのことを暁たちに話し始める。
――3か月前、キリヤは『白雪姫症候群』のことを調べるためにこの神社へやってきた。
そしてその時に、この神社に棲む一族が『白雪姫症候群』の元となる力を受け継ぐ一族だったことを知る。
『白雪姫症候群』は未来の子供たちが持ってきた種によって広がった力だと知ると、それを止めるために未来へ向かったという事だった。
「――じゃあキリヤは本当に今、未来に?」
暁が目を丸くしてそう言うと、
「……わからない。もしかしたら、もう存在が消えてしまっているかもしれないし、別の次元に飛ばされている可能性だってある」
神主はそう言って俯いた。
「そんな……」
暁は不安げな表情でそう呟く。
それって大丈夫なのか? もう、戻ってこれないなんてことはないのか――?
「戻って来れるようにと渡り石は渡していたけれど、もしかしたら使うのが間に合わなかったのかもしれない。それで――」
「どうしてですか! なぜそんな危険なことを、キリヤ君がしなくちゃならなかったんですかっ!!」
優香は神主の言葉を遮るように、声を荒げてそう言った。
「命を懸けてでも守りたい大切な人のためだと、彼は言っていたな」
「え……?」
「君の為なんじゃないか?」
神主はそう言って優香に微笑んだ。
「そ、それは、違います! きっと、私じゃないです!!」
優香は頬を赤く染めて、狼狽えながらそう言った。
「なんでそこを否定するんだよ」
暁はそう言って、クスクスと笑う。そして、
「まあ、それはそれとして……キリヤを連れ戻す方法はないんですか?」
真面目な顔をして暁がそう尋ねると、
「ないこともないね」
と神主は答えた。
「じゃあ――」
「でも、それもまたリスクを伴う」
神主は暁の顔をまっすぐに見てそう言った。
「リスク……?」
「ああ。一定の期間、別の時間軸にいるとその世界に馴染んでしまって、元の世界のことを忘れていく。だから、なるべく早めに帰還しなければならないんだ」
「え、それって……キリヤはもしかしたら今いる世界が自分の生きてきた世界って思い込んでいる可能性がありませんか?」
暁のその問いに、神主は静かに頷くと、
「その可能性が高いね。未来にいるのか別世界にいるのかはわからないけれど、きっとここにいた時のことはきれいさっぱり忘れているだろう」
淡々とそう告げた。
「そんな……じゃあ私達が連れ戻そうとしても、キリヤ君がそれを望まないこともあり得るってことですよね」
「残酷だけど、そういうことだね」
それを聞いた優香は肩を落とす。
「優香……」
せっかくあの隔離事件が解決して、また優香はキリヤと一緒にいられるはずだったのに。こんな一方的な別れがあっていいのか――?
暁はそっと目を閉じる。そしてその瞼には楽しげに笑う優香とキリヤの姿が映った。
やっぱり、俺はこんなところで諦めたくはない――!
それからゆっくりと目を開けた暁は、
「それでも行きたいと言ったら、どうします?」
神主の顔を見て、そう言った。
「先生!?」
驚いた顔で暁を見つめる優香。そして、
「もちろん、止めません。それに私も責任は感じているので、ちゃんと謝りたい。私が未来へ行くことを提案して、絶対大丈夫だと思っていたけれど、結果はこうだ……」
神主は申し訳なさそうな顔でそう言った。
「……じゃあ、俺が行きます。キリヤを必ず説得します!」
「ああ、わかった」
神主は笑顔でそう言った。それから「でもね」と言って眉を顰めると、
「その為には、条件を満たす必要があるんだ」
とそう言った。
「条件?」
首を傾げる暁。
「ああ、キリヤ君と繋がりのあるものを持っているかどうかってことだ。それを頼りにキリヤ君の元へと飛んでもらうからね」
「繋がりのあるもの……施設にはあるかもれないけど」
暁がそう言って考えていると、
「これなら、どうですか……?」
優香はそう言いながら、左手のバングルを神主に見せる。
「これは?」
暁がそう尋ねると、
「キリヤ君とお揃いの物なんです。これなら、キリヤ君も」
優香は真剣な顔でそう言った。
「うん。これならいける!」
神主はそう言って微笑んだ。
「じゃあ先生に――」
「いや、優香が行くんだ」
そう言ってバングルを外そうとした優香の手を止める暁。
「え?」
「これは優香とキリヤの絆だろう。だったら、優香が着けて行かないと意味がない、だろ?」
暁はそう言ってニッと笑った。
「で、でも……私じゃきっと、キリヤ君を説得するなんて――」
「大丈夫。だって、俺より優香の方がずっとキリヤの傍にいただろうし、キリヤのことをわかっているんじゃないか?」
「……」
俯く優香。
「それに俺は他の生徒たちのこともあるし、奏多に日曜日の夜には帰ってきなさいって言われているしな……だから優香に任せた!!」
暁はそう言って親指を立てる。
それを見た優香はくすっと笑うと、
「わかりました」
笑顔で暁にそう言ったのだった。
「じゃあ、そろそろ準備はいいかな?」
「……はい」
そして暁たちは神社の境内へ行くと、優香と神主は向き合って立つ。
「よろしくな、優香」
「はい!」
「あ、そうだ。これを渡しておくよ」
そう言って神主は丸い小石を優香に差し出す。
「これは一体……?」
「帰るときに必要になる。キリヤ君にも渡した『渡り石』だ」
「なるほど。ありがとうございます!」
優香はその小石を受け取り、ポケットにしまった。
「それじゃ、行こうか」
神主がそう言うと、優香の周りが光り出した。
「はい!!」
そして次の瞬間、優香の身体はそのまま消えてなくなったのだった。
「本当に能力者なんですね。しかも『白雪姫症候群』じゃないなんて」
「ははは。これが我々の一族の特権みたいなものだからね」
「また詳しく教えてもらってもいいですか、その力のことを」
暁がそう言うと、
「ああ、もちろん」
神主はそう言って笑った。
「じゃあ家の中に入ろう。あとは彼女に任せてね」
「はい!」
頑張れよ、優香――
暁は空に向かってそう呟いたのだった。
そう言って神主は椅子に腰かけ、キリヤのことを暁たちに話し始める。
――3か月前、キリヤは『白雪姫症候群』のことを調べるためにこの神社へやってきた。
そしてその時に、この神社に棲む一族が『白雪姫症候群』の元となる力を受け継ぐ一族だったことを知る。
『白雪姫症候群』は未来の子供たちが持ってきた種によって広がった力だと知ると、それを止めるために未来へ向かったという事だった。
「――じゃあキリヤは本当に今、未来に?」
暁が目を丸くしてそう言うと、
「……わからない。もしかしたら、もう存在が消えてしまっているかもしれないし、別の次元に飛ばされている可能性だってある」
神主はそう言って俯いた。
「そんな……」
暁は不安げな表情でそう呟く。
それって大丈夫なのか? もう、戻ってこれないなんてことはないのか――?
「戻って来れるようにと渡り石は渡していたけれど、もしかしたら使うのが間に合わなかったのかもしれない。それで――」
「どうしてですか! なぜそんな危険なことを、キリヤ君がしなくちゃならなかったんですかっ!!」
優香は神主の言葉を遮るように、声を荒げてそう言った。
「命を懸けてでも守りたい大切な人のためだと、彼は言っていたな」
「え……?」
「君の為なんじゃないか?」
神主はそう言って優香に微笑んだ。
「そ、それは、違います! きっと、私じゃないです!!」
優香は頬を赤く染めて、狼狽えながらそう言った。
「なんでそこを否定するんだよ」
暁はそう言って、クスクスと笑う。そして、
「まあ、それはそれとして……キリヤを連れ戻す方法はないんですか?」
真面目な顔をして暁がそう尋ねると、
「ないこともないね」
と神主は答えた。
「じゃあ――」
「でも、それもまたリスクを伴う」
神主は暁の顔をまっすぐに見てそう言った。
「リスク……?」
「ああ。一定の期間、別の時間軸にいるとその世界に馴染んでしまって、元の世界のことを忘れていく。だから、なるべく早めに帰還しなければならないんだ」
「え、それって……キリヤはもしかしたら今いる世界が自分の生きてきた世界って思い込んでいる可能性がありませんか?」
暁のその問いに、神主は静かに頷くと、
「その可能性が高いね。未来にいるのか別世界にいるのかはわからないけれど、きっとここにいた時のことはきれいさっぱり忘れているだろう」
淡々とそう告げた。
「そんな……じゃあ私達が連れ戻そうとしても、キリヤ君がそれを望まないこともあり得るってことですよね」
「残酷だけど、そういうことだね」
それを聞いた優香は肩を落とす。
「優香……」
せっかくあの隔離事件が解決して、また優香はキリヤと一緒にいられるはずだったのに。こんな一方的な別れがあっていいのか――?
暁はそっと目を閉じる。そしてその瞼には楽しげに笑う優香とキリヤの姿が映った。
やっぱり、俺はこんなところで諦めたくはない――!
それからゆっくりと目を開けた暁は、
「それでも行きたいと言ったら、どうします?」
神主の顔を見て、そう言った。
「先生!?」
驚いた顔で暁を見つめる優香。そして、
「もちろん、止めません。それに私も責任は感じているので、ちゃんと謝りたい。私が未来へ行くことを提案して、絶対大丈夫だと思っていたけれど、結果はこうだ……」
神主は申し訳なさそうな顔でそう言った。
「……じゃあ、俺が行きます。キリヤを必ず説得します!」
「ああ、わかった」
神主は笑顔でそう言った。それから「でもね」と言って眉を顰めると、
「その為には、条件を満たす必要があるんだ」
とそう言った。
「条件?」
首を傾げる暁。
「ああ、キリヤ君と繋がりのあるものを持っているかどうかってことだ。それを頼りにキリヤ君の元へと飛んでもらうからね」
「繋がりのあるもの……施設にはあるかもれないけど」
暁がそう言って考えていると、
「これなら、どうですか……?」
優香はそう言いながら、左手のバングルを神主に見せる。
「これは?」
暁がそう尋ねると、
「キリヤ君とお揃いの物なんです。これなら、キリヤ君も」
優香は真剣な顔でそう言った。
「うん。これならいける!」
神主はそう言って微笑んだ。
「じゃあ先生に――」
「いや、優香が行くんだ」
そう言ってバングルを外そうとした優香の手を止める暁。
「え?」
「これは優香とキリヤの絆だろう。だったら、優香が着けて行かないと意味がない、だろ?」
暁はそう言ってニッと笑った。
「で、でも……私じゃきっと、キリヤ君を説得するなんて――」
「大丈夫。だって、俺より優香の方がずっとキリヤの傍にいただろうし、キリヤのことをわかっているんじゃないか?」
「……」
俯く優香。
「それに俺は他の生徒たちのこともあるし、奏多に日曜日の夜には帰ってきなさいって言われているしな……だから優香に任せた!!」
暁はそう言って親指を立てる。
それを見た優香はくすっと笑うと、
「わかりました」
笑顔で暁にそう言ったのだった。
「じゃあ、そろそろ準備はいいかな?」
「……はい」
そして暁たちは神社の境内へ行くと、優香と神主は向き合って立つ。
「よろしくな、優香」
「はい!」
「あ、そうだ。これを渡しておくよ」
そう言って神主は丸い小石を優香に差し出す。
「これは一体……?」
「帰るときに必要になる。キリヤ君にも渡した『渡り石』だ」
「なるほど。ありがとうございます!」
優香はその小石を受け取り、ポケットにしまった。
「それじゃ、行こうか」
神主がそう言うと、優香の周りが光り出した。
「はい!!」
そして次の瞬間、優香の身体はそのまま消えてなくなったのだった。
「本当に能力者なんですね。しかも『白雪姫症候群』じゃないなんて」
「ははは。これが我々の一族の特権みたいなものだからね」
「また詳しく教えてもらってもいいですか、その力のことを」
暁がそう言うと、
「ああ、もちろん」
神主はそう言って笑った。
「じゃあ家の中に入ろう。あとは彼女に任せてね」
「はい!」
頑張れよ、優香――
暁は空に向かってそう呟いたのだった。
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