白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第10章 未来へ繋ぐ想い

第79話ー⑨ 私の守りたかった場所

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 ――屋上にて。

 暁は膝を抱えて小さくなっている実来を見つけると、

「こんなところにいたんだな」

 そう言って笑った。

 実来はその言葉に答えることはなく、顔を伏せたままだった。

「隣、座るぞ」

 そう言いながら、暁は実来の隣に腰を下ろす。

「屋上の場所なんて教えてないんだけどな。もしかして奏多のファン、とか?」
「そんな人、知らない……」
「そうか……じゃあ『はちみつとジンジャー』か!」

 暁のその問いに実来は「うん」と小さな声で答える。

「へえ、そうなんだな。もしかしてテレビで放映されてた演奏を観てここを知ったのか」
「ううん。もっと前。『ASTERアスター』のあやめ、君が拡散した動画を観て」
「ああ、初ライブの時のあれか……懐かしいな」

 そう呟いて、暁は真一としおんが初めてライブをしていた時のことを思い出す。

 夏休みに行われたレクリエーション。2人が用意した手作りのステージとバックに映る夜景がとても綺麗だったな――

「なあ、聞きたいか? その時の事!」
「……なんで?」
「え?」
「そんな話をしに来たわけじゃないんでしょ。本星崎さんや他の生徒に謝れって言いに来たんでしょ」

 顔を伏せたまま実来はそう言った。

「うーん。そこまでのことを考えて食堂を飛び出したわけじゃないんだよな」

 そう言って困った顔をする暁。

 そして実来は顔を上げて、

「先生って意外と何も考えてない感じ?」

 眉間に皺を寄せてそう言った。

「ま、まあ大体合っているかな。でも、身体が勝手に動いたっていうか……あんなことを言うのは、何か理由があるんだろうなって思ったからさ」

 そう言ってニコッと微笑む暁。

「……ちゃんと考えてるじゃん」
「そうか? あはは! ――それで、何があったんだ?」
「言いたくない」

 そう言って実来は再び顔を伏せる。

「そうか……」

 そういえばさっき、自分はS級じゃない。普通の人間だって言っていたな――

 それから暁は、実来がいつもスマホを気にしていたことをふと思い出した。

 授業が終わってすぐにスマホを取り出し、誰かに連絡をしていたり、食堂にいるときは常に肌身離さずスマホを持ち歩き、何度も画面をチェックしていた実来の姿を。

 そして暁は実来が外にいる誰かに執着していることを察したのだった。

 そうか。実来は必死だったのか、帰る場所を守ることに――

「実来。答えなくてもいいから、俺の話を聞いてくれ」
「……」
「俺の友達の話だ――」

 それから暁は自分の学生時代のことを話し始める。

「――それで最近、お互いが大人になってから初めて再会したんだけどさ。俺はその友達にあまりいい印象を持たれていないと思っていたんだけど、でも違ったんだ。たくやは俺に会いたかったって。そう言ってくれたんだ」
「え……」

 実来は顔を上げて、暁の方を見た。

「俺はまだ『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力者だし、SS級のままだけど……それでも俺に会いたかった、あえて嬉しいってたくやは言ってくれたんだよ」

 きっと俺が逆の立場でもたくやにそう告げる。それが友人ってもんだと俺は思うから――

「そんな……外の世界では、『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力者もS級クラスの生徒たちも嫌われて……みんな怖いって化け物だって言ってたのに」

 そう言って膝を抱える手に力を入れる実来。

 そう、だったんだな。実来はそのことをずっと気にしていたのか。自分が他と違う人間だと恐れられることを――

 暁は、実来の顔をまっすぐに見ると、

「そう思う人だっているだろうさ。けど、みんなが同じ感情を持つわけじゃない。心のカタチだって人それぞれだからな」

 そう言って笑う。

「でも……」

 人と違うことは確かに怖い。でも、その力はもう自分の一部のようなものだ。だからその力を自分が信じて、これが自分なんだってそう思えたらいいんじゃないか――

「実来。『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』は恐れられる力なんかじゃない。これはただの個性みたいなもんなんだよ」
「個性?」

 実来は目を丸くして首を傾げる。

「そうだ! 他の人より、少しだけ変わった個性。他の人にはできないようなすごい個性だ!」
「すごい、個性……」

 そう呟き、小さく頷く実来。

「おう! だから自分と少しでも違うところがあるだけで、それを恐れる人間だっているだろうさ。でもそれはS級のことも『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』のこともわからないからそう思うんだ。実来は自分が能力者になってみて、どうだった?」

 暁が笑顔でそう問いかける。


「私は……初めは信じられなくて、怖くて……でもここに来たら、世間で言われているような非道な人間じゃなかった。人を殺めてしまうようなそんな恐ろしい存在なんかじゃなかった」

「そうか」

「正直、外の人たちの方が怖いし、よっぽど信じられないって思った」

「うん」


 それから何か決意したように実来は頷くと、暁の方に顔を向け、

「――先生、昨日ね。私は友達だと思っていた子たちに裏切られた。私のこと、SNSで悪く言って拡散して……それが信じられなくて、悲しかった。ずっと友達のいなかった私にとって初めての友達だった。だから何があっても大事にしたくて頑張ったのに……それなのに……」

 涙ぐみながら、そう告げた。

「実来。この世界で実来の友達になる人間はその級友だけじゃないと俺は思う」
「はい……」
「だから、また探せばいい。きっと実来ならすぐにできるさ」

 暁はそう言って笑った。

「うん。そうだと、いいな」

 そう言って実来も笑った。
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