403 / 501
第10章 未来へ繋ぐ想い
第79話ー⑨ 私の守りたかった場所
しおりを挟む
――屋上にて。
暁は膝を抱えて小さくなっている実来を見つけると、
「こんなところにいたんだな」
そう言って笑った。
実来はその言葉に答えることはなく、顔を伏せたままだった。
「隣、座るぞ」
そう言いながら、暁は実来の隣に腰を下ろす。
「屋上の場所なんて教えてないんだけどな。もしかして奏多のファン、とか?」
「そんな人、知らない……」
「そうか……じゃあ『はちみつとジンジャー』か!」
暁のその問いに実来は「うん」と小さな声で答える。
「へえ、そうなんだな。もしかしてテレビで放映されてた演奏を観てここを知ったのか」
「ううん。もっと前。『ASTER』のあやめ、君が拡散した動画を観て」
「ああ、初ライブの時のあれか……懐かしいな」
そう呟いて、暁は真一としおんが初めてライブをしていた時のことを思い出す。
夏休みに行われたレクリエーション。2人が用意した手作りのステージとバックに映る夜景がとても綺麗だったな――
「なあ、聞きたいか? その時の事!」
「……なんで?」
「え?」
「そんな話をしに来たわけじゃないんでしょ。本星崎さんや他の生徒に謝れって言いに来たんでしょ」
顔を伏せたまま実来はそう言った。
「うーん。そこまでのことを考えて食堂を飛び出したわけじゃないんだよな」
そう言って困った顔をする暁。
そして実来は顔を上げて、
「先生って意外と何も考えてない感じ?」
眉間に皺を寄せてそう言った。
「ま、まあ大体合っているかな。でも、身体が勝手に動いたっていうか……あんなことを言うのは、何か理由があるんだろうなって思ったからさ」
そう言ってニコッと微笑む暁。
「……ちゃんと考えてるじゃん」
「そうか? あはは! ――それで、何があったんだ?」
「言いたくない」
そう言って実来は再び顔を伏せる。
「そうか……」
そういえばさっき、自分はS級じゃない。普通の人間だって言っていたな――
それから暁は、実来がいつもスマホを気にしていたことをふと思い出した。
授業が終わってすぐにスマホを取り出し、誰かに連絡をしていたり、食堂にいるときは常に肌身離さずスマホを持ち歩き、何度も画面をチェックしていた実来の姿を。
そして暁は実来が外にいる誰かに執着していることを察したのだった。
そうか。実来は必死だったのか、帰る場所を守ることに――
「実来。答えなくてもいいから、俺の話を聞いてくれ」
「……」
「俺の友達の話だ――」
それから暁は自分の学生時代のことを話し始める。
「――それで最近、お互いが大人になってから初めて再会したんだけどさ。俺はその友達にあまりいい印象を持たれていないと思っていたんだけど、でも違ったんだ。たくやは俺に会いたかったって。そう言ってくれたんだ」
「え……」
実来は顔を上げて、暁の方を見た。
「俺はまだ『白雪姫症候群』の能力者だし、SS級のままだけど……それでも俺に会いたかった、あえて嬉しいってたくやは言ってくれたんだよ」
きっと俺が逆の立場でもたくやにそう告げる。それが友人ってもんだと俺は思うから――
「そんな……外の世界では、『白雪姫症候群』の能力者もS級クラスの生徒たちも嫌われて……みんな怖いって化け物だって言ってたのに」
そう言って膝を抱える手に力を入れる実来。
そう、だったんだな。実来はそのことをずっと気にしていたのか。自分が他と違う人間だと恐れられることを――
暁は、実来の顔をまっすぐに見ると、
「そう思う人だっているだろうさ。けど、みんなが同じ感情を持つわけじゃない。心のカタチだって人それぞれだからな」
そう言って笑う。
「でも……」
人と違うことは確かに怖い。でも、その力はもう自分の一部のようなものだ。だからその力を自分が信じて、これが自分なんだってそう思えたらいいんじゃないか――
「実来。『白雪姫症候群』は恐れられる力なんかじゃない。これはただの個性みたいなもんなんだよ」
「個性?」
実来は目を丸くして首を傾げる。
「そうだ! 他の人より、少しだけ変わった個性。他の人にはできないようなすごい個性だ!」
「すごい、個性……」
そう呟き、小さく頷く実来。
「おう! だから自分と少しでも違うところがあるだけで、それを恐れる人間だっているだろうさ。でもそれはS級のことも『白雪姫症候群』のこともわからないからそう思うんだ。実来は自分が能力者になってみて、どうだった?」
暁が笑顔でそう問いかける。
「私は……初めは信じられなくて、怖くて……でもここに来たら、世間で言われているような非道な人間じゃなかった。人を殺めてしまうようなそんな恐ろしい存在なんかじゃなかった」
「そうか」
「正直、外の人たちの方が怖いし、よっぽど信じられないって思った」
「うん」
それから何か決意したように実来は頷くと、暁の方に顔を向け、
「――先生、昨日ね。私は友達だと思っていた子たちに裏切られた。私のこと、SNSで悪く言って拡散して……それが信じられなくて、悲しかった。ずっと友達のいなかった私にとって初めての友達だった。だから何があっても大事にしたくて頑張ったのに……それなのに……」
涙ぐみながら、そう告げた。
「実来。この世界で実来の友達になる人間はその級友だけじゃないと俺は思う」
「はい……」
「だから、また探せばいい。きっと実来ならすぐにできるさ」
暁はそう言って笑った。
「うん。そうだと、いいな」
そう言って実来も笑った。
暁は膝を抱えて小さくなっている実来を見つけると、
「こんなところにいたんだな」
そう言って笑った。
実来はその言葉に答えることはなく、顔を伏せたままだった。
「隣、座るぞ」
そう言いながら、暁は実来の隣に腰を下ろす。
「屋上の場所なんて教えてないんだけどな。もしかして奏多のファン、とか?」
「そんな人、知らない……」
「そうか……じゃあ『はちみつとジンジャー』か!」
暁のその問いに実来は「うん」と小さな声で答える。
「へえ、そうなんだな。もしかしてテレビで放映されてた演奏を観てここを知ったのか」
「ううん。もっと前。『ASTER』のあやめ、君が拡散した動画を観て」
「ああ、初ライブの時のあれか……懐かしいな」
そう呟いて、暁は真一としおんが初めてライブをしていた時のことを思い出す。
夏休みに行われたレクリエーション。2人が用意した手作りのステージとバックに映る夜景がとても綺麗だったな――
「なあ、聞きたいか? その時の事!」
「……なんで?」
「え?」
「そんな話をしに来たわけじゃないんでしょ。本星崎さんや他の生徒に謝れって言いに来たんでしょ」
顔を伏せたまま実来はそう言った。
「うーん。そこまでのことを考えて食堂を飛び出したわけじゃないんだよな」
そう言って困った顔をする暁。
そして実来は顔を上げて、
「先生って意外と何も考えてない感じ?」
眉間に皺を寄せてそう言った。
「ま、まあ大体合っているかな。でも、身体が勝手に動いたっていうか……あんなことを言うのは、何か理由があるんだろうなって思ったからさ」
そう言ってニコッと微笑む暁。
「……ちゃんと考えてるじゃん」
「そうか? あはは! ――それで、何があったんだ?」
「言いたくない」
そう言って実来は再び顔を伏せる。
「そうか……」
そういえばさっき、自分はS級じゃない。普通の人間だって言っていたな――
それから暁は、実来がいつもスマホを気にしていたことをふと思い出した。
授業が終わってすぐにスマホを取り出し、誰かに連絡をしていたり、食堂にいるときは常に肌身離さずスマホを持ち歩き、何度も画面をチェックしていた実来の姿を。
そして暁は実来が外にいる誰かに執着していることを察したのだった。
そうか。実来は必死だったのか、帰る場所を守ることに――
「実来。答えなくてもいいから、俺の話を聞いてくれ」
「……」
「俺の友達の話だ――」
それから暁は自分の学生時代のことを話し始める。
「――それで最近、お互いが大人になってから初めて再会したんだけどさ。俺はその友達にあまりいい印象を持たれていないと思っていたんだけど、でも違ったんだ。たくやは俺に会いたかったって。そう言ってくれたんだ」
「え……」
実来は顔を上げて、暁の方を見た。
「俺はまだ『白雪姫症候群』の能力者だし、SS級のままだけど……それでも俺に会いたかった、あえて嬉しいってたくやは言ってくれたんだよ」
きっと俺が逆の立場でもたくやにそう告げる。それが友人ってもんだと俺は思うから――
「そんな……外の世界では、『白雪姫症候群』の能力者もS級クラスの生徒たちも嫌われて……みんな怖いって化け物だって言ってたのに」
そう言って膝を抱える手に力を入れる実来。
そう、だったんだな。実来はそのことをずっと気にしていたのか。自分が他と違う人間だと恐れられることを――
暁は、実来の顔をまっすぐに見ると、
「そう思う人だっているだろうさ。けど、みんなが同じ感情を持つわけじゃない。心のカタチだって人それぞれだからな」
そう言って笑う。
「でも……」
人と違うことは確かに怖い。でも、その力はもう自分の一部のようなものだ。だからその力を自分が信じて、これが自分なんだってそう思えたらいいんじゃないか――
「実来。『白雪姫症候群』は恐れられる力なんかじゃない。これはただの個性みたいなもんなんだよ」
「個性?」
実来は目を丸くして首を傾げる。
「そうだ! 他の人より、少しだけ変わった個性。他の人にはできないようなすごい個性だ!」
「すごい、個性……」
そう呟き、小さく頷く実来。
「おう! だから自分と少しでも違うところがあるだけで、それを恐れる人間だっているだろうさ。でもそれはS級のことも『白雪姫症候群』のこともわからないからそう思うんだ。実来は自分が能力者になってみて、どうだった?」
暁が笑顔でそう問いかける。
「私は……初めは信じられなくて、怖くて……でもここに来たら、世間で言われているような非道な人間じゃなかった。人を殺めてしまうようなそんな恐ろしい存在なんかじゃなかった」
「そうか」
「正直、外の人たちの方が怖いし、よっぽど信じられないって思った」
「うん」
それから何か決意したように実来は頷くと、暁の方に顔を向け、
「――先生、昨日ね。私は友達だと思っていた子たちに裏切られた。私のこと、SNSで悪く言って拡散して……それが信じられなくて、悲しかった。ずっと友達のいなかった私にとって初めての友達だった。だから何があっても大事にしたくて頑張ったのに……それなのに……」
涙ぐみながら、そう告げた。
「実来。この世界で実来の友達になる人間はその級友だけじゃないと俺は思う」
「はい……」
「だから、また探せばいい。きっと実来ならすぐにできるさ」
暁はそう言って笑った。
「うん。そうだと、いいな」
そう言って実来も笑った。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ
neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。
※この作品は小説家になろうにも掲載されています
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

Re;Birth
波多見錘
ファンタジー
交錯する二人の主人公の思い。それは約束のためにあるか、使命のためにあるか。
超能力を使えるようになるアプリを使用した悪事が横行する世界で2人の主人公は戦い続ける。誰かを守りたいという思いも、救いたいという思いもなかった。だが、彼らを囲む人たちが彼らの考えを変えていく。
ただの日常に浸食する影は、何気ない悪意から始まる。
なにも知らぬ者たちとすべてを知る者。主人公たちは、まだ夢を、願いを諦めることができなかった。

チート能力【無限増殖】を得た俺は終末世界でもファンタジーしている ~無限に増え続ける能力で世界最強~
仮実谷 望
ファンタジー
ある日、俺は謎の薬を手に入れてそれを飲んだら、物を増やす能力に目覚めていた。お金儲けしたり、自分自身の欲望を叶えているうちに厄介ごとやモンスターと出会う。増える超能力。増え続ける超能力が進化していつの日か世界最強の男になっていた。基本的に能力は増え続けます。主人公は色々なことをしようとします。若干異能力バトルに巻き込まれます。世界は終末世界に移行してしまいます。そんな感じでサバイバルが始まる。スライムをお供にして終末世界を旅して自由気ままに暮らすたまに人助けして悪人を成敗する毎日です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる