398 / 501
第10章 未来へ繋ぐ想い
第79話ー④ 私の守りたかった場所
しおりを挟む
サクラ学園は男女共学の普通科高校。中等部も併設されていることから、ほとんどの生徒たちがエスカレーター式で高等部に進学する。その為、外部からの生徒は数少ない。そしてその数少ない生徒の一人が、実来だった。
入学式を終えて、実来は母と別れて1人で教室に行くと、そこには楽しそうに話す生徒たちがいた。
ここで私は変わるんだ。根暗は卒業したんだもん――
そして実来は指定された自分の席につくと、
「もしかして外部生?」
前に座っていた金髪の女子生徒に声を掛けられる。
「う、うん!」
「へえ、珍しいじゃん! よろしくね! 私は杏子! 橋田杏子!」
「よろしくね! 私は如月実来!!」
そして実来は高校デビューを果たしたのだった。
杏子は学園カーストの上位に位置する存在で、実来はそのグループの一員となった。
憧れていた学園生活。そして友人と過ごす日々。すべてが初めてだった実来は夢中で楽しく過ごしていた。
そしてしばらくが経った頃。
「C組の浦崎のやつ、うざくない?」
「わかるー、なんか調子乗ってるよねー」
「実来もそう思うっしょ?」
「え? う、うん!」
正直、その浦崎という生徒のことを実来は知りもしなかった。そんな子のことを悪く言わなくちゃいけないなんて――と少し罪悪感を抱く実来。
「じゃあ、帰りにちょっと嫌がらせしていこっか!」
「おお、いいじゃん! 何すんの?」
「まあ上履きでもトイレに流してみる?」
「マジそれ最高じゃん! やろうやろう!!」
そう言って楽しそうに話す3人。
「実来は? まさかやりたくないとか思ってないよね?」
「え……そんなわけないじゃん! 私も浦崎のこと、ムカついてるし~」
「へえ。じゃあ実来やってよ! 気分、スッキリすんじゃん?」
「え……」
「いいじゃん、いいじゃん! そうしなよ!! やるよね、実来?」
杏子はそう言って実来の方を見る。
「ま、任せてよ~!」
実来はそう言って作り笑いをした。
なんでこんなことに……でも、もう根暗な私に戻りたくない。せっかくできた友達なんだもん。自分の居場所だっていえるところができたんだもん――
そして放課後。実来は浦崎の下駄箱から上履きを盗みだし、トイレに向かった。
誰もいないことを確認してから、実来はトイレの個室の扉を閉める。
「こ、これを……これを流せば、私はみんなの友達でいられるんだ。だからやるんだ。仕方ないんだよ」
それから実来は上履きをトイレの便器内に投げ、そして流水レバーを引いた。
するとゆっくり水が流れ始めて、浦崎の上履きはトイレの水をかぶる。
仕方ないんだよ――
実来はそう思い、トイレから急いで去ったのだった。
――翌日。
「見た、あの浦崎の顔! マジ最高じゃね?」
「ホント、お腹痛いんですけど!!」
「実来、やるじゃん! まさか、本当にやるなんてね!」
「え……?」
「冗談半分だったのにね! ホントやってくれたわ~」
そう言って教室で楽しそうに笑う杏子たち。
じょ、冗談って言った……? 私、それなのに――
そう思いながら、俯く実来。
「どうしたの、実来?」
「え!? えっと……冗談だったんだなって思って――」
「は? 何? もしかして私らの冗談のせいでやったって思ってんの?」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて、何?」
そう言って未来を睨む杏子。
「そうじゃなくて……浦崎の事、みんなその程度にしか思ってなかったのってこと! 私はガチだったのになあって!」
そう言って笑顔を作る実来。
「ああ、そういう事ね。あははは! うちらだってガチだったっての! まあ実来ほどじゃないんないんだろうけどね!」
「あ、はははは……」
楽しそうに笑う杏子を見ながら、苦笑いをする実来だった。
そしてこの出来事をきっかけに、実来は杏子たちと共に杏子の気に入らない生徒たちへ嫌がらせをしていった。
上履きをトイレに流すのはもちろん、自転車をパンクさせたり、教科書やノートをカッターで切り刻んだり。そして下駄箱に虫を入れたりもした。
「ああ、今日も最高の一日だったね~。今度は何するー?」
「もっと、ドぎついのやろうよ!」
「お、いいね! 窓ガラスでも割っちゃう?」
「それは身バレするからなし~」
楽しそうに前を歩く3人の後ろで、実来は黙って歩いていた。
これでよかったのかな。これが私の望んだ高校生活? 友情、なのかな――
「実来、何黙ってんの?」
「……え?」
杏子に突然声を掛けられて、はっとする実来。
「あ、うん。昨日、夜更かししたからかな。ちょっと眠くて! それで何の話だった??」
実来は笑顔でそう言った。
「大丈夫? 無理しないでよ~。うちらは4人で1つ、でしょ? 実来が欠けたら、うちらじゃないじゃん?」
杏子はそう言って実来に微笑んだ。
実来は杏子のその言葉に嬉しくなって、
「う、うん! ありがとう、杏子!!」
そう言って満面の笑みをした。
「んじゃ、帰ろっか! 実来もお疲れみたいだしね!!」
それから実来たちはそれぞれの帰路についたのだった。
実来は電車を乗り継ぎ、最寄り駅から自宅までの徒歩を含めて1時間。毎日その時間をかけて高校へと通っていた。
通学時間帯の満員電車にはもう慣れたけれど、やはり実来にとって毎日の通学はとてもストレスになっていた。
そして――
「はあ。また来週になったら、何をやらされるんだろう……」
杏子たちの暇つぶしに付き合うことに徐々に罪悪感を抱き始めていた。
最寄り駅を出て、自宅まで歩く実来。
「このまま、これが続くのかな……はあ」
そう呟き、そして俯いた。
せっかく高校デビューできたのにな。でもさっき杏子が――
『大丈夫? 無理しないでよ~。うちらは4人で1つ、でしょ? 実来が欠けたら、うちらじゃないじゃん?』
「うん。杏子の言葉を信じよう。あそこは私の居場所なんだ。確かに嫌だなって思うこともあるけど、でもせっかくできた友達を失いたくないもん!」
何をしたって絶対に……私はあの場所を守る――
実来はそんなことを思い、再び前を向いて歩き出した。すると、小さな虫が顔の周りに集まってくる。
「鬱陶しいな……」
そう言って虫を払うと、その虫たちはどこかへ行った。
「さあ、早く帰って課題を進めないとなあ……」
そして実来は帰宅する足を速めるのだった。
入学式を終えて、実来は母と別れて1人で教室に行くと、そこには楽しそうに話す生徒たちがいた。
ここで私は変わるんだ。根暗は卒業したんだもん――
そして実来は指定された自分の席につくと、
「もしかして外部生?」
前に座っていた金髪の女子生徒に声を掛けられる。
「う、うん!」
「へえ、珍しいじゃん! よろしくね! 私は杏子! 橋田杏子!」
「よろしくね! 私は如月実来!!」
そして実来は高校デビューを果たしたのだった。
杏子は学園カーストの上位に位置する存在で、実来はそのグループの一員となった。
憧れていた学園生活。そして友人と過ごす日々。すべてが初めてだった実来は夢中で楽しく過ごしていた。
そしてしばらくが経った頃。
「C組の浦崎のやつ、うざくない?」
「わかるー、なんか調子乗ってるよねー」
「実来もそう思うっしょ?」
「え? う、うん!」
正直、その浦崎という生徒のことを実来は知りもしなかった。そんな子のことを悪く言わなくちゃいけないなんて――と少し罪悪感を抱く実来。
「じゃあ、帰りにちょっと嫌がらせしていこっか!」
「おお、いいじゃん! 何すんの?」
「まあ上履きでもトイレに流してみる?」
「マジそれ最高じゃん! やろうやろう!!」
そう言って楽しそうに話す3人。
「実来は? まさかやりたくないとか思ってないよね?」
「え……そんなわけないじゃん! 私も浦崎のこと、ムカついてるし~」
「へえ。じゃあ実来やってよ! 気分、スッキリすんじゃん?」
「え……」
「いいじゃん、いいじゃん! そうしなよ!! やるよね、実来?」
杏子はそう言って実来の方を見る。
「ま、任せてよ~!」
実来はそう言って作り笑いをした。
なんでこんなことに……でも、もう根暗な私に戻りたくない。せっかくできた友達なんだもん。自分の居場所だっていえるところができたんだもん――
そして放課後。実来は浦崎の下駄箱から上履きを盗みだし、トイレに向かった。
誰もいないことを確認してから、実来はトイレの個室の扉を閉める。
「こ、これを……これを流せば、私はみんなの友達でいられるんだ。だからやるんだ。仕方ないんだよ」
それから実来は上履きをトイレの便器内に投げ、そして流水レバーを引いた。
するとゆっくり水が流れ始めて、浦崎の上履きはトイレの水をかぶる。
仕方ないんだよ――
実来はそう思い、トイレから急いで去ったのだった。
――翌日。
「見た、あの浦崎の顔! マジ最高じゃね?」
「ホント、お腹痛いんですけど!!」
「実来、やるじゃん! まさか、本当にやるなんてね!」
「え……?」
「冗談半分だったのにね! ホントやってくれたわ~」
そう言って教室で楽しそうに笑う杏子たち。
じょ、冗談って言った……? 私、それなのに――
そう思いながら、俯く実来。
「どうしたの、実来?」
「え!? えっと……冗談だったんだなって思って――」
「は? 何? もしかして私らの冗談のせいでやったって思ってんの?」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて、何?」
そう言って未来を睨む杏子。
「そうじゃなくて……浦崎の事、みんなその程度にしか思ってなかったのってこと! 私はガチだったのになあって!」
そう言って笑顔を作る実来。
「ああ、そういう事ね。あははは! うちらだってガチだったっての! まあ実来ほどじゃないんないんだろうけどね!」
「あ、はははは……」
楽しそうに笑う杏子を見ながら、苦笑いをする実来だった。
そしてこの出来事をきっかけに、実来は杏子たちと共に杏子の気に入らない生徒たちへ嫌がらせをしていった。
上履きをトイレに流すのはもちろん、自転車をパンクさせたり、教科書やノートをカッターで切り刻んだり。そして下駄箱に虫を入れたりもした。
「ああ、今日も最高の一日だったね~。今度は何するー?」
「もっと、ドぎついのやろうよ!」
「お、いいね! 窓ガラスでも割っちゃう?」
「それは身バレするからなし~」
楽しそうに前を歩く3人の後ろで、実来は黙って歩いていた。
これでよかったのかな。これが私の望んだ高校生活? 友情、なのかな――
「実来、何黙ってんの?」
「……え?」
杏子に突然声を掛けられて、はっとする実来。
「あ、うん。昨日、夜更かししたからかな。ちょっと眠くて! それで何の話だった??」
実来は笑顔でそう言った。
「大丈夫? 無理しないでよ~。うちらは4人で1つ、でしょ? 実来が欠けたら、うちらじゃないじゃん?」
杏子はそう言って実来に微笑んだ。
実来は杏子のその言葉に嬉しくなって、
「う、うん! ありがとう、杏子!!」
そう言って満面の笑みをした。
「んじゃ、帰ろっか! 実来もお疲れみたいだしね!!」
それから実来たちはそれぞれの帰路についたのだった。
実来は電車を乗り継ぎ、最寄り駅から自宅までの徒歩を含めて1時間。毎日その時間をかけて高校へと通っていた。
通学時間帯の満員電車にはもう慣れたけれど、やはり実来にとって毎日の通学はとてもストレスになっていた。
そして――
「はあ。また来週になったら、何をやらされるんだろう……」
杏子たちの暇つぶしに付き合うことに徐々に罪悪感を抱き始めていた。
最寄り駅を出て、自宅まで歩く実来。
「このまま、これが続くのかな……はあ」
そう呟き、そして俯いた。
せっかく高校デビューできたのにな。でもさっき杏子が――
『大丈夫? 無理しないでよ~。うちらは4人で1つ、でしょ? 実来が欠けたら、うちらじゃないじゃん?』
「うん。杏子の言葉を信じよう。あそこは私の居場所なんだ。確かに嫌だなって思うこともあるけど、でもせっかくできた友達を失いたくないもん!」
何をしたって絶対に……私はあの場所を守る――
実来はそんなことを思い、再び前を向いて歩き出した。すると、小さな虫が顔の周りに集まってくる。
「鬱陶しいな……」
そう言って虫を払うと、その虫たちはどこかへ行った。
「さあ、早く帰って課題を進めないとなあ……」
そして実来は帰宅する足を速めるのだった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ
neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。
※この作品は小説家になろうにも掲載されています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

Re;Birth
波多見錘
ファンタジー
交錯する二人の主人公の思い。それは約束のためにあるか、使命のためにあるか。
超能力を使えるようになるアプリを使用した悪事が横行する世界で2人の主人公は戦い続ける。誰かを守りたいという思いも、救いたいという思いもなかった。だが、彼らを囲む人たちが彼らの考えを変えていく。
ただの日常に浸食する影は、何気ない悪意から始まる。
なにも知らぬ者たちとすべてを知る者。主人公たちは、まだ夢を、願いを諦めることができなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる