白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第10章 未来へ繋ぐ想い

第79話ー④ 私の守りたかった場所

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 サクラ学園は男女共学の普通科高校。中等部も併設されていることから、ほとんどの生徒たちがエスカレーター式で高等部に進学する。その為、外部からの生徒は数少ない。そしてその数少ない生徒の一人が、実来だった。

 入学式を終えて、実来は母と別れて1人で教室に行くと、そこには楽しそうに話す生徒たちがいた。

 ここで私は変わるんだ。根暗は卒業したんだもん――

 そして実来は指定された自分の席につくと、

「もしかして外部生?」

 前に座っていた金髪の女子生徒に声を掛けられる。

「う、うん!」
「へえ、珍しいじゃん! よろしくね! 私は杏子あんず! 橋田はしだ杏子あんず!」
「よろしくね! 私は如月実来!!」

 そして実来は高校デビューを果たしたのだった。

 杏子は学園カーストの上位に位置する存在で、実来はそのグループの一員となった。

 憧れていた学園生活。そして友人と過ごす日々。すべてが初めてだった実来は夢中で楽しく過ごしていた。

 そしてしばらくが経った頃。

「C組の浦崎うらさきのやつ、うざくない?」
「わかるー、なんか調子乗ってるよねー」
「実来もそう思うっしょ?」
「え? う、うん!」

 正直、その浦崎という生徒のことを実来は知りもしなかった。そんな子のことを悪く言わなくちゃいけないなんて――と少し罪悪感を抱く実来。

「じゃあ、帰りにちょっと嫌がらせしていこっか!」
「おお、いいじゃん! 何すんの?」
「まあ上履きでもトイレに流してみる?」
「マジそれ最高じゃん! やろうやろう!!」

 そう言って楽しそうに話す3人。

「実来は? まさかやりたくないとか思ってないよね?」
「え……そんなわけないじゃん! 私も浦崎のこと、ムカついてるし~」
「へえ。じゃあ実来やってよ! 気分、スッキリすんじゃん?」
「え……」
「いいじゃん、いいじゃん! そうしなよ!! やるよね、実来?」

 杏子はそう言って実来の方を見る。

「ま、任せてよ~!」

 実来はそう言って作り笑いをした。

 なんでこんなことに……でも、もう根暗な私に戻りたくない。せっかくできた友達なんだもん。自分の居場所だっていえるところができたんだもん――

 そして放課後。実来は浦崎の下駄箱から上履きを盗みだし、トイレに向かった。

 誰もいないことを確認してから、実来はトイレの個室の扉を閉める。

「こ、これを……これを流せば、私はみんなの友達でいられるんだ。だからやるんだ。仕方ないんだよ」

 それから実来は上履きをトイレの便器内に投げ、そして流水レバーを引いた。

 するとゆっくり水が流れ始めて、浦崎の上履きはトイレの水をかぶる。

 仕方ないんだよ――

 実来はそう思い、トイレから急いで去ったのだった。

 ――翌日。

「見た、あの浦崎の顔! マジ最高じゃね?」
「ホント、お腹痛いんですけど!!」
「実来、やるじゃん! まさか、本当にやるなんてね!」
「え……?」
「冗談半分だったのにね! ホントやってくれたわ~」

 そう言って教室で楽しそうに笑う杏子たち。

 じょ、冗談って言った……? 私、それなのに――

 そう思いながら、俯く実来。

「どうしたの、実来?」
「え!? えっと……冗談だったんだなって思って――」
「は? 何? もしかして私らの冗談のせいでやったって思ってんの?」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて、何?」

 そう言って未来を睨む杏子。

「そうじゃなくて……浦崎の事、みんなその程度にしか思ってなかったのってこと! 私はガチだったのになあって!」

 そう言って笑顔を作る実来。

「ああ、そういう事ね。あははは! うちらだってガチだったっての! まあ実来ほどじゃないんないんだろうけどね!」
「あ、はははは……」

 楽しそうに笑う杏子を見ながら、苦笑いをする実来だった。

 そしてこの出来事をきっかけに、実来は杏子たちと共に杏子の気に入らない生徒たちへ嫌がらせをしていった。

 上履きをトイレに流すのはもちろん、自転車をパンクさせたり、教科書やノートをカッターで切り刻んだり。そして下駄箱に虫を入れたりもした。

「ああ、今日も最高の一日だったね~。今度は何するー?」
「もっと、ドぎついのやろうよ!」
「お、いいね! 窓ガラスでも割っちゃう?」
「それは身バレするからなし~」

 楽しそうに前を歩く3人の後ろで、実来は黙って歩いていた。

 これでよかったのかな。これが私の望んだ高校生活? 友情、なのかな――

「実来、何黙ってんの?」
「……え?」

 杏子に突然声を掛けられて、はっとする実来。

「あ、うん。昨日、夜更かししたからかな。ちょっと眠くて! それで何の話だった??」

 実来は笑顔でそう言った。

「大丈夫? 無理しないでよ~。うちらは4人で1つ、でしょ? 実来が欠けたら、うちらじゃないじゃん?」

 杏子はそう言って実来に微笑んだ。

 実来は杏子のその言葉に嬉しくなって、

「う、うん! ありがとう、杏子!!」

 そう言って満面の笑みをした。

「んじゃ、帰ろっか! 実来もお疲れみたいだしね!!」

 それから実来たちはそれぞれの帰路についたのだった。

 実来は電車を乗り継ぎ、最寄り駅から自宅までの徒歩を含めて1時間。毎日その時間をかけて高校へと通っていた。

 通学時間帯の満員電車にはもう慣れたけれど、やはり実来にとって毎日の通学はとてもストレスになっていた。

 そして――

「はあ。また来週になったら、何をやらされるんだろう……」

 杏子たちの暇つぶしに付き合うことに徐々に罪悪感を抱き始めていた。

 最寄り駅を出て、自宅まで歩く実来。

「このまま、これが続くのかな……はあ」

 そう呟き、そして俯いた。

 せっかく高校デビューできたのにな。でもさっき杏子が――

『大丈夫? 無理しないでよ~。うちらは4人で1つ、でしょ? 実来が欠けたら、うちらじゃないじゃん?』

「うん。杏子の言葉を信じよう。あそこは私の居場所なんだ。確かに嫌だなって思うこともあるけど、でもせっかくできた友達を失いたくないもん!」

 何をしたって絶対に……私はあの場所を守る――

 実来はそんなことを思い、再び前を向いて歩き出した。すると、小さな虫が顔の周りに集まってくる。

「鬱陶しいな……」

 そう言って虫を払うと、その虫たちはどこかへ行った。

「さあ、早く帰って課題を進めないとなあ……」

 そして実来は帰宅する足を速めるのだった。
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