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第9章 新たな希望と変わる世界

第74話ー① アイドルでも役者でもステージの上では同じだから

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 教室にて――

 授業の開始ベルが鳴る、少し前のこと。

 暁は先日発売された『はちみつとジンジャー』のことで朝から大はしゃぎだった。

「――でさっ! サビ前の真一の伸びやかな歌声がたまらないよなあ」
「先生、その話何回目? 確かさっき食堂でも同じ話をしてたぞ」

 剛は少しだけ呆れながらそう言った。

「だって! 嬉しいだろう? 真一としおんの曲がCDになって、しかも全国で売られているんだぞ!? 剛は友人として、元クラスメイトとして、嬉しくないのか!?」
「ま、まあ嬉しいけどさ! でも先生の喜び方が過剰すぎて、俺も喜ぶに喜びきれないというか……な? 凛子??」

 剛は振り向きながら、凛子にそう尋ねる。

「そうですよお、先生。デビューはまだスタートなんですからね? これから『はちみつとジンジャー』は始まっていくんですう。だからあの2人が本当に夢である世界の舞台に立ったときに仕方なく! 先生くらい喜んで上げようかなって思っているんですから☆」

 仕方なくって……まあでも、喜びを伝えるつもりはあるんだな――。

「じゃあ俺もそうなるときまで、しばらくはおとなしく応援することにするよ」

 暁はそう言って微笑んだ。

「ええ。それが賢明ですね☆ じゃあそろそろ始業ベルもなるころですし、勉強始めますぅ」

 そう言って凛子はタブレットの視線を落とす。

「おう! みんなもな!!」
「はーい」

 それからいつものように、授業が始まったのだった。


 * * *


 午後になり、早々にノルマを終えた凛子は自室に向かって歩きだしていた。

「えっと、今日の予定は……バラエティのリモート収録とダンスレッスンですか」

 そう呟きながら、廊下を進む凛子。

「もうすぐ私たちもライブですね。でも私だけはここからの配信になってしまいますが」

 ふっと表情が暗くなる凛子。そして先日見た、『はちみつとジンジャー』のライブの光景が頭をよぎった。

「楽しそうだったな……あんなに楽しそうなライブを観ちゃったら、私もって思うよね。でも……」

白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力者であることから、直接観客の声を聞いてのライブができないことを悔しく思う凛子。

「アイドルも結構いいものだって、なんでもっと早く気が付けなかったんだろう。役者をやっているだけじゃ得られない感動に、なんで昔の私は気が付けなかったんだろう……」

 違うな……自分で気が付いたんじゃない。気づかせてもらったんだ。気づくきっかけをもらったんだよ、しおん君からね――

 そう思いながら、苦い顔をする凛子。

 そしてはっとした凛子は頭を横に振ると、

「アイドルは人を笑顔にするのが仕事でしょ! だから……今日もスーパーアイドル知立凛子、頑張りまあす☆」

 そう言って自室へと急いだのだった。



 自室に戻った凛子は、バラエティ番組のリモート収録を終え、それからダンスレッスンに参加していた。

 他のユニットメンバーとは一緒の空間で練習ができないため、凛子だけが個人レッスンをしていた。

『じゃあ凛子。今日はお疲れ様! 新しい振り、また次までに頭に入れておいてね!』
「はい! 今日はレッスン、ありがとうございました!」

 凛子はそう言って画面の向こうにいるダンストレーナーに頭を下げた。

『……本当に成長したね』
「え?」

 急に言われた言葉に呆気にとられる凛子。

『最初の頃は、アイドルなんて! って気持ちが伝わるダンスだったけど、今の凛子はちゃんとアイドルの顔でダンスができてるって思うんだ。それがなんだか、うれしくてね』

 そう言って微笑むダンストレーナー。

「あ、ありがとう、ございます!」

 凛子は嬉しそうにそう答えた。


『じゃあ、今日はお疲れ様! ちゃんと休むんだよ?』

「はあい☆」

『ああ、そうそう! みんなも、早く凛子とステージに立ちたい! ってこの間のレッスンで言っていたよ。だから凛子が施設を出てきたら、復帰の記念で大きな会場で復帰ライブをしようじゃないか』

「みんなが……? それにライブも」


 ――それじゃあ、早くここから出ないとね。

『じゃあ今度こそ、本当にお疲れ! また来週!』
「はい! お疲れ様でした!!」

 そして暗くなるPCの画面。

「しばらく一緒に活動できていなかったのにね。みんなはそんなことを言っていたなんて……」

 そう呟き、凛子はふふっと笑った。

「休めとは言われましたが、今日の私はやる気に満ちているのでもう少しだけ!」

 それから凛子は再びダンスレッスンを開始したのだった。

 ――数時間後。

「さすがにやりすぎだったかも。うぅ、足腰が……でも楽しかったな」

 そう呟きながら、凛子は夕食を摂るために食堂へと向かった。
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