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第9章 新たな希望と変わる世界

第70話ー③ 残された子供たち

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 食堂――。

「おかえりなさい、奏多ちゃん。あ、水蓮ちゃん!! おはようございます」

 織姫は食堂に現れた水蓮に笑顔でそう言った。

「織姫ちゃん、おはようございます」

 水蓮はそう言ってぺこりと頭を下げた。

「なかなか出てこないから、心配していたんですよ? 元気そうで何よりです」
「織姫ちゃん――!」

 水蓮はそう言って、織姫にぎゅっと抱き着く。

「わわわ! どうしたんですか、水蓮ちゃん」
「織姫ちゃん、優しいから好き!」

 その言葉にはっとする織姫。

「――ありがとう、水蓮ちゃん」

 織姫は嬉しそうにそう言って、優しく水蓮の頭を撫でた。

「みんな、水蓮に会いたかったのですね」
「そうみたいだな。もっと早く、部屋の外に出してあげればよかったな」

 そう言ってしゅんとする剛。

「あら? 落ち込んでいるんですか?」

 剛の顔を覗き込むようにそう言う奏多。

「そりゃ、な。俺って、先生みたいな教師には程遠いんだなって思って」
「うふふ。まあ剛が先生のようになるには、あと数億年くらいはかかるでしょうね」
「うっ……さらっとひどいこと言うなよ……」

 奏多はそう言う剛をニコニコと見つめながら、
 
「でも、剛は暁先生のように成れなくたって、きっと剛は剛らしい教師になれると私は思いますよ」

 優しい声でそう言った。

「俺、らしい教師……?」
「ええ。憧れの存在は確かに必要だとは思います。でも憧れているだけじゃ、剛はいつまでたっても本当の教師にはなれないんじゃないかなって思うのです」

 そうか。俺は暁先生みたいな教師にってこだわり過ぎていたのかもしれないな――

 そう思った剛は野の笑みながら、奏多をの方を見る。

「……そうだな。俺らしい教師にならないとな!」

 剛はそう言って、歯を見せて笑った。


「うふふ。わかっているじゃないですか」
「まあ、な。暁先生みたいにとは思うけどさ、暁先生は暁先生だからああいう教師なんだよな。だから俺は暁先生がなれないような俺らしい教師になるぜっ!!」

 剛はそう言って、右手の拳を突き上げた。

「剛がどんな教師になるのか、楽しみですね」

 そう言いながら、奏多は剛に笑顔を向ける。

「ああ、ありがとな! 俺も奏多がどんなバイオリニストになるのか楽しみだ!」
「うふふ。ありがとうございます!」

 それから剛たちは食堂で楽しい時間を過ごしたのだった。



 夕食後――。

「そういえば、奏多はいつ帰るんだ?」

 食堂の片づけをしながら、剛は奏多にそう尋ねた。

「何ですか、その言い方は! もしかして早く帰ってほしいとでも??」

 奏多は睨みながら剛にそう言った。

「そ、そうじゃなくてさ! 水蓮が奏多に懐いてるから、すぐに帰ったら水蓮が悲しむかなって思ったんだって!!」
「そうですか。……まあ本当は明日の朝にでもと思っていたんですが、もう少しだけいようかなと思います」

 そう言いながら奏多は再び片づけを再開する。

「私が水蓮の面倒を見ている間、剛は他の子たちの様子をちゃんと見守ってくださいね」
「おう! 任せとけ!!」

 剛はそう言って、ニコッと笑った。

「そうそう……織姫がちょっと寂しそうなので、なるべく構う事! いいですか?」
「え!? そうなのか? よく、気が付いたな」

 目を丸くしながらそう言う剛。

「まあ織姫のことは昔からよく知っておりますので。それと、織姫以外の子たちの様子もですよ? ここにいる子供たちは、常に能力の暴走のリスクがあるんですから。少しでも心を軽くしてあげるよう、努めてくださいね!」

 奏多は剛に詰め寄りながらそう言うと、剛は少し悲し気な表情をする。

 暴走すれば、他のみんなにも迷惑なっちまうからな。それに――

「あ、ああ。わかった。俺みたいに暴走して、時間を無駄にしてほしくないからな」
「さっきも言いましたが、剛の暴走が無駄だったとは思っていませんよ」
「奏多……」

 それから奏多は両手をパンと鳴らすと、

「はい、この話はこれでお終いです! 私も剛も、今はできることをしましょう」

 そう言ってニコッと微笑んだ。

「おう! ……奏多のそういうところを暁先生は好きなんだろうな」
「なんですか、急に! でも……うふふ。そうだといいですがね」

 それから剛たちは食堂を後にした。
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