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第9章 新たな希望と変わる世界

第69話ー⑦ 捕らわれの獣たち 前編

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『グリム』基地内、ミーティングルーム。

「お待たせ」

 ゆめかはそう言って、拓真と共にミーティングルームへやってきた。

「ああ、ちょうど今みんな来たところだよ」

 所長はそう言って微笑んだ。

「……キリヤ君の姿がないみたいですが」

 ゆめかは部屋を見渡しながら、そう言った。

 任務から外されていると言っても、キリヤ君が所長からの呼び出しを無視するなんてこと――

「ああ、キリヤ君は――」
「彼は今、大事なことのためにちょっとね」

 笑顔で所長の隣でそう告げる男性。

「あ、あなたは……?」

 ゆめかは突然現れた男性を見て、困惑する。

「ああ、自己紹介が遅れました。私は『アンチドーテ』でドクターと呼ばれていた、桐谷きりたに篤志あつしです」

 そう言って頭を下げる篤志。

 そして篤志の後ろにいた少年も篤志に続いて、

「自分は三谷みたにかけるです」

 そう言って頭を上げた。

「三谷……」

 その聞き覚えのある苗字に反応するゆめか。

「ああ、彼は暁君の弟さんなんだそうだよ」

 所長は翔を見ながら、笑顔でそう告げた。

「はい。まあ生き別れの、ですけどね」
「そうなんだね」

 しかし兄弟はこんなに顔が似るもんなんだなと、翔の顔を何度も見てしまうゆめか。

「では、本題に入るけれど……まあ、あれだ。暁君たちの奪還作戦会議と言ったところさ」

 所長はそう言って、ニヤリと笑う。

「奪還作戦……」

 その言葉に息を飲むゆめか。

「『アンチドーテ』がいるってことは共闘するってことなんだよな、所長?」

『グリム』の隊長、神無月まさきは所長にそう尋ねた。

「ああ、そうだ」
「元は私が引き起こしてしまったことだからね。その責任を取りに来たつもりだよ」

 篤志は静かにそう告げる。

 責任を取りに来た――?

 ゆめかはそう思いながら、

「一体、何があったんですか?」

 篤志にそう尋ねた。

「……私と、『エヴィル・クイーン』で魔女と呼ばれていた女『恵里菜』、そして現総理大臣の皮をかぶっている男『隼人』は50年後の未来から来た」
「未来人……?」

 ゆめかは目を見開きながらそう呟く。

「そういう事になるね。私は時間渡りの能力者だった。その力を使って、恵里菜と隼人を連れて70年前……そこお嬢さんの能力が覚醒する少し前だね。その時間に飛び、恵里菜は5人の少年少女たちにランダムで種を植えたんだ」

 はっとするゆめか。

「……それが5人の『1st』」
「ああ。そして恵里菜はその植えた種を収穫する遊びを思いついた……いや、植えた時点でそうするつもりだったんだろうね」

 つむぎちゃんたちの心をただの遊びで奪ったってことなのか――ゆめかはそう思いながら、両手の拳を強く握る。

「それから2人の心の結晶を収穫した恵里菜は、今度は違う遊びを思いついたんだ」
「違う遊び……?」

 神無月はそう言って首をかしげた。

「ええ。その心の結晶を組み込んだ小さな箱型の種――毒リンゴを開発したんだ」
「おいおい! まさかそれが『ポイズン・アップル』の正体だってことか!?」

 驚愕の表情をしながら、大声でそう言う神無月。

「そうだ。あの種は恵里菜が自由に操作できる凶器だった。もちろん未完成で暴走してしまうものもあったが、大概が恵里菜の思うように働き、彼女の新しいおもちゃになっていたわけさ」

 衝撃の事実に、静まり舞えるミーティングルーム。

「でも種を蒔いたのは5人ですよね。なんでそこから今の社会ができあがったんですか?」

 拓真の質問に全員が頷く。

「詳しくはわからないが、『1st』と関わった子供たちから連鎖的に能力の覚醒があったことが報告されていてね。それが広まり、そしてこの日本にいる子供たちの大半にその力が伝染していってしまったということなんじゃないかと私は思っているよ」

 自分たちが、この力を広めてしまったということなんだ――そう思いながら、俯くゆめか。

 俯くゆめかを見た所長は、

「しかし今はもうその恵里菜はいないわけだけど、種の操作は誰が行っているんだい?」

 そう言って話題を戻す。

「今は誰も操作できていないでしょう。あの種は恵里菜が持っていた『シード』という能力しか操作できないから」
「でも『植物』の能力を持つキリヤ君なら、もしかしてってことは――?」

 拓真がそう言うと、

「確かに!! キリヤならもしかしたら!」

 神無月は拓真の肩に腕を乗せてそう言った。

「その可能性はあるかもしれない。それも含めて、恵里菜はキリヤ君を狙っていたのかな」
「……それも含めて?」

 ゆめかは篤志の言葉に引っ掛かる。

「ああ。彼女が過去に行くことを選んだ理由は、彼に……桑島キリヤ君に会うためだからね」
「それはどういう――?」
「それはそのうちわかることさ」

 篤志はそう言って所長の言葉を遮り、

「そんなことより、作戦会議を続けよう。時間はあまり残されていない。ここで我々の作戦が失敗すれば、この世界は滅ぶことになるだろうから」

 神妙な面持ちでそう告げた。

 それから『グリム』のミーティングルームでは、暁たちの奪還作戦会議が続けられたのだった。
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