上 下
332 / 501
第9章 新たな希望と変わる世界

第68.5話ー② パジャマパーティー

しおりを挟む
 ――織姫の自室にて。

「それで、なんで私の部屋なんですか!!」
「え、ダメ?」

 凛子が首をかしげてそう尋ねると、

「べ、別にダメとは言っていません!」

 そう言って顔を背ける織姫。

「素直じゃないですねえ」

 そう言ってクスクス笑う凛子。

 そして織姫にとって初めてのパジャマパーティーが始まり、凛子と織姫はそれぞれの趣味や興味があるものをお互いに伝えていく。

「織姫ちゃんって見た目からして真面目そうだなと思っていたけど、見た目通りの真面目ちゃんなんですね☆」
「それって褒めているんですか? それとも――」
「褒めてますよお☆」

 なんだか言葉は嘘っぽいんですよね。でもさすがは元天才子役。何が真実なのか、表情からは読み取れない――

「そういえば、机にある本って……」
「え、ああこれは……将来のために、少し勉強しておこうと思って」
「なるほど! これって有名な企業の社長さんが書かれている本、ですよね! こういうのって、ビジネス本って言うんでしたっけ」

 そう言って机にある本を手に取る凛子。

「そうです。経営者としてのメンタルを学ばせてもらっているというか……まあ、跡取りの候補にすら上がっていない私が何をしても無駄なんでしょうけど」

 織姫は俯きながらそう言った。

「織姫ちゃんの夢は、家業を継ぐことなんですね☆」
「……ええ。でも、どうせ叶いもしない幻想ですけどね」
「諦めるんですか?」
「……とっくの昔に諦めたつもりでした。でもまだ無駄なあがきをしたいみたいです」
「いいじゃないですか」

 凛子の言葉に驚き、ゆっくりと顔を上げる織姫。

「無駄なあがきでもいいと思う。私だって、芸能界に残るためにあがいてもがいて……今は初めに思い描いていた道を進んでいるわけじゃないですけど、でも私もまだ諦めたくないから。私は何があっても、知立凛子でいたいから、だから無駄だって言われてもあがきますよ! 最期の、最期まで」

 凛子は織姫の顔をまっすぐ見て、ニコッと微笑んだ。

「そう、ですか……」

 凛子さんは凄い。今の道が自分の進みたい方向ではないはずなのに、それでもちゃんと自分の道にして進んでいる。私は凛子さんのように、強くはなれない……だから私は――

「織姫ちゃん!? 泣いているんですか!? すみません、私の言い方がきつかったからですよね」

 凛子はそう言ってあたふたとしていた。

「私、私は……」

 私は凛子さんのように自分のやりたいと思うことを口にできないし、行動に移すこともできない。もし私が男に生まれていたら、こんなことで悩まずに済んだのに。お父様もお母様も私を認めてくださったはずなのに――

 それから数分後、織姫は落ち着きを取り戻した。

「すみません、取り乱しました」
「ううん。大丈夫ですよ。それより……」

 心配そうに顔を覗く凛子。

「心配には及びません。ありがとうございます」
「だったらいいですけど……」
「でも凛子さんはかっこいいなって思いました。自分の道を進んでいて、そして決めたことはちゃんと遂行して。私にはとてもできないことだなって、そう思っただけです」

 そう言って微笑む織姫。

「織姫ちゃん……」

 凛子は悲しそうな顔をしていた。

 それを見た織姫は、言いたくてもまた私を傷つけると思って言い出せずにいるんだろうな――とそう思った。

「この話はもうやめましょう。せっかくのパジャマパーティーです。楽しい話をしましょうか」
「そう、ですね」

 それから凛子と織姫は他愛ない話を始めた。クラスメイトのことや先生のことなど。もちろんさっきの話題を避けながら――

「あ、そろそろ良い時間ですし、寝ましょうか」
「そうですね☆ 真面目な織姫ちゃんが遅刻なんてしたら、罪悪感でグラウンドに星が降り注ぎそうです☆」
「そ、そんなことはしませんっ! ほら、早く寝ますよ」
「はあい」

 それから電気を消し、2人は並んでベッドに寝転んだ。

「織姫ちゃん」
「なんですか?」
「おやすみなさい☆」

 凛子が織姫の方を見てそう言うと、

「はい、おやすみなさい」

 織姫は凛子に笑顔でそう答えたのだった。



 ――翌朝。2人は仲良く食堂へ向かい、朝食を摂っていた。

「なんだか一晩ですごく距離が縮まったような気がしますね☆」
「そうですか? そうだったら、いいですね」

 そう言って織姫は微笑んだ。

 本当はまだあなたに本心を話していないけれど、でも今はこのままで――

「凛子さん、今度のパジャマパーティーはいつにしますか」
「早速次のアポイントですか? じゃあ次は――」



 織姫と凛子。2人はお互いを本気で信じあうほどの距離になったわけではないけれど、今回のことでほんの少しだけ2人の距離は縮まったのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。

月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」  公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。 一応、R15にしました。本編は全5話です。 番外編を不定期更新する予定です!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

処理中です...