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第8章 猫と娘と生徒たち
第61話ー④ ずっと一緒だ!
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――職員室。
暁は椅子に座って、真一としおんのことについて考えを巡らせていた。
2人の夢は世界一のミュージシャンになること。そしてその夢を叶えるために、まずは事務所所属が必須となる。
そんなことは真一だってわかっているはずだ。でも一歩を踏み出せないのは、やっぱり自分の能力のことを気にしているんだろうな――。
「そんな思いをさせない為に俺は教師になったはずなのに……」
そう言って俯く暁。
それから暁ははっとして、頭を横に振る。
俺が落ち込んでどうする! こういう時こそ、俺の出番なんだって!!
暁はそう思いながら強く頷くと、
「しおんに相談できないほど、真一は悩んでいるってことだよな。さて、どうしようか」
そう言って立ち上がった。
それから自室にいる水蓮たちをそっと覗いてから、暁は職員室を出た。
――真一の自室前。
暁はその部屋の扉をノックした。
「……返事がない。ここにはいないのか」
するとゆっくり扉が開き、中から真一が出てきた。
「何か用?」
真一は不満そうな表情で暁にそう言った。
そして暁は腰に手を当てて、
「進路相談に来た!」
と笑顔で答えた。
「え?」
暁のその言葉に首をかしげる真一。
「まあ、いきなりそんなこと言われても驚くよな。実は、しおんから聞いたんだよ。事務所所属の件。それで――」
「そう。でも僕から先生に相談することはないから」
そう言って顔をそらす真一。
まあ、真一はそう言うだろうな――
そんなことを思い、苦笑いで頬を掻く暁。
「あー、そういえば。俺が初めて来た日にやったレクのこと、覚えてるか?」
暁がニヤリとそう言うと、
「キリヤが開始早々、本気の氷の刃を先生に放ってたあれでしょ。もちろん覚えてる」
真一は淡々とそう答えた。
そうか、そうか。あの時のことを真一は覚えていると。じゃあもちろんその時の約束も覚えているよな――?
「それでその時に俺が勝って、いう事を何でも一つ聞いてもらうってことになったよな!」
ニヤニヤとそう言う暁に、真一は眉をひそめる。
「あ、それは……」
「確か……何かあれば、俺に話すこと! だったな!!」
「……」
「それで、何があったんだ?」
暁は笑顔でそう告げた。
「はあ。わかった。ここだと話しにくいから、続きは職員室でもいい?」
「おう!」
それから暁と真一は職員室へと向かった。
――職員室。
「それで、真一の悩みって何なんだ?」
椅子に座った暁は真一にそう問いかける。
「……悩みってほどのことじゃない」
「でもしおんに相談できないようなことなんだろう?」
「それは……」
「能力のこと、気にしているのか?」
暁の問いに、ギクッとした真一はそのまま俯いた。
「やっぱり……」
それから真一はゆっくり口を開く。
「能力がなくならないと、外へは行けない。だから契約書を提出したところで今の僕には何もできないんだ。だったら別に事務所に入るのは今じゃなくてもいいだろうし、それに所属以外の方法だって――」
「それが本当に真一の本心なのか?」
暁は真一の言葉を遮るようにそう言った。
「……そうだよ」
真一は俯いたまま、そう答える。
「このままでいいのか。それじゃ、2人の夢が――」
「これでいいんだよ。僕は、これで」
「でも、2人で世界一のミュージシャンになるんじゃなかったのか?」
「……」
「夢、なんだろう?」
暁は覗き込むようにそう言った。
「そもそも僕は親戚たちを見返すために、音楽をやるつもりだった」
「それは知ってるよ」
「でもしおんは違う。だから……」
黙り込む真一。
そして暁はそんな真一を見て、真一が悩んでいたことは能力が消失しないことではなく、自分の存在がしおんにとって足かせになってしまうんじゃないかという事だったんだと察する。
「だから自分は身を引く。真一はそう言いたいんだろう?」
「……」
「だけどきっとそれは無理だろうな」
「……え?」
暁は椅子に座って、真一としおんのことについて考えを巡らせていた。
2人の夢は世界一のミュージシャンになること。そしてその夢を叶えるために、まずは事務所所属が必須となる。
そんなことは真一だってわかっているはずだ。でも一歩を踏み出せないのは、やっぱり自分の能力のことを気にしているんだろうな――。
「そんな思いをさせない為に俺は教師になったはずなのに……」
そう言って俯く暁。
それから暁ははっとして、頭を横に振る。
俺が落ち込んでどうする! こういう時こそ、俺の出番なんだって!!
暁はそう思いながら強く頷くと、
「しおんに相談できないほど、真一は悩んでいるってことだよな。さて、どうしようか」
そう言って立ち上がった。
それから自室にいる水蓮たちをそっと覗いてから、暁は職員室を出た。
――真一の自室前。
暁はその部屋の扉をノックした。
「……返事がない。ここにはいないのか」
するとゆっくり扉が開き、中から真一が出てきた。
「何か用?」
真一は不満そうな表情で暁にそう言った。
そして暁は腰に手を当てて、
「進路相談に来た!」
と笑顔で答えた。
「え?」
暁のその言葉に首をかしげる真一。
「まあ、いきなりそんなこと言われても驚くよな。実は、しおんから聞いたんだよ。事務所所属の件。それで――」
「そう。でも僕から先生に相談することはないから」
そう言って顔をそらす真一。
まあ、真一はそう言うだろうな――
そんなことを思い、苦笑いで頬を掻く暁。
「あー、そういえば。俺が初めて来た日にやったレクのこと、覚えてるか?」
暁がニヤリとそう言うと、
「キリヤが開始早々、本気の氷の刃を先生に放ってたあれでしょ。もちろん覚えてる」
真一は淡々とそう答えた。
そうか、そうか。あの時のことを真一は覚えていると。じゃあもちろんその時の約束も覚えているよな――?
「それでその時に俺が勝って、いう事を何でも一つ聞いてもらうってことになったよな!」
ニヤニヤとそう言う暁に、真一は眉をひそめる。
「あ、それは……」
「確か……何かあれば、俺に話すこと! だったな!!」
「……」
「それで、何があったんだ?」
暁は笑顔でそう告げた。
「はあ。わかった。ここだと話しにくいから、続きは職員室でもいい?」
「おう!」
それから暁と真一は職員室へと向かった。
――職員室。
「それで、真一の悩みって何なんだ?」
椅子に座った暁は真一にそう問いかける。
「……悩みってほどのことじゃない」
「でもしおんに相談できないようなことなんだろう?」
「それは……」
「能力のこと、気にしているのか?」
暁の問いに、ギクッとした真一はそのまま俯いた。
「やっぱり……」
それから真一はゆっくり口を開く。
「能力がなくならないと、外へは行けない。だから契約書を提出したところで今の僕には何もできないんだ。だったら別に事務所に入るのは今じゃなくてもいいだろうし、それに所属以外の方法だって――」
「それが本当に真一の本心なのか?」
暁は真一の言葉を遮るようにそう言った。
「……そうだよ」
真一は俯いたまま、そう答える。
「このままでいいのか。それじゃ、2人の夢が――」
「これでいいんだよ。僕は、これで」
「でも、2人で世界一のミュージシャンになるんじゃなかったのか?」
「……」
「夢、なんだろう?」
暁は覗き込むようにそう言った。
「そもそも僕は親戚たちを見返すために、音楽をやるつもりだった」
「それは知ってるよ」
「でもしおんは違う。だから……」
黙り込む真一。
そして暁はそんな真一を見て、真一が悩んでいたことは能力が消失しないことではなく、自分の存在がしおんにとって足かせになってしまうんじゃないかという事だったんだと察する。
「だから自分は身を引く。真一はそう言いたいんだろう?」
「……」
「だけどきっとそれは無理だろうな」
「……え?」
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