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第8章 猫と娘と生徒たち
第59話ー④ 僕の一歩
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翌日。まゆおの父が施設へやってきた。
暁とまゆおはエントランスゲートに向かい、まゆおの父を出迎える。
「狭山さん! 遅くなって、すみません」
暁がそう言うと、頬はこけてひょろひょろした男性が、
「大丈夫ですよ」
とゲート越しに笑顔で答えた。
それから暁はまゆおの父にゲスト用のパスを手渡し、まゆおの父が施設の敷地内に足を踏み入れる。
「……お久しぶりです、父さん」
まゆおは俯いて、父にそう告げた。
「久しぶり、まゆお。大きくなったな」
そう言って、優しくまゆおに微笑みかけるまゆおの父。
まあ久しぶりの再会ってお互いこんな感じになるよな! それに、まゆおがここへ来るまでの経緯もあるし……そりゃ、ぎこちなくもなるか――
そんなこと思いながら、微妙な空気の狭山親子を見つめる暁。
そしてこの空気のままにはしておけないと思った暁は、
「えっと、立ち話もなんですから! 中にどうぞ」
そう言ってまゆおの父を建物内へと案内することにした。
少しでも空気の入れ替えになればいいけどな――
暁はそう思いつつ、狭山親子と共に来客室を目指して歩き始めた。
――廊下にて。
「……」
「……」
相変わらず、微妙な空気は継続していた。そしてそのあまりの静けさに緊張をする暁。
まさか親父さんもまゆおを恨んでいるとか、そういうことはないよな――と心の中で思いつつ、歩みを進めていた。
それから来客室に到着すると暁はお茶を出すため、一時的にその部屋を後にしたのだった。
* * *
来客室はまゆおとまゆおの父の2人きりで、沈黙が続いていた。
「あ、あの……」
まゆおが何かを言いかけようとした時、お茶を持った暁がちょうど来客室に戻って来た。
「もしかして会話の邪魔をしてしまいましたか?」
暁は申し訳なさそうな顔でそう言いながら、まゆおの父にお茶を出していた。
「いいえ。でも、まゆおは何かを言いかけていたみたいだったね」
まゆおの父は笑顔でまゆおにそう告げた。
「えっと……その」
まゆおはそう言いながら、目が泳いでいた。
「無理しなくてもいいんだからな?」
暁は心配そうな顔でまゆおを見つめた。
「い、いえ。せっかく場を設けてもらったのに、それじゃ意味がない、です」
「そうか」
そう言ってから、暁はまゆおの隣の椅子に座った。
父さんに言わなくちゃ。僕がやってしまった事への謝罪と、それと――
まゆおがそんなことを考えていると、
「まゆお、すまなかったな」
まゆおの父が小さな声でそう告げたのだった。
「え……」
その言葉に驚くまゆお。
「兄ちゃんたちから聞いたんだよ。まゆおが兄ちゃんたちからいじめを受けていたって。私がもっとちゃんとみんなのことをみられたらよかったのにな」
まゆおの父は、悲壮感漂う表情でそう告げる。
「……違うんです。僕が弱かったから。僕が剣道以外何もできなかったから悪いんです。他にもいろいろできたら、兄さんたちの負担にはならなかったのに――」
「そんなことはない。まゆおはそんなことを考えられる年齢でもなかっただろう。私の父親としての力が足らなった。だから子供たちには苦労を掛けてしまったね」
「父さん……」
「武雄のことは先生から聞いている、ここへ来ていろいろとあったとね」
その言葉に俯くまゆお。
「武雄を止められなかった……お金のためにと自分の身を売り込んで、それで……。私は父親らしいことを、子供たちにしてやれなかった。ごめんな、本当にごめんな」
そう言ってまゆおの父は深く深く頭を下げる。
「……ありがとう、父さん。僕のことをまだ自分の子供だと思ってくれていて」
まゆおのその言葉に顔を上げる父。
「実はね、父さんたちに恨まれているんじゃないかってずっと不安だったんだ。武雄兄さんのこともあったから。でも僕のことを心配してくれていたんだね」
そう言って微笑むまゆお。
「当たり前だろう! 私はまゆおの父親なんだから!! でも、結局私は何もしてあげられなかったけどな――」
「そんなことはないよ! だって、父さんは僕に剣道を教えてくれたじゃないか。父さんから剣道を教わらなかったら、ここでの出会いもなかった。僕はずっと弱いままだったかもしれない。だから……何もしていないなんて言わないで」
まゆおは父の顔をまっすぐに見て、そう告げた。
「まゆお……ありがとう。こんな父さんを、まゆおは許してくれるか?」
まゆおは首を横に振り、
「そもそも父さんのことを責めたことはない。僕はずっと自分のことを責めていた。父さんの……家族の人生をめちゃくちゃにしたのは僕だって。だから父さんは何も悪くないんだよ」
精一杯の笑顔でそう告げた。
「……まゆお。ありがとう……」
そう言って、延々と涙を流すまゆおの父。
そんな2人に暁は温かな視線を送っていた。そして、
「これでまゆおたちは、ちゃんとした家族に戻れたんだな……」
小さくそう呟いた。
「そうだ、父さん。僕はもう一つ、父さんに言いたいことがあったんだ」
「言いたいこと……?」
「うん。あのね……僕の剣道でまたあの道場を復活させる。そしてあの場所でまた家族みんなで暮らすんだ! ……どうかな」
まゆおは照れながら、父にそう告げた。
「それは素敵な夢、だな。もちろん、私もその夢を応援するよ。また家族みんなで暮らそう」
「うん!」
そして微笑みあうまゆおとまゆおの父。
それから暁はまゆおが希望する大学の話をした。その後、まゆおの父はすがすがしい顔で施設を後にした。
まゆおの父を見送り、暁とまゆおは建物に向かって歩いている途中。
「まゆお、夢がまた一つ増えたな」
暁は笑顔でまゆおにそう告げた。
「そうですね……ますますここから出なくちゃならなくなりました!」
「ああ、きっと大丈夫さ、まゆおなら! だってまゆおは……強い漢だからな!」
「ははは……そうだといいですけどね」
それから数日後、まゆおの身体に異変が起こる。
「あれ……能力が」
突然発動しなくなった能力に驚くまゆお。その後に検査をすると、能力の消失がみられた。
「まゆお殿、良かったですな!」
「ありがとう」
まゆおが笑顔で結衣にそう返すと、真一がまゆおの前にやってきた。
「おめでとう。僕もすぐに追いかけるから」
そう言って真一はその場を後にした。
「うん。真一君もきっとね」
僕は僕の夢のために、これから新しい一歩を踏み出すんだ。そして僕の歩いていく先に、きっと君がいるって信じてる。
だから待っていてね、いろはちゃん――!
暁とまゆおはエントランスゲートに向かい、まゆおの父を出迎える。
「狭山さん! 遅くなって、すみません」
暁がそう言うと、頬はこけてひょろひょろした男性が、
「大丈夫ですよ」
とゲート越しに笑顔で答えた。
それから暁はまゆおの父にゲスト用のパスを手渡し、まゆおの父が施設の敷地内に足を踏み入れる。
「……お久しぶりです、父さん」
まゆおは俯いて、父にそう告げた。
「久しぶり、まゆお。大きくなったな」
そう言って、優しくまゆおに微笑みかけるまゆおの父。
まあ久しぶりの再会ってお互いこんな感じになるよな! それに、まゆおがここへ来るまでの経緯もあるし……そりゃ、ぎこちなくもなるか――
そんなこと思いながら、微妙な空気の狭山親子を見つめる暁。
そしてこの空気のままにはしておけないと思った暁は、
「えっと、立ち話もなんですから! 中にどうぞ」
そう言ってまゆおの父を建物内へと案内することにした。
少しでも空気の入れ替えになればいいけどな――
暁はそう思いつつ、狭山親子と共に来客室を目指して歩き始めた。
――廊下にて。
「……」
「……」
相変わらず、微妙な空気は継続していた。そしてそのあまりの静けさに緊張をする暁。
まさか親父さんもまゆおを恨んでいるとか、そういうことはないよな――と心の中で思いつつ、歩みを進めていた。
それから来客室に到着すると暁はお茶を出すため、一時的にその部屋を後にしたのだった。
* * *
来客室はまゆおとまゆおの父の2人きりで、沈黙が続いていた。
「あ、あの……」
まゆおが何かを言いかけようとした時、お茶を持った暁がちょうど来客室に戻って来た。
「もしかして会話の邪魔をしてしまいましたか?」
暁は申し訳なさそうな顔でそう言いながら、まゆおの父にお茶を出していた。
「いいえ。でも、まゆおは何かを言いかけていたみたいだったね」
まゆおの父は笑顔でまゆおにそう告げた。
「えっと……その」
まゆおはそう言いながら、目が泳いでいた。
「無理しなくてもいいんだからな?」
暁は心配そうな顔でまゆおを見つめた。
「い、いえ。せっかく場を設けてもらったのに、それじゃ意味がない、です」
「そうか」
そう言ってから、暁はまゆおの隣の椅子に座った。
父さんに言わなくちゃ。僕がやってしまった事への謝罪と、それと――
まゆおがそんなことを考えていると、
「まゆお、すまなかったな」
まゆおの父が小さな声でそう告げたのだった。
「え……」
その言葉に驚くまゆお。
「兄ちゃんたちから聞いたんだよ。まゆおが兄ちゃんたちからいじめを受けていたって。私がもっとちゃんとみんなのことをみられたらよかったのにな」
まゆおの父は、悲壮感漂う表情でそう告げる。
「……違うんです。僕が弱かったから。僕が剣道以外何もできなかったから悪いんです。他にもいろいろできたら、兄さんたちの負担にはならなかったのに――」
「そんなことはない。まゆおはそんなことを考えられる年齢でもなかっただろう。私の父親としての力が足らなった。だから子供たちには苦労を掛けてしまったね」
「父さん……」
「武雄のことは先生から聞いている、ここへ来ていろいろとあったとね」
その言葉に俯くまゆお。
「武雄を止められなかった……お金のためにと自分の身を売り込んで、それで……。私は父親らしいことを、子供たちにしてやれなかった。ごめんな、本当にごめんな」
そう言ってまゆおの父は深く深く頭を下げる。
「……ありがとう、父さん。僕のことをまだ自分の子供だと思ってくれていて」
まゆおのその言葉に顔を上げる父。
「実はね、父さんたちに恨まれているんじゃないかってずっと不安だったんだ。武雄兄さんのこともあったから。でも僕のことを心配してくれていたんだね」
そう言って微笑むまゆお。
「当たり前だろう! 私はまゆおの父親なんだから!! でも、結局私は何もしてあげられなかったけどな――」
「そんなことはないよ! だって、父さんは僕に剣道を教えてくれたじゃないか。父さんから剣道を教わらなかったら、ここでの出会いもなかった。僕はずっと弱いままだったかもしれない。だから……何もしていないなんて言わないで」
まゆおは父の顔をまっすぐに見て、そう告げた。
「まゆお……ありがとう。こんな父さんを、まゆおは許してくれるか?」
まゆおは首を横に振り、
「そもそも父さんのことを責めたことはない。僕はずっと自分のことを責めていた。父さんの……家族の人生をめちゃくちゃにしたのは僕だって。だから父さんは何も悪くないんだよ」
精一杯の笑顔でそう告げた。
「……まゆお。ありがとう……」
そう言って、延々と涙を流すまゆおの父。
そんな2人に暁は温かな視線を送っていた。そして、
「これでまゆおたちは、ちゃんとした家族に戻れたんだな……」
小さくそう呟いた。
「そうだ、父さん。僕はもう一つ、父さんに言いたいことがあったんだ」
「言いたいこと……?」
「うん。あのね……僕の剣道でまたあの道場を復活させる。そしてあの場所でまた家族みんなで暮らすんだ! ……どうかな」
まゆおは照れながら、父にそう告げた。
「それは素敵な夢、だな。もちろん、私もその夢を応援するよ。また家族みんなで暮らそう」
「うん!」
そして微笑みあうまゆおとまゆおの父。
それから暁はまゆおが希望する大学の話をした。その後、まゆおの父はすがすがしい顔で施設を後にした。
まゆおの父を見送り、暁とまゆおは建物に向かって歩いている途中。
「まゆお、夢がまた一つ増えたな」
暁は笑顔でまゆおにそう告げた。
「そうですね……ますますここから出なくちゃならなくなりました!」
「ああ、きっと大丈夫さ、まゆおなら! だってまゆおは……強い漢だからな!」
「ははは……そうだといいですけどね」
それから数日後、まゆおの身体に異変が起こる。
「あれ……能力が」
突然発動しなくなった能力に驚くまゆお。その後に検査をすると、能力の消失がみられた。
「まゆお殿、良かったですな!」
「ありがとう」
まゆおが笑顔で結衣にそう返すと、真一がまゆおの前にやってきた。
「おめでとう。僕もすぐに追いかけるから」
そう言って真一はその場を後にした。
「うん。真一君もきっとね」
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