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第7章 それぞれのサイカイ

第51話ー④ 俺たちの歌

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 授業後。真一はしおんが終わるまでの間、いつもの大樹の下で音楽を聴きながら待つことにした。そのヘッドホンから聞こえるのは『ASTERアスター』の曲だった。

 ボーカルのあやめはさわやかでのびのびと楽しそうに歌う声の持ち主。それは人を幸せにする歌声だと巷では言われている。

 あやめは白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームの能力者ではないものの、実は能力者なんじゃないかと噂されるほどに、その声を聴いた人々の心を魅了しているボーカルだった。

 そのあやめの歌声を聴きながら、

「僕にはとてもできない歌い方だな」

 真一はそんなことをふと口にしていた。

『ASTER』を見ているとボーカルのあやめがセンターにいつつも、楽器隊の4人も脇役なんかじゃなくて、5人で『ASTER』なんだってことが伝わってくる。

 僕としおんは2人でやりつつも、それぞれが個人でその場にいるだけなんだよね――『ASTER』の音を聴きながら、そんな考えが頭をよぎる真一。

「たぶん見ているものが違うから、僕たちはバラバラなんだろうな」

 しおんは本気で世界一のミュージシャンを目指している。それは僕ももちろんそうだ。でも僕としおんとの違いは、音楽をどう捉えているかだ――

 しおんは本当に純粋な気持ちで音楽を楽しんでいることを真一は知っている。

 でも自分は――? 真一は自分からのその問いに俯く。

 しおんと違って音楽で親戚たちを見返してやる、復讐してやるとそう思っている。自分は純粋な気持ちで音楽と向き合ってはいないんだ――そう思いながら、真一はただそこにあるだけの地面を見つめた。

 たぶん目的を達成したら、世界一になる夢なんてどうでもよくなるんだと思う。僕なんてそれくらいの気持ちなんだ。結局は親戚たちへの怒りや憎しみの感情が原動力なんだから――

 そして真一ははっとして、

「そっか……この感情が能力の正体」

 そう呟いた。

 そもそもこの力は親戚たちへの憎しみや怒りの感情から生まれたもの。だからこの感情が収まらない限り、この能力も衰えることはないだろう。

 真一はそれに気が付いた時、心に灯っていた熱い炎が消えてしまったように感じた。

「世界一になるためにここから出なくちゃいけないのに、能力をなくすには原動力の感情を失くさなくちゃいけない、か」

 真一は力なくそう呟いた。

『何のために、僕は歌うんだろう――』

 そう思った真一は音楽プレイヤーを止めてヘッドホンを外し、空を見上げた。

「もう全部、どうでもいいや……」

 そして真一は、そこで何をするわけでもなくボーっと過ごしたのだった。


 * * *


「ふう。やっと終わったぜ! 真一はどこだ? ま、たぶんいつものところだろうけど」

 しおんはそんなことを呟きながら、真一がいつもいるグラウンドの大樹の下に向かった。

「今日はどうやって気づかせようかな。目の前に急に現れるとかやったら、顔面パンチかな」

 そして大樹の下に着くと、しおんは真一の耳にヘッドホンがないことに気が付く。

 ――真一が音楽を聴いてないなんて、珍しいこともあるんだな。

「おーい! ごめん、待たせたな!」

 しおんがそう声を掛けても、真一からの反応はなかった。

「寝てんのかー?」
「……ああ、しおんか」
「お疲れみたいだな」

 そう言ってしおんは真一の隣に腰を下ろす。

「別に」
「じゃあ部屋いこうぜ! 新曲も仕上げたいし」

 しおんは笑いながら真一にそう言うが、真一は動く様子がない。

 何かがおかしい――しおんはふとそんなことを思った。

「……今日はやめとく」
「は?」
「今日は気が乗らないから、やめておくって言ったんだよ」

 そう言って、そっぽを向く真一。

「何言ってんだよ! 気が乗らないからって……俺たちにそんな時間ないだろう? 世界一になるなら、一日でも多く練習しねえと!」
「……」
「……はあ。わかった。今日は各々で練習ってことで。まあどこか調子が悪いだけだよな! 今日はゆっくり休めよ! じゃあな!」

 しおんはそう言って立ち上がり、建物の方へ向かった。

 真一の様子が明らかにおかしい。いつもならもっとやる気に満ちているっていうか、なんというか……何があったのかはわからないけど、今はそっとしておこう――そんなことを後ろにいる真一に思いながら、しおんは歩いていた。

「きっと明日になれば、いつもの真一に戻ってるよな……」

 そしてしおんはそのまま自室に向かったのだった。
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