白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第7章 それぞれのサイカイ

第51話ー② 俺たちの歌

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 真一が出ていったしおんの部屋はとても静かだった。

 しおんは真一から言われた言葉が嬉しくて、

「もう少しやっとくかな。俺のギターが真一の歌声に見合うくらいのレベルになって、2人で世界のステージに立つんだからさ」

 そう言ってまたギターを触りたくなった。

 そしてしおんは立てかけてあるアコースティックギターを手に取り、左手でコードを押さえ、右手のピックで音を奏でた。

 一人でもがいていた時より、今がすごく楽しい。真一と出逢って、漠然としていた夢がカタチになり始めて――。

「真一となら、本当に世界一になれそうだな」

 そんなことを思いながら、微笑むしおん。

「そうだ……この間の『ASTERアスター』が演奏していたあの曲、良かったな。確か、こんな感じだったか……?」

 そしてしおんは観たライブのことを思い出して、その曲を弾いてみる。

「お! 俺、なかなかやるじゃん」

 しおんはギターを弾いていると、自分の心がだんだんと躍り出すのがわかった。そしてあの時、楽しそうに歌っていたあやめの顔を思い出すしおん。

 あやめ、気持ちよさそうだったなあ――。

 そんなことを思ったしおんは、その歌のフレーズを口ずさんでいた。

「~♪」

 自分が歌っていることに気が付いたしおんは演奏を止める。

「あれ。俺、今歌って……」

 しおんは周りを見渡すが、どこかが壊れている様子がないことを知る。

 もしかして――

 そう思ったしおんは再びギターを弾きながら、自分たちが作った歌を口ずさむ。

「~♪」

(俺、本当に――)

 そのまましおんはしばらく歌い続けた。久しぶりのその感覚を取り戻すように。

「~♪」
「しおん、ごめん。忘れ物……しおん?」

 真一はそう言ながらしおんの部屋に入ってくると、そこで普通に歌っているしおんの姿を目の当たりにして、扉の前で佇んだ。

「お、真一か!」
「しおん、能力が……」
「ああ、たぶんな!」
「そう……」

 真一はそう言って俯いた後、忘れたタオルを手に取り部屋を出て行った。

「……真一、どうしたんだろう?」

 なんだか元気がなかったような――?

「でも今は能力のことだ。この事実を先生に伝えないとな」

 そしてしおんは自室を出て職員室へと向かったのだった。


 * * *


 グラウンドの大樹の下。

「とうとうしおんも能力が……」

 真一はそう呟き、大樹の前で佇んだ。

 僕の方が能力の覚醒は早かったのに、消失時期は個人で違うものなんだろうか。そもそも結衣だって僕よりはあとから覚醒したわけなんだけど。

 そう思いながら真一は大樹の下に腰を下ろし、ヘッドホンを耳に当てた。

 もしかして僕はこのまま能力が無くならず、ここから出られないのかな。外の世界に出て、世界一のミュージシャンになって、僕や僕の両親のことをはれ物扱いした親戚たちを見返してやるって思っているのに。結局、僕じゃダメなのか――。

 ヘッドホンを持つ手に力が入る真一。

「やっぱり僕は――」

 真一はそう言って唇を噛んでからプレイヤーの再生ボタンを押した。そしてヘッドホンからは大音量で『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』の音楽が流れ出す。

 真一は外の世界から目をそらすように、その音楽に耳を傾けた。一瞬でも世界と自分とのつながりを断つために――。
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