246 / 501
第7章 それぞれのサイカイ
第50話ー⑤ おかえり
しおりを挟む
織姫の部屋にやってきた奏多は、その部屋を見て懐かしい気持ちになっているようだった。
「なんだかここへ来ると落ち着きますね。長い時間を過ごしたよく知る景色はやっぱり懐かしいです」
「奏多ちゃんはここへ来て、どんな生活をしていたんですか?」
「ふふふ。聞きたいですか? じゃあ少しだけお話しましょう」
そして奏多はここで過ごした日々を織姫に話した。
ここで出会った素敵な家族のような友人たちと最愛の人。そして再びバイオリンをみんなに聴いてもらいたくなったこと。他にもいろいろなことを話した。
「私にとってここで過ごした6年間はかけがえのない時間だったんですよ? 初めは自分の能力を恨んだこともありますが、それがなければなかった出会いばかりで。今の私があるのもここでの出来事のおかげなんです」
「そう、なんだ」
「織姫はここにきて、良かったと思っていますか?」
奏多の問いに織姫は考え込む。
「……今は、まだわからない。でも家にいたときより息苦しさはないです。ここは跡取りのこととか私が女だからとかそういうこととは無縁でいられるから」
「そうですか」
そう言って笑う奏多。
「それにあの人……暁先生が私のことをちゃんと見ていてくれるんです。今まで奏多ちゃんしか私のことを見てくれないって思っていたけど、でも暁先生やS級クラスのみんなが私を……『本星崎織姫』を見つけてくれたの」
「そうなんですね」
奏多はそう呟きながら、少しだけ口元が緩んでいる織姫を見て微笑んだ。
「だからやっぱりここへ来てよかったって思っているのかもしれない、です」
「ふふふ」
突然笑い声を出す奏多に、きょとんとする織姫。
「え、どうしたんですか?」
「織姫も私と一緒なんだなって思って」
「一緒?」
「ええ。先生に大切なことを教わっているようで安心しました」
奏多のその言葉を聞いた織姫は頬を膨らませる。
「べ、別に何も教わっていないです! 私の方があの人より頭もいいですし、行動も言動も大人ですし!! 私が教えてあげているんです!!」
織姫がプンプンしながらそう言うと奏多は笑いながら、「はいはい」と答えたのだった。
「その返事、絶対にわかっていないですよね!?」
「どうでしょうね! でも織姫。先生のことは取っちゃダメですよ? 私の未来の旦那様なんですから!」
「と、取らないから!!」
そう言って顔を真っ赤にする織姫。
「あらら? 顔が真っ赤ですよー?」
「これは、違っ……別に気になるとかそんなんじゃ!」
「あら? 気になる?? ふふふ。私、織姫には負けませんからね!」
「だから違うって!!」
それから織姫と奏多は、昔の思い出や今までのことを話しながら過ごしたのだった。
* * *
その日の夕食。弦太は、これ以上いると迷惑になりそうだからと夕食前に帰宅した。
そして食堂には施設の生徒たちが勢ぞろいして、とてもにぎやかだった。
「あ! 神宮寺さん、お久しぶりです」
食堂に入ってきたまゆおは、奏多を見つけると傍まで来てそう言ってぺこりと頭を下げた。
「あら、まゆお! お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「そういう神宮寺さんもお元気そうですね」
そう言って微笑むまゆお。
「ええ、おかげさまで!」
「あああ! 奏多殿! お久しぶりですなあ」
今度は結衣がそう言って奏多に駆け寄った。
「結衣もお久しぶりです。マリアが卒業したと聞きましたが、さみしくはないですか?」
「ははは。少し寂しいですが、織姫ちゃんも他のクラスメイトもおりますので。御心配には及びませんぞ!」
「そうですか。それならばよかったです!」
それから食堂にいた凛子が騒ぎを聞きつけてきて奏多の元へとやってきた。
「初めまして! 知立凛子でえす☆ 神宮寺さんってここの卒業生でしたよねえ! 当時のことを詳しく聞かせてもらってもいいですかあ?」
凛子はそう言って、奏多の近くの椅子に座る。
「ええ。もちろんです!」
そして奏多の周りには女子生徒たちが集まっていた。
「奏多、取られちゃったな……」
そんなことを呟きながら、暁はその様子を遠くの席で見ていた。
べ、別に奏多と話せなくて寂しい! とか思っていないんだからっ!
なんて強がりを心の中で呟く暁。
「キリヤがいたらこの状況を茶化すんだろうな。はあ……とりあえず、から揚げ食べよう」
そう言って暁は食事用のトレーに盛られているから揚げを頬張ったのだった。
「なんだかここへ来ると落ち着きますね。長い時間を過ごしたよく知る景色はやっぱり懐かしいです」
「奏多ちゃんはここへ来て、どんな生活をしていたんですか?」
「ふふふ。聞きたいですか? じゃあ少しだけお話しましょう」
そして奏多はここで過ごした日々を織姫に話した。
ここで出会った素敵な家族のような友人たちと最愛の人。そして再びバイオリンをみんなに聴いてもらいたくなったこと。他にもいろいろなことを話した。
「私にとってここで過ごした6年間はかけがえのない時間だったんですよ? 初めは自分の能力を恨んだこともありますが、それがなければなかった出会いばかりで。今の私があるのもここでの出来事のおかげなんです」
「そう、なんだ」
「織姫はここにきて、良かったと思っていますか?」
奏多の問いに織姫は考え込む。
「……今は、まだわからない。でも家にいたときより息苦しさはないです。ここは跡取りのこととか私が女だからとかそういうこととは無縁でいられるから」
「そうですか」
そう言って笑う奏多。
「それにあの人……暁先生が私のことをちゃんと見ていてくれるんです。今まで奏多ちゃんしか私のことを見てくれないって思っていたけど、でも暁先生やS級クラスのみんなが私を……『本星崎織姫』を見つけてくれたの」
「そうなんですね」
奏多はそう呟きながら、少しだけ口元が緩んでいる織姫を見て微笑んだ。
「だからやっぱりここへ来てよかったって思っているのかもしれない、です」
「ふふふ」
突然笑い声を出す奏多に、きょとんとする織姫。
「え、どうしたんですか?」
「織姫も私と一緒なんだなって思って」
「一緒?」
「ええ。先生に大切なことを教わっているようで安心しました」
奏多のその言葉を聞いた織姫は頬を膨らませる。
「べ、別に何も教わっていないです! 私の方があの人より頭もいいですし、行動も言動も大人ですし!! 私が教えてあげているんです!!」
織姫がプンプンしながらそう言うと奏多は笑いながら、「はいはい」と答えたのだった。
「その返事、絶対にわかっていないですよね!?」
「どうでしょうね! でも織姫。先生のことは取っちゃダメですよ? 私の未来の旦那様なんですから!」
「と、取らないから!!」
そう言って顔を真っ赤にする織姫。
「あらら? 顔が真っ赤ですよー?」
「これは、違っ……別に気になるとかそんなんじゃ!」
「あら? 気になる?? ふふふ。私、織姫には負けませんからね!」
「だから違うって!!」
それから織姫と奏多は、昔の思い出や今までのことを話しながら過ごしたのだった。
* * *
その日の夕食。弦太は、これ以上いると迷惑になりそうだからと夕食前に帰宅した。
そして食堂には施設の生徒たちが勢ぞろいして、とてもにぎやかだった。
「あ! 神宮寺さん、お久しぶりです」
食堂に入ってきたまゆおは、奏多を見つけると傍まで来てそう言ってぺこりと頭を下げた。
「あら、まゆお! お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「そういう神宮寺さんもお元気そうですね」
そう言って微笑むまゆお。
「ええ、おかげさまで!」
「あああ! 奏多殿! お久しぶりですなあ」
今度は結衣がそう言って奏多に駆け寄った。
「結衣もお久しぶりです。マリアが卒業したと聞きましたが、さみしくはないですか?」
「ははは。少し寂しいですが、織姫ちゃんも他のクラスメイトもおりますので。御心配には及びませんぞ!」
「そうですか。それならばよかったです!」
それから食堂にいた凛子が騒ぎを聞きつけてきて奏多の元へとやってきた。
「初めまして! 知立凛子でえす☆ 神宮寺さんってここの卒業生でしたよねえ! 当時のことを詳しく聞かせてもらってもいいですかあ?」
凛子はそう言って、奏多の近くの椅子に座る。
「ええ。もちろんです!」
そして奏多の周りには女子生徒たちが集まっていた。
「奏多、取られちゃったな……」
そんなことを呟きながら、暁はその様子を遠くの席で見ていた。
べ、別に奏多と話せなくて寂しい! とか思っていないんだからっ!
なんて強がりを心の中で呟く暁。
「キリヤがいたらこの状況を茶化すんだろうな。はあ……とりあえず、から揚げ食べよう」
そう言って暁は食事用のトレーに盛られているから揚げを頬張ったのだった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる