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第6章 家族

第46話ー⑦ しおんとあやめ

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 その日の晩。部屋に戻ったしおんはスマホを取り出して、電話帳を開いた。

「番号、変わってないといいけど」

 そして『あやめ』と書かれた画面をタップして、電話を掛ける。

 もしかして仕事かもしれないし、すぐには出ないかも――

 そんなことを思いながら、しおんは電話のコール音を聞いていた。

『はい、あやめです! 兄さん? 兄さん、だよね!? どうしたの!? 兄さんから電話を掛けてくるなんて!!』

(なんだかすごく機嫌がよさそうだな……何か良いことでもあったのか?)

 しおんはその声を聞き、いつものあやめよりテンションが高いように感じていた。

 でも今はそうじゃない、俺は俺の想いをあやめに伝えるんだ――

「今、ちょっと時間あるか?」
『う、うん。大丈夫だよ。どうしたの?』

 そしてしおんは息を飲んでから、口を開く。


「ああ、えっと…………ごめんな、あやめ。今までいろいろと悪かったと思ってる。俺、意地を張って……プライドばっかり高くて」

『え……うん』

「お前にずっと嫉妬していたのかもしれない。みんな、いつもあやめばっかりって。でもそれはもうやめにする。これから俺、頑張るよ。それでお前を追い抜く。そして世界一のギタリストになるから!」

『兄さん――』

「つまり、その……えっと。きょ、今日からあやめは……お、俺の、ライバルだから!」


 俺、何言ってんだろう――と急に恥ずかしく思うしおん。

「……」

 しおんのライバル宣言に、黙ったまま何も答えないあやめ。

 その少しの沈黙がしおんにとっては、とても長く感じていた。

(もしかして馬鹿にしてるのか? 俺なんかが自分にって――)

『うん……僕も負けないよ! 先に世界一になるのは僕……いや。僕たち『ASTERアスター』だから!!』

 その言葉を聞いたしおんは嬉しくなって微笑みながら、

「おう! 受けて立つ!!」

 意気揚々とそう答えたのだった。

『ふふふ。でも兄さんとこんな話ができるなんて嬉しいよ』
「は、はあ? 何恥ずかしいこと言ってんだ!?」

 あやめの言葉に顔が赤くなるしおん。

『僕ね、ずっと兄さんのことが大好きで憧れだった……だから兄さんとちゃんと話せて嬉しいんだ。でもこれからは憧れの存在じゃなく、ライバルとしてよろしくね!』
「ああ!!」

 その後、軽く会話をしてからしおんは電話を切った。

「あやめ……俺のことを嫌っているって思っていたけど、でも違ったんだな」

 自分の勘違いに恥ずかしくなって頬をかくしおん。そして――

「俺も頑張るぞ。絶対に世界一のギタリストになるんだ!!」

 しおんはそう言ってから、いつものようにギターを手に取ると、その日は一晩中弾き明かしたのだった。

 弟でライバルのあやめを超えるため、そして世界一のギタリストになるために――。



 翌日。いつも通りの朝が始まった。


「まったく、本当にしおん君のギターはヘタクソですねぇ。『ASTER』の映像観たことありますか? 鳥肌者ですよ?」

「そんなの何度も観たっての!! 凛子だって、もっとアイドルの研究したほうがいいんじゃねえの? 笑顔が引きつってんぞ!!」

「はあ? 今日こそ、しおん君を粉々にしないとですね」

「それはこっちのセリフだ!!」


 そう言って身構える凛子としおん。

「こらこらこら! だから朝からなあ――!」

 そしてようやくいつもの日々が戻って来た施設だった。
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