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第6章 家族

第42話ー③ 父と娘

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 面談当日。心なしかマリアはいつもと比べて、そわそわしているように見えた。

「大丈夫かな……勉強にも身が入っていないみたいだけど」

 暁はそんなことを呟きながら、マリアを見つめていた。

(久々の両親との再会だし、仕方がないことなのかもしれないな……)

 それから暁は視線をマリアから外し、いつも通りの授業に戻ったのだった。



 昼休みになり、生徒たちはそれぞれ食堂で食事を楽しんでいた。

 そんな中でマリアは一点を見つめ、ぼーっとしていた。

「マリアちゃん、大丈夫でござるか」

 結衣は、心配そうにマリアの顔を覗き込みながらそう言った。

「あ……結衣。うん。大丈夫。少し緊張しているだけだから」
「久しぶりに会う両親ですからなあ……でもそんなに硬くなることもないと思いまするよ。せっかくの再会なのですから、楽しんでくだされ」

 結衣はそう言いながら、ニコッとした。

「ありがとう、結衣。そうだね。楽しい面談になるといいな」

 そう言って、マリアも笑った。

 暁はそんな2人の様子を見て、ほっとした。

 マリアはもしかしたら両親に会うことに抵抗があるではないかと、暁は不安を感じていたからだった。

 今回の面談はマリアが過去を乗り越えるために、必要な出来事なんだと暁は思っていた。

 ここへ来るきっかけの事件から、マリアは父親にはあっていなかったらしい。お互いが何を思い、そしてどう動くのか……。俺はただ行く末を見守るだけだ――。

 それから昼食を終えた暁たちは、午後の授業を開始したのだった。



 午後2時。暁はマリアと共に職員室でマリアの両親が来るのを待っていた。

「マリア、大丈夫か? 顔が強張ってるぞ……」

 マリアの顔を覗き込みながら、心配そうに告げる暁。

 いつもは落ち着いた表情をしているマリアだが、やはり久しぶりの両親……というか父親との再会に緊張しているのだろうな。

 そんなことを考えながら、暁は強張るマリアを見守った。

 そして――

「あ……来たみたい」

 マリアのスマホに母親からの連絡が入る。

「そうか。じゃあ行くか」

 暁はそう言いながら立ち上がり、マリアに微笑みかける。

「……うん」

 マリアは緊張した表情のまま、そう頷いた。

 そして暁とマリアは2人でエントランスゲートへ向かった。



 エントランスゲート前。桑島夫妻。

「ここがマリアの住んでいるところなのね」

 立派なゲートを見つめながら、感心する女性。

「君もここへは来たことはなかったんだね」

 そう言いながら、女性の傍らで優し気に笑う中年の男性。

「ええ。だって、私が来たらキリヤが嫌がるかなって思って、なかなかね……」
「そうか……すまないな。俺のせいで」

 俯く男性。

「あなたが謝ることじゃないわ。誰も悪くなんてない。神様が決めた運命だっただけよ」

 女性はそう言いながら、男性に寄り添った。

「ありがとう」
「あ、マリアが来たみたい! おーい! マリアー!」

 女性は建物から出てくるかわいい愛娘に声を上げて手を振った。



 暁たちが建物の外に出ると、ゲートの向こうから手を振る女性が見えた。

「あれが……」

 その女性は艶やかな腰くらいまである黒髪を靡かせながら、嬉しそうに手を振っていた。

「お母さん……」

 そう言いながら、顔を赤くするマリア。

「振り返さなくてもいいのか?」

 暁がそう問うと、

「恥ずかしいからいい」

 とマリアは俯きながら答える。

「ははは……」

(まあ、気持ちはわからんでもないな)

 そして暁たちがゲートへ近づくと、その女性の隣に優し気な男性の姿があった。

 おそらく彼がマリアとキリヤの義父だろう。

 ゲート前に立つ二人を見ながら、暁はそう思った。

 そして暁たちはゲートに到着すると、マリアの母親にゲストの入場用カードパスを渡した。

「マリア! 元気にしていた?」

 母はそう言いながら、マリアに優しく問いかける。

「う、うん……」

 しかしマリアは少々戸惑いながら、返事をしていた。

 久々の再会で、どう接していいのかわからないんだろうな――暁はマリアの様子を見ながら、そう思っていた。

「あの、初めまして。自分はマリアさんの担任をさせていただいている三谷暁です」

 そう言って暁はマリアの両親に頭を下げる。

「ご丁寧にありがとうございます。マリアの母です」

 マリアの母親はそう言いながら、頭を下げた。

「自分が父です。いつもマリアがお世話になっています」

 続いて隣にいた父親もそう言って頭を下げた。

「じゃあここで立ち話もなんですから、中へどうぞ」

 そして暁たちは施設の建物内へと向かった。



「S級の保護施設って言うくらいだから、もっと重々しい感じを想像していたけれど、普通の学校と変わりないんですね」

 マリアの母は廊下を歩きながら、きょろきょろと周りを見ながら歩いていた。

「はは……確かにそう思いますよね」

 暁は振り返りながら、マリアの母にそう答えた。

「自分の子供たちがどんな環境で暮らしているのかって不安に思っておりましたが、ここなら安心して任せられるかもしれません」

 そう言って、微笑んでいるマリアの母親。

 その笑顔はとてもきれいで美しく、どこかマリアに似ているように思った。

(まあ、母親なんだから似ているのは当たり前なんだけどな)

 それから俺たちは職員室の隣にある来客用の部屋へ。

「じゃあ自分はちょっと準備があるので、家族水入らずで過ごしてお待ちください」

 暁はそれだけ言い残し、その部屋を後にした。

「さてと……」

 暁は職員室に入り、机へ向かう。

 ちなみに準備があるというのは暁の真っ赤な嘘で、マリアとマリアの両親とで会話をしてもらう為だった。

 自分があの中にいたら、きっとマリアは言いたいことを言えないで終わってしまうかもしれない。そうなったら、この面談を企画した意味がなくなってしまう。これはマリアが自分の過去と向き合い、そして前へ進むために必要な試練なんだ――。

「頑張れ、マリア……」

 そして暁は椅子に腰を掛けて、時が来るのを待つことにした。
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