192 / 501
第5章 新しい出会い
第37話ー① 道化師が仮面を外すとき
しおりを挟む
『本日のゲストは! 現在人気沸騰中の天才子役! 知立凛子ちゃんです!!』
『よろしくお願いします!』
『今日も元気一杯みたいだね! 女優の仕事は楽しい?』
『はい! 役者って私じゃない私をたくさん知ることができて、いろんな人の人生を生きているような気持ちになれるんです。だから、私はこのままずっと役者でありたいと思っています』
笑顔でそう語るかつての凛子。
凛子は部屋のソファに座りながら、動画サイトで過去の自分のインタビューを観返した。
「何がずっと役者でいる、よ……。なんで私はこんな……」
そして抱きしめているクッションに顔をうずめる凛子。
私は役者でいたかった。それなのに、なんで――
とある日曜日。
腹をすかせた暁は、食べるものを求めて食堂に向かっていた。
「冷蔵庫になにかあったかな……そういえば、今日の昼の豆乳プリンがあったな。まだ残っているといいけど……」
そんなことを言いつつ、暁は空腹に耐えながら廊下を進む。
食堂に近づくと、そこから楽しそうな声が響いていることに気が付く暁。そしてこっそりと食堂を覗くと、一冊のノートを囲いながら真一としおんが話し合っている姿が見えた。
生き生きと話すしおんとそんなしおんに淡々と返す真一。
その姿をみて、暁はしおんの望みが叶ったことを知った。
(良かったな、しおん……)
そんなことを思いながら、二人をそっと見つめた。
しかし真一が誰かと一緒に過ごす日が来るなんて、思いもしなかったな……。何があっても、どんな時でも今までの真一は一人で過ごしていたから。しおんの存在が真一を変えていくのかもしれない――。
暁はそんなことを思いながら、二人の姿を見守っていた。
しかし……
――ぐぅぅぅぅ。
「うぅ……」
暁の腹の虫は、このまま見守ることを良しとしていないようだった。
「二人には悪いけど、俺は豆乳プリンを食べないと、どうにかなってしまいそうだ」
そして暁は食堂へ入っていった。
「お! 先生! どうしたんです?」
しおんが暁の存在に気が付き、そう言って声を掛ける。
「楽しんでいるところに悪いな。ちょっと腹が減って、冷蔵庫に何か残っていないかと思ってきたんだ。あ、俺のことはいいから、続けてくれ」
そう言って、暁はキッチンスペースの方に向かう。
この食堂には、小さな冷蔵庫が設置されており、その日に出たデザートは後からでも食べられるようにと少しだけこの冷蔵庫に入っている。
「ええっと、豆乳プリンはあるかな……」
暁は冷蔵庫を開けて中を覗くと、そこには暁の求めていた豆乳プリンがしっかりと存在感を示しながらそこにいた。
「よし! 今日はついている!!」
そう言いながら、暁は冷蔵庫から豆乳プリンを持ちだし、カウンターに取り付けられている引き出しからデザートスプーンと取り出した。
「二人の邪魔にならないよう、俺は自室で食べるかな……」
そう言って、暁はキッチンスペースから出ようとした時、しおんと誰かが言いあう声が聞こえた。
「なんなんだよ! いちいち俺のやることに口出しするんじゃねぇよ! このしょぼアイドル!」
「はあ? 口出しじゃないし! ただ気に入らないって言っているだけなんですけど?」
「お前に気に入られるために、俺は音楽をやるわけじゃねえんだよ!」
暁は豆乳プリンを持ちながら、その場を冷静に見ている真一の隣に立った。
「おい、あの二人に何があったんだ?」
「凛子が食堂に来て、『才能ないやつが何頑張ってんの』って言ったことがすべての始まりかな」
「……そうか。というか、真一は止めなくてもいいのか?」
「めんどくさいから、このまま見ておくよ」
「さすがだな……」
凛子としおんは初めて会った時からずっとこんな調子だった。顔を合わせれば、口喧嘩ばかり。だいたい凛子から喧嘩を吹っかけて、気が付いたらお互いが罵倒しあうことになる。
しおんの『コトダマ』が発動する前に、なんとかことを収めないとな――
「こら、二人とも! いい加減にしないか! ほら、しおんも落ち着けよ? 今夜の晩御飯は、星を見ながらになるだろう? あと、凛子も! 口喧嘩になるんだから、毎回しおんを挑発するな!」
「ちっ」「ふん」
二人はそう言って、お互いそっぽを向く。
「……まったく」
暁はため息交じりにその言葉が出てきた。
それから凛子は、不機嫌そうに食堂を出たのだった。
「なんであいつは、いつも俺につっかかってくるんだよ。俺、何かしたか?」
しおんは真一に確認するように問う。
「めんどくさい性格だからじゃない」
淡々と答える真一。
「そうだよな……あのアイドル、めんどくさいよな……」
うん、うんと頷くしおん。
「いや、めんどくさいのは、しおんの方だから」
「え!?」
「ほら、続き……歌詞つけるんでしょ」
真一はそう言いながら、ノートを指さす。
「お、おう。そうだったな!」
そして2人は再びノートに向かった
何とかことを収めた暁はほっとしつつ、豆乳プリンを持ったまま自室に向かった。
『よろしくお願いします!』
『今日も元気一杯みたいだね! 女優の仕事は楽しい?』
『はい! 役者って私じゃない私をたくさん知ることができて、いろんな人の人生を生きているような気持ちになれるんです。だから、私はこのままずっと役者でありたいと思っています』
笑顔でそう語るかつての凛子。
凛子は部屋のソファに座りながら、動画サイトで過去の自分のインタビューを観返した。
「何がずっと役者でいる、よ……。なんで私はこんな……」
そして抱きしめているクッションに顔をうずめる凛子。
私は役者でいたかった。それなのに、なんで――
とある日曜日。
腹をすかせた暁は、食べるものを求めて食堂に向かっていた。
「冷蔵庫になにかあったかな……そういえば、今日の昼の豆乳プリンがあったな。まだ残っているといいけど……」
そんなことを言いつつ、暁は空腹に耐えながら廊下を進む。
食堂に近づくと、そこから楽しそうな声が響いていることに気が付く暁。そしてこっそりと食堂を覗くと、一冊のノートを囲いながら真一としおんが話し合っている姿が見えた。
生き生きと話すしおんとそんなしおんに淡々と返す真一。
その姿をみて、暁はしおんの望みが叶ったことを知った。
(良かったな、しおん……)
そんなことを思いながら、二人をそっと見つめた。
しかし真一が誰かと一緒に過ごす日が来るなんて、思いもしなかったな……。何があっても、どんな時でも今までの真一は一人で過ごしていたから。しおんの存在が真一を変えていくのかもしれない――。
暁はそんなことを思いながら、二人の姿を見守っていた。
しかし……
――ぐぅぅぅぅ。
「うぅ……」
暁の腹の虫は、このまま見守ることを良しとしていないようだった。
「二人には悪いけど、俺は豆乳プリンを食べないと、どうにかなってしまいそうだ」
そして暁は食堂へ入っていった。
「お! 先生! どうしたんです?」
しおんが暁の存在に気が付き、そう言って声を掛ける。
「楽しんでいるところに悪いな。ちょっと腹が減って、冷蔵庫に何か残っていないかと思ってきたんだ。あ、俺のことはいいから、続けてくれ」
そう言って、暁はキッチンスペースの方に向かう。
この食堂には、小さな冷蔵庫が設置されており、その日に出たデザートは後からでも食べられるようにと少しだけこの冷蔵庫に入っている。
「ええっと、豆乳プリンはあるかな……」
暁は冷蔵庫を開けて中を覗くと、そこには暁の求めていた豆乳プリンがしっかりと存在感を示しながらそこにいた。
「よし! 今日はついている!!」
そう言いながら、暁は冷蔵庫から豆乳プリンを持ちだし、カウンターに取り付けられている引き出しからデザートスプーンと取り出した。
「二人の邪魔にならないよう、俺は自室で食べるかな……」
そう言って、暁はキッチンスペースから出ようとした時、しおんと誰かが言いあう声が聞こえた。
「なんなんだよ! いちいち俺のやることに口出しするんじゃねぇよ! このしょぼアイドル!」
「はあ? 口出しじゃないし! ただ気に入らないって言っているだけなんですけど?」
「お前に気に入られるために、俺は音楽をやるわけじゃねえんだよ!」
暁は豆乳プリンを持ちながら、その場を冷静に見ている真一の隣に立った。
「おい、あの二人に何があったんだ?」
「凛子が食堂に来て、『才能ないやつが何頑張ってんの』って言ったことがすべての始まりかな」
「……そうか。というか、真一は止めなくてもいいのか?」
「めんどくさいから、このまま見ておくよ」
「さすがだな……」
凛子としおんは初めて会った時からずっとこんな調子だった。顔を合わせれば、口喧嘩ばかり。だいたい凛子から喧嘩を吹っかけて、気が付いたらお互いが罵倒しあうことになる。
しおんの『コトダマ』が発動する前に、なんとかことを収めないとな――
「こら、二人とも! いい加減にしないか! ほら、しおんも落ち着けよ? 今夜の晩御飯は、星を見ながらになるだろう? あと、凛子も! 口喧嘩になるんだから、毎回しおんを挑発するな!」
「ちっ」「ふん」
二人はそう言って、お互いそっぽを向く。
「……まったく」
暁はため息交じりにその言葉が出てきた。
それから凛子は、不機嫌そうに食堂を出たのだった。
「なんであいつは、いつも俺につっかかってくるんだよ。俺、何かしたか?」
しおんは真一に確認するように問う。
「めんどくさい性格だからじゃない」
淡々と答える真一。
「そうだよな……あのアイドル、めんどくさいよな……」
うん、うんと頷くしおん。
「いや、めんどくさいのは、しおんの方だから」
「え!?」
「ほら、続き……歌詞つけるんでしょ」
真一はそう言いながら、ノートを指さす。
「お、おう。そうだったな!」
そして2人は再びノートに向かった
何とかことを収めた暁はほっとしつつ、豆乳プリンを持ったまま自室に向かった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話
もち
ファンタジー
なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、
だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。
で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。
で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。
「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」
これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、
「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」
などと喚きながら、その百回目に転生した、
『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、
『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、
『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。
『世界が進化(アップデート)しました』
「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」
――みたいな事もあるお話です。
しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。
2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw
投稿ペースだけなら、自信があります!
ちなみに、全1000話以上をめざしています!
【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。
月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」
公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。
一応、R15にしました。本編は全5話です。
番外編を不定期更新する予定です!
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる