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第5章 新しい出会い
第36話ー① 追憶とセレンディピティ
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「ここは、こんな感じか……?」
しおんは相棒のアコースティックギターを抱え、部屋のベッドでギターの練習をしていた。
「よっし。良い感じだ!」
ギターを弾いているときは余計なことを考えなくて済む。だから俺はこの時間が好きなんだ――としおんはそう思いながら笑顔でギターを弾いていた。
――それから数時間後。ひと段落したしおんはギターをスタンドに置き、机に向かった。
「今日の練習はこの辺で、そろそろ曲作りでもするか」
そう言ってしおんは机からノートを取り出し、再びギターを持って床に胡坐をかいて座る。そして思い浮かんだメロディをギターで弾きながら取り出したノートに書きこんでいった。
「ここは……こんな感じか? それで……うん! いいぞ!! これは名曲の予感だ!! あとはかっこいい歌詞を……」
そしてはっとするしおん。
今の俺じゃ、いくら歌詞がついても――
そう思ったしおんは俯き、
「まあどんな名曲をつくったって、俺は歌えないんだよな……」
そう呟いた。
そしてノートをそっと閉じたしおんはギターをスタンドに置き、ベッドに仰向けで倒れる。
「はあ。俺がこうしている間に、『あいつ』はもっと高みに上っているんだろうな……」
しおんはそんなことを呟き、天井を見つめた。
『あいつ』というのは、弟の鳴海あやめのことだった。なんでも器用にこなす、自分とは正反対の天才肌――。
あやめは人気バンド『ASTER』のボーカルとしてどんどん活躍しており、先日発売された『ASTER』のアルバムはオリコン週間ランキング1位を獲得していた。
「同じ親から生まれているはずなのに、どうして俺と『あいつ』はこんなに違うんだろうな。なんで俺はこんなところで――」
そう呟きながら、しおんは自分の右腕で目を覆った。
どれだけ考えても、もう仕方のないことだった。起こってしまったこの現実を受け入れるしかない。ロックミュージシャンになるって夢なんて、叶わないのだろう――
「くっそ……」
ギターも弾けるし曲も書けるけれど、俺は歌が歌えない――。
自分が目覚めた『白雪姫症候群』の能力は、『コトダマ』と言って、感情を乗せて言葉を発するとそれが弾丸のように発した相手に飛んで行ってしまう力。歌手を目指す人間にとって、一番あってはならない力だった。
この力に目覚めた時、しおんは絶望した。
自分を肯定してくれたのは、音楽しかなかった。でもその音楽にすら、自分は見捨てられてしまったから――。
しおんはそんなことを思ってギターを見つめながら、ため息をつく。
「こんなこと続けたって、どうにもならないのにな……」
そしてしおんは再びギターを手にもって、好きなロックミュージシャンの曲を演奏し始める。
音楽はこんなに素敵なものなのに――
「~♪」
しおんはそんなことを考えていると、無意識にその歌を口ずさんでいた。
すると『ドオオンッ』と何かが壊れるような音がして、しおんはその方に目を向けた。
「うわ、また俺……」
それは、自分の能力によって部屋の壁が壊れた音だったことに気が付いたしおん。
それからしおんは、そこで奇跡の歌声を聞いた。
「なんだ、この歌声……」
しおんの目の前にはヘッドホンをつけて、とてものびのびと楽しそうに歌う真一がいた。
(す、すげえ。こんなに綺麗な声で歌えるやつっているのか……)
その歌声はとてもまっすぐで芯のある優しいものだった。
(こんなすげえ歌声に偶然、出会うことができるなんて!!)
そう思ったしおんは居ても立っても居られなくなり、
「お、おい!! 真一!! お前! 俺と組もう!!」
気が付くと真一の肩を掴みながら、そう言っていた。
「……は?」
唐突のことに驚くそぶりもなく、冷めた視線をしおんに送る真一。
「俺とてっぺん目指そう!! お前となら、絶対にできる!! 世界一のロックミュージシャンになれる!!」
「……その前にさ、これは何の有様なわけ?」
真一は壊れた壁を指さしながら、そう言った。
「え!? あ、こ、これは……その」
「はあ。それと、僕は君とは組まない。僕は僕の道を行く。誰ともやるつもりないはない」
「な、なんでだよ! 俺だって、ギターはそこそこに――」
「は? そこそこって何? 僕は本気で音楽の道に進もうと思っている。お遊びでやりたいだけなら、他を当たってよ」
そう言って、真一は部屋を出ていった。
「別に俺だって遊びじゃ……」
しおんがそう呟くと、真一は部屋に戻って来た。
「もしかして、考え直してくれたのか?」
「違う。この部屋、何とかしておいてよ」
それだけ言って真一はどこかへ行ってしまった。
「はあ」
しおんはため息をつきながら、その場に座り込んだ。
「俺だって、本気なのに……どうしたら、真一に伝わるんだろう……今はここを片付けるか」
そしてしおんは部屋の片づけを始めたのだった。
しおんは相棒のアコースティックギターを抱え、部屋のベッドでギターの練習をしていた。
「よっし。良い感じだ!」
ギターを弾いているときは余計なことを考えなくて済む。だから俺はこの時間が好きなんだ――としおんはそう思いながら笑顔でギターを弾いていた。
――それから数時間後。ひと段落したしおんはギターをスタンドに置き、机に向かった。
「今日の練習はこの辺で、そろそろ曲作りでもするか」
そう言ってしおんは机からノートを取り出し、再びギターを持って床に胡坐をかいて座る。そして思い浮かんだメロディをギターで弾きながら取り出したノートに書きこんでいった。
「ここは……こんな感じか? それで……うん! いいぞ!! これは名曲の予感だ!! あとはかっこいい歌詞を……」
そしてはっとするしおん。
今の俺じゃ、いくら歌詞がついても――
そう思ったしおんは俯き、
「まあどんな名曲をつくったって、俺は歌えないんだよな……」
そう呟いた。
そしてノートをそっと閉じたしおんはギターをスタンドに置き、ベッドに仰向けで倒れる。
「はあ。俺がこうしている間に、『あいつ』はもっと高みに上っているんだろうな……」
しおんはそんなことを呟き、天井を見つめた。
『あいつ』というのは、弟の鳴海あやめのことだった。なんでも器用にこなす、自分とは正反対の天才肌――。
あやめは人気バンド『ASTER』のボーカルとしてどんどん活躍しており、先日発売された『ASTER』のアルバムはオリコン週間ランキング1位を獲得していた。
「同じ親から生まれているはずなのに、どうして俺と『あいつ』はこんなに違うんだろうな。なんで俺はこんなところで――」
そう呟きながら、しおんは自分の右腕で目を覆った。
どれだけ考えても、もう仕方のないことだった。起こってしまったこの現実を受け入れるしかない。ロックミュージシャンになるって夢なんて、叶わないのだろう――
「くっそ……」
ギターも弾けるし曲も書けるけれど、俺は歌が歌えない――。
自分が目覚めた『白雪姫症候群』の能力は、『コトダマ』と言って、感情を乗せて言葉を発するとそれが弾丸のように発した相手に飛んで行ってしまう力。歌手を目指す人間にとって、一番あってはならない力だった。
この力に目覚めた時、しおんは絶望した。
自分を肯定してくれたのは、音楽しかなかった。でもその音楽にすら、自分は見捨てられてしまったから――。
しおんはそんなことを思ってギターを見つめながら、ため息をつく。
「こんなこと続けたって、どうにもならないのにな……」
そしてしおんは再びギターを手にもって、好きなロックミュージシャンの曲を演奏し始める。
音楽はこんなに素敵なものなのに――
「~♪」
しおんはそんなことを考えていると、無意識にその歌を口ずさんでいた。
すると『ドオオンッ』と何かが壊れるような音がして、しおんはその方に目を向けた。
「うわ、また俺……」
それは、自分の能力によって部屋の壁が壊れた音だったことに気が付いたしおん。
それからしおんは、そこで奇跡の歌声を聞いた。
「なんだ、この歌声……」
しおんの目の前にはヘッドホンをつけて、とてものびのびと楽しそうに歌う真一がいた。
(す、すげえ。こんなに綺麗な声で歌えるやつっているのか……)
その歌声はとてもまっすぐで芯のある優しいものだった。
(こんなすげえ歌声に偶然、出会うことができるなんて!!)
そう思ったしおんは居ても立っても居られなくなり、
「お、おい!! 真一!! お前! 俺と組もう!!」
気が付くと真一の肩を掴みながら、そう言っていた。
「……は?」
唐突のことに驚くそぶりもなく、冷めた視線をしおんに送る真一。
「俺とてっぺん目指そう!! お前となら、絶対にできる!! 世界一のロックミュージシャンになれる!!」
「……その前にさ、これは何の有様なわけ?」
真一は壊れた壁を指さしながら、そう言った。
「え!? あ、こ、これは……その」
「はあ。それと、僕は君とは組まない。僕は僕の道を行く。誰ともやるつもりないはない」
「な、なんでだよ! 俺だって、ギターはそこそこに――」
「は? そこそこって何? 僕は本気で音楽の道に進もうと思っている。お遊びでやりたいだけなら、他を当たってよ」
そう言って、真一は部屋を出ていった。
「別に俺だって遊びじゃ……」
しおんがそう呟くと、真一は部屋に戻って来た。
「もしかして、考え直してくれたのか?」
「違う。この部屋、何とかしておいてよ」
それだけ言って真一はどこかへ行ってしまった。
「はあ」
しおんはため息をつきながら、その場に座り込んだ。
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