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第5章 新しい出会い
第35話ー② 七夕
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「あなたが織姫ですか? よろしくお願いします!」
そう言って、織姫に優しく微笑む奏多。
織姫は今までこんなに優しくて温かい笑顔を向けられたことがなかったため、奏多のその笑顔に嬉しさで涙がこぼれる。
「え!? どうしたのですか!? 私、何かしてしまいましたか!?」
奏多はそんな織姫の姿に驚き、慌ててそう言った。その姿がなんだかおかしく思った織姫は、今度は笑顔になった。
「ああ、よかった。笑ってくれて……」
それを見て、胸を撫でおろしホッとする奏多。
「ありがとう、奏多ちゃん」
そう言って、織姫は奏多に微笑みかけた。
「ふふふ。やっぱり笑顔の方が可愛いですね。私は笑っている織姫の方が好きですよ」
それから週に1回、奏多は織姫の家に遊びに来るようになった。
奏多は織姫の知らないことを教えたり、練習しているというバイオリンの演奏をして織姫と過ごした。
そうして過ごしているうちに、織姫は両親に会えない淋しさを忘れて行った。
しかし……奏多は、発表会への参加が決まった日から少しずつ変わっていった。笑わないことが増えたり、織姫の家にも遊びに来なくなっていった。
そして織姫の淋しい日々がまた始まった。
今は淋しいけど、でもきっと発表会が終われば、奏多ちゃんは元通りになる――。
織姫はそう信じて、奏多を待つことにしたのだった。
しかし……織姫は現実に裏切られることになる。
奏多は参加した発表会で白雪姫症候群の能力が発動し、S級クラスの施設に移り住むことになったのだった。
「七夕の時以外の織姫と彦星みたいに、私は大切な人とは会えなくなる運命なのかな」
織姫はふいにそんなことを思った。
私が期待すれば、また現実は私を裏切る。そんなのはもう嫌だ……。またそうなるくらいなら、誰にも期待せずに生きていく方が、きっと私自身の為なのかもしれない――。
織姫はそう思うことにした。
それから織姫の独りぼっちな日々が始まった――。
それから数年後、織姫は小学6年生になった。
織姫は今日もいつものように家の車で小学校まで向かっていた。
その途中、織姫はつまらなそうな表情を浮かべて、車の窓の外を見つめていた。そしてそこからいろんな人たちが目に入る。
楽しそうに登下校する児童たち、仕事に向かうためにいそいそと足を進める会社員の男性。そして我が子を幼稚園へ送るため、子供を椅子に乗せ、懸命に自転車を走らせる母親。
織姫には自分のできない日常がそこに広がっているように見えた。
「違う家に生まれたら、私はこんなに淋しい思いをせずに済んだのでしょうか……」
外を見ながら、織姫はそんな小言をこぼす。
それから織姫はちらりと運転席の方に視線を向ける。
しかし運転席にいる運転手の白井は、織姫の言葉に反応をすることはなかった。
きっと白井には私の声なんて聞こえていないんだろうな――と織姫はそう思った。
やっぱり私は誰の目にも映っていないのかもしれない……。
「はあ」
織姫は重い溜息をつきながら、学校へ向かった。
小学校に着くと、白井は織姫がいる方の扉を開けて、
「いってらっしゃいまで、お嬢様」
そう言って、深々と頭を下げていた。
「いってきます」
織姫は車を降りながらいつものように、そっけなく白井に返事をする。
織姫を見送った白井は素早く運転席に戻り、元来た道を帰っていった。
「相変わらず、そっけないんだから……私もだけど」
それから織姫が校舎に向かって歩いていると、
「織姫!」
後ろから織姫を呼ぶ声がした。
聞き覚えのあるその声に、織姫はあえて振り向くことはしなかった。
「聞こえていないのかな? おーい、織姫!」
そしてさっきよりも明らかに大きな声で、織姫を呼ぶ声の主。
しびれを切らした織姫は、とうとうその声に答える。
「何?」
織姫は振り返り、その声の主に冷たく言い放つ。
「よかった、やっと返事してくれた。おはよう! 一緒に教室まで行こう!」
そう言ったのは、奏多の弟で織姫の従弟でもある神宮寺弦太だった。
「勝手にすれば」
「やった!」
織姫は冷たく言い放ったはずだったが、まったく気が付いていない様子の弦太。朝から陽気な態度で少し腹立たしいなと織姫は思っていた。
黒髪で切れ長の目は、奏多と瓜二つ。しかし性格は全く似ておらず、学校では常に騒がしくて、気が付くといつも馬鹿なことばかりしている弦太。
そんな明るい性格からクラスの人気者で、彼の机の周りにはいつも人が集まっていた。
ちなみに彼は国内トップ企業の神宮寺グループの次期当主といわれており、周りの人間から大きな期待をかけられている、業界の有名人である。
私が男なら、同じようにいろんな人に目をかけてもらえたかもしれないのに――と織姫は思っており、直接関係はないが、弦太のことを憎らしく思っていた。
織姫が黙って歩いている横で、弦太はとても楽しそうに話していた。
そもそも聞く気のない会話だった為、内容はほとんど頭には入れず、弦太の会話に織姫は適当に返事をしていた。
しかしその会話の中の最後の話だけ、織姫は興味が湧く。
「姉さんの能力が消失したみたいなんだ」
「奏多ちゃんの能力が……?」
「うん。この間、父さんと母さんが姉さんに会うために、S級施設に行ってきたみたいでね。その時に、姉さんが普通にバイオリンを弾いていたんだって。それから検査に行ったら、能力が消失していたらしいよ」
「そうなんだ……」
「たまにバイオリンのレッスンのために施設から出てくるんだけど、その時に家へ顔を出すことがあるんだ。……よかったら、今度姉さんに会ってみない?」
「奏多ちゃんに……」
織姫は少し考えから、
「いいや」
と弦太に答えた。
その言葉に驚く弦太。
「なんで? 織姫は姉さんのこと大好きだったじゃないか。今はもう違うのかい?」
「私もあの時とはもう違うんだよ」
織姫はそう言い、弦太を置いて教室まで走った。
そう言って、織姫に優しく微笑む奏多。
織姫は今までこんなに優しくて温かい笑顔を向けられたことがなかったため、奏多のその笑顔に嬉しさで涙がこぼれる。
「え!? どうしたのですか!? 私、何かしてしまいましたか!?」
奏多はそんな織姫の姿に驚き、慌ててそう言った。その姿がなんだかおかしく思った織姫は、今度は笑顔になった。
「ああ、よかった。笑ってくれて……」
それを見て、胸を撫でおろしホッとする奏多。
「ありがとう、奏多ちゃん」
そう言って、織姫は奏多に微笑みかけた。
「ふふふ。やっぱり笑顔の方が可愛いですね。私は笑っている織姫の方が好きですよ」
それから週に1回、奏多は織姫の家に遊びに来るようになった。
奏多は織姫の知らないことを教えたり、練習しているというバイオリンの演奏をして織姫と過ごした。
そうして過ごしているうちに、織姫は両親に会えない淋しさを忘れて行った。
しかし……奏多は、発表会への参加が決まった日から少しずつ変わっていった。笑わないことが増えたり、織姫の家にも遊びに来なくなっていった。
そして織姫の淋しい日々がまた始まった。
今は淋しいけど、でもきっと発表会が終われば、奏多ちゃんは元通りになる――。
織姫はそう信じて、奏多を待つことにしたのだった。
しかし……織姫は現実に裏切られることになる。
奏多は参加した発表会で白雪姫症候群の能力が発動し、S級クラスの施設に移り住むことになったのだった。
「七夕の時以外の織姫と彦星みたいに、私は大切な人とは会えなくなる運命なのかな」
織姫はふいにそんなことを思った。
私が期待すれば、また現実は私を裏切る。そんなのはもう嫌だ……。またそうなるくらいなら、誰にも期待せずに生きていく方が、きっと私自身の為なのかもしれない――。
織姫はそう思うことにした。
それから織姫の独りぼっちな日々が始まった――。
それから数年後、織姫は小学6年生になった。
織姫は今日もいつものように家の車で小学校まで向かっていた。
その途中、織姫はつまらなそうな表情を浮かべて、車の窓の外を見つめていた。そしてそこからいろんな人たちが目に入る。
楽しそうに登下校する児童たち、仕事に向かうためにいそいそと足を進める会社員の男性。そして我が子を幼稚園へ送るため、子供を椅子に乗せ、懸命に自転車を走らせる母親。
織姫には自分のできない日常がそこに広がっているように見えた。
「違う家に生まれたら、私はこんなに淋しい思いをせずに済んだのでしょうか……」
外を見ながら、織姫はそんな小言をこぼす。
それから織姫はちらりと運転席の方に視線を向ける。
しかし運転席にいる運転手の白井は、織姫の言葉に反応をすることはなかった。
きっと白井には私の声なんて聞こえていないんだろうな――と織姫はそう思った。
やっぱり私は誰の目にも映っていないのかもしれない……。
「はあ」
織姫は重い溜息をつきながら、学校へ向かった。
小学校に着くと、白井は織姫がいる方の扉を開けて、
「いってらっしゃいまで、お嬢様」
そう言って、深々と頭を下げていた。
「いってきます」
織姫は車を降りながらいつものように、そっけなく白井に返事をする。
織姫を見送った白井は素早く運転席に戻り、元来た道を帰っていった。
「相変わらず、そっけないんだから……私もだけど」
それから織姫が校舎に向かって歩いていると、
「織姫!」
後ろから織姫を呼ぶ声がした。
聞き覚えのあるその声に、織姫はあえて振り向くことはしなかった。
「聞こえていないのかな? おーい、織姫!」
そしてさっきよりも明らかに大きな声で、織姫を呼ぶ声の主。
しびれを切らした織姫は、とうとうその声に答える。
「何?」
織姫は振り返り、その声の主に冷たく言い放つ。
「よかった、やっと返事してくれた。おはよう! 一緒に教室まで行こう!」
そう言ったのは、奏多の弟で織姫の従弟でもある神宮寺弦太だった。
「勝手にすれば」
「やった!」
織姫は冷たく言い放ったはずだったが、まったく気が付いていない様子の弦太。朝から陽気な態度で少し腹立たしいなと織姫は思っていた。
黒髪で切れ長の目は、奏多と瓜二つ。しかし性格は全く似ておらず、学校では常に騒がしくて、気が付くといつも馬鹿なことばかりしている弦太。
そんな明るい性格からクラスの人気者で、彼の机の周りにはいつも人が集まっていた。
ちなみに彼は国内トップ企業の神宮寺グループの次期当主といわれており、周りの人間から大きな期待をかけられている、業界の有名人である。
私が男なら、同じようにいろんな人に目をかけてもらえたかもしれないのに――と織姫は思っており、直接関係はないが、弦太のことを憎らしく思っていた。
織姫が黙って歩いている横で、弦太はとても楽しそうに話していた。
そもそも聞く気のない会話だった為、内容はほとんど頭には入れず、弦太の会話に織姫は適当に返事をしていた。
しかしその会話の中の最後の話だけ、織姫は興味が湧く。
「姉さんの能力が消失したみたいなんだ」
「奏多ちゃんの能力が……?」
「うん。この間、父さんと母さんが姉さんに会うために、S級施設に行ってきたみたいでね。その時に、姉さんが普通にバイオリンを弾いていたんだって。それから検査に行ったら、能力が消失していたらしいよ」
「そうなんだ……」
「たまにバイオリンのレッスンのために施設から出てくるんだけど、その時に家へ顔を出すことがあるんだ。……よかったら、今度姉さんに会ってみない?」
「奏多ちゃんに……」
織姫は少し考えから、
「いいや」
と弦太に答えた。
その言葉に驚く弦太。
「なんで? 織姫は姉さんのこと大好きだったじゃないか。今はもう違うのかい?」
「私もあの時とはもう違うんだよ」
織姫はそう言い、弦太を置いて教室まで走った。
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