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第4章 過去・今・未来
第29話ー④ 風は吹いている
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モヤモヤとした感情を湯船につかることで解消した僕は、軽い足取りで浴場を出た。
「やっと気持ちも落ち着いたことだし、部屋に戻ったらまたあの新曲を聴こう」
そんなことを呟きながら、僕は自室へと歩みを進めていた。
そして共同スペースを通り過ぎようとした時、まゆおとキリヤの二人が並んでテレビを観ている姿が見えた。
わざわざこんなところで一緒に観る必要なんてあるのかな。そもそもそれぞれの自室には小さいけどテレビが設置されているに。
そんなことを思いつつ、二人を横目に僕は自室へと歩みを進める。
そして僕は二人に声を掛けることもなく、そのまま通り過ぎようとした時、不意に二人の観ているテレビが目に入った。
『今日はあの13年前の事故の真相について語っていきます!!』
『あの事故からもう13年ほど経ちますね。今思い出しても悲惨な事故だったと記憶しています……真相を明らかにして、今後の事故防止につなげていきたいですね』
『全くその通りです! それでは!! その悲劇が起こった日に偶然あの事故現場にいた人から事故当時のお話を伺ったので、それを交えてトークをしていきましょう!』
それから画面はスタジオ風景からVTRに切り替わり、事件当時を知る男性が当時のことを話し始めた。
『とても悲惨な現場だった』『生き残った少年が可哀そうでならない』
VTRでそんなことを語る男性を、僕は睨むように見つめた。
――真相なんて今更明らかにしたって、また僕の両親が社会的な悪者にされるだけ。そして僕がまた、『死神の子』と蔑まれるだけのことなのに。
どいつもこいつも偽善者ぶって僕のことを可哀そうだと口ではそう言って憐れむくせに、結局のところ人の不幸は蜜の味って思っているんだろ。
もう終わったことだって思っていたのに。なんでまたあの事故のことを掘り下げる必要があるんだよ……もう放って置いてくれよ!
そんな怒りの感情を抱いた僕は、抱いた感情を握り潰すように両手の拳をグッと強く握りしめた。
すると僕が抱いた今の感情を知るはずもないキリヤが、何を思ったのか突然リモコンを手に取り、
「……まゆお、ごめん。チャンネル変えてもいい?」
まゆおにそう告げた。
「え? う、うん、いいよ」
「ありがとう」
まゆおの了解を取ったキリヤは、チャンネルを歌番組に移した。
「キリヤ君は、ああいう番組は苦手なの?」
急にチャンネルを変えたキリヤに疑問を抱いたまゆおは、キリヤにそう尋ねた。
「そういうわけじゃないよ。……実はさ、あの事故で僕のお父さんが亡くなったんだ。だからあの事故の番組とかをあまり見たくなくてね。……もう割り切ったつもりだったんだけど、やっぱりまだ割り切れていないみたいなんだ」
そう言ってキリヤは頑張って笑顔を作っていた。
キリヤのお父さんがあの事故の被害者……。
僕はその驚愕の事実に罪悪感を覚え、キリヤから視線をそらすように俯いた。
キリヤのお父さんが犠牲になった事故を僕の両親が引き起こし、そしてその事故で僕だけが助かった……。キリヤにとって、僕の存在も……
そんなことを思いながらその場に立ち尽くしていた。
「あれ、真一? いつからそこにいたの? もうそんなところで立っていないで、真一もこっちに来なよ」
僕は急にかけられたその声に顔を上げてその方を見ると、僕の存在に気が付いたキリヤが僕を手招きしていた。
その顔はいつも通りのキリヤの笑顔だった。
キリヤは僕の過去を知らないし、僕が今抱いている感情もきっと知らないはずだとわかっている。でも僕はキリヤの父親への罪悪感でいたたまれなくなり、逃げるように無言でその場を後にした。
「どうしたの? 真一!!」
そう叫んでみるものの、僕の言葉に真一は振り返ることはなく、そのまま自室に入っていった。
そして僕は急に走り去った真一に疑問を持ち、真一が佇んでいたその場所を見つめた。
「どうしたのかな、真一……」
「もしかして……」
僕の言葉にまゆおは何かを思い出したのか、不安そうな表情になる。
「何か心当たりがあるの?」
まゆおの顔を見ながら、僕はまゆおにそう問いかけた。
「さっき僕が真一君と喧嘩になった時も、真一君は嫌なことを思い出していたって言っていたんだ。確かその時も事故のことをテレビで取り上げて。もしかしてそのことと何か関係があるのかなって……」
「嫌なこと、か……」
真一も誰かを交通事故で亡くしているのだろうか。だから急にあんな……。
――そういえば僕は真一の過去を何も知らない。
どこでどう過ごしてきたのか、そしてなぜこの施設に来ることになったのか。今までそんな話をする機会もなかったってこともあるけど。
でもどれだけ僕が問いただしたとしても、きっと真一は自分の過去を話してはくれないだろうな……。
これだけ長い時間を一緒に過ごしていても、僕たちは信頼関係を築けていないんだと思うと僕は少し寂しく感じてしまう。
「真一、大丈夫かな。何ともなければいいけど……」
「そう、だね」
何も知らない僕たちは、真一のことをただ心配することしかできなかった。
キリヤから逃げた僕は、急いで自室に戻りヘッドホンで耳を塞いだ。そしてこの世界と僕を遮断するかのように爆音で音楽を流した。
音楽を聴いているうちは、余計なことを考えなくても済む。だから僕は何か嫌なことがあれば、いつもこうやって音楽で世界を遮断してきた。
叔父が亡くなったあの日から、ずっと……。
ヘッドホンから聴こえてくる、歌声に込められた魂の叫び。
『誰の手も借りねえ! 自分の手でこんな運命を捻じ曲げて、前へ進んでやる!』
本当は僕もこのボーカルの人のように思いたかった。
一人でも強く生きていけると、誰に何を言われても自分は自分だと思えるように。
でも実際は、自分の過去がばれた時にキリヤや他のクラスメイトたちからひどい言葉を掛けられるのではないかと不安になっている。
「僕は、どうしたいんだ……」
そして僕はそのまま夢の中に落ちて行った。
「やっと気持ちも落ち着いたことだし、部屋に戻ったらまたあの新曲を聴こう」
そんなことを呟きながら、僕は自室へと歩みを進めていた。
そして共同スペースを通り過ぎようとした時、まゆおとキリヤの二人が並んでテレビを観ている姿が見えた。
わざわざこんなところで一緒に観る必要なんてあるのかな。そもそもそれぞれの自室には小さいけどテレビが設置されているに。
そんなことを思いつつ、二人を横目に僕は自室へと歩みを進める。
そして僕は二人に声を掛けることもなく、そのまま通り過ぎようとした時、不意に二人の観ているテレビが目に入った。
『今日はあの13年前の事故の真相について語っていきます!!』
『あの事故からもう13年ほど経ちますね。今思い出しても悲惨な事故だったと記憶しています……真相を明らかにして、今後の事故防止につなげていきたいですね』
『全くその通りです! それでは!! その悲劇が起こった日に偶然あの事故現場にいた人から事故当時のお話を伺ったので、それを交えてトークをしていきましょう!』
それから画面はスタジオ風景からVTRに切り替わり、事件当時を知る男性が当時のことを話し始めた。
『とても悲惨な現場だった』『生き残った少年が可哀そうでならない』
VTRでそんなことを語る男性を、僕は睨むように見つめた。
――真相なんて今更明らかにしたって、また僕の両親が社会的な悪者にされるだけ。そして僕がまた、『死神の子』と蔑まれるだけのことなのに。
どいつもこいつも偽善者ぶって僕のことを可哀そうだと口ではそう言って憐れむくせに、結局のところ人の不幸は蜜の味って思っているんだろ。
もう終わったことだって思っていたのに。なんでまたあの事故のことを掘り下げる必要があるんだよ……もう放って置いてくれよ!
そんな怒りの感情を抱いた僕は、抱いた感情を握り潰すように両手の拳をグッと強く握りしめた。
すると僕が抱いた今の感情を知るはずもないキリヤが、何を思ったのか突然リモコンを手に取り、
「……まゆお、ごめん。チャンネル変えてもいい?」
まゆおにそう告げた。
「え? う、うん、いいよ」
「ありがとう」
まゆおの了解を取ったキリヤは、チャンネルを歌番組に移した。
「キリヤ君は、ああいう番組は苦手なの?」
急にチャンネルを変えたキリヤに疑問を抱いたまゆおは、キリヤにそう尋ねた。
「そういうわけじゃないよ。……実はさ、あの事故で僕のお父さんが亡くなったんだ。だからあの事故の番組とかをあまり見たくなくてね。……もう割り切ったつもりだったんだけど、やっぱりまだ割り切れていないみたいなんだ」
そう言ってキリヤは頑張って笑顔を作っていた。
キリヤのお父さんがあの事故の被害者……。
僕はその驚愕の事実に罪悪感を覚え、キリヤから視線をそらすように俯いた。
キリヤのお父さんが犠牲になった事故を僕の両親が引き起こし、そしてその事故で僕だけが助かった……。キリヤにとって、僕の存在も……
そんなことを思いながらその場に立ち尽くしていた。
「あれ、真一? いつからそこにいたの? もうそんなところで立っていないで、真一もこっちに来なよ」
僕は急にかけられたその声に顔を上げてその方を見ると、僕の存在に気が付いたキリヤが僕を手招きしていた。
その顔はいつも通りのキリヤの笑顔だった。
キリヤは僕の過去を知らないし、僕が今抱いている感情もきっと知らないはずだとわかっている。でも僕はキリヤの父親への罪悪感でいたたまれなくなり、逃げるように無言でその場を後にした。
「どうしたの? 真一!!」
そう叫んでみるものの、僕の言葉に真一は振り返ることはなく、そのまま自室に入っていった。
そして僕は急に走り去った真一に疑問を持ち、真一が佇んでいたその場所を見つめた。
「どうしたのかな、真一……」
「もしかして……」
僕の言葉にまゆおは何かを思い出したのか、不安そうな表情になる。
「何か心当たりがあるの?」
まゆおの顔を見ながら、僕はまゆおにそう問いかけた。
「さっき僕が真一君と喧嘩になった時も、真一君は嫌なことを思い出していたって言っていたんだ。確かその時も事故のことをテレビで取り上げて。もしかしてそのことと何か関係があるのかなって……」
「嫌なこと、か……」
真一も誰かを交通事故で亡くしているのだろうか。だから急にあんな……。
――そういえば僕は真一の過去を何も知らない。
どこでどう過ごしてきたのか、そしてなぜこの施設に来ることになったのか。今までそんな話をする機会もなかったってこともあるけど。
でもどれだけ僕が問いただしたとしても、きっと真一は自分の過去を話してはくれないだろうな……。
これだけ長い時間を一緒に過ごしていても、僕たちは信頼関係を築けていないんだと思うと僕は少し寂しく感じてしまう。
「真一、大丈夫かな。何ともなければいいけど……」
「そう、だね」
何も知らない僕たちは、真一のことをただ心配することしかできなかった。
キリヤから逃げた僕は、急いで自室に戻りヘッドホンで耳を塞いだ。そしてこの世界と僕を遮断するかのように爆音で音楽を流した。
音楽を聴いているうちは、余計なことを考えなくても済む。だから僕は何か嫌なことがあれば、いつもこうやって音楽で世界を遮断してきた。
叔父が亡くなったあの日から、ずっと……。
ヘッドホンから聴こえてくる、歌声に込められた魂の叫び。
『誰の手も借りねえ! 自分の手でこんな運命を捻じ曲げて、前へ進んでやる!』
本当は僕もこのボーカルの人のように思いたかった。
一人でも強く生きていけると、誰に何を言われても自分は自分だと思えるように。
でも実際は、自分の過去がばれた時にキリヤや他のクラスメイトたちからひどい言葉を掛けられるのではないかと不安になっている。
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