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第4章 過去・今・未来

第27話ー⑦ 過去からの来訪者

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 俺たちが廊下を歩いていると、正面から優香がやってきた。

「優香! 無事だったか!! よかった……」

 優香の姿を見た俺はほっと胸を撫でおろす。

「先生は大げさですね。私を誰だと思っているんですか?」

 そう言って微笑む優香。

「ああ、そうだったな!」

 俺もそんな優香に笑顔で返した。

 優香は口では大丈夫だと言っているけれど、ところどころ切れている服を見た俺はどこか怪我をしているのではと少し心配になった。


「怪我とかはないか? 服が、その……少し服が乱れているみたいなんだが……」

「あ、これですか? さっきまで縄で拘束されていましたからね。それと、電気使いの男の子にやられてしまって……。でも怪我はないので、大丈夫ですよ!」

「そうか、優香がそう言うならいいけどな。でもキリヤがすごく心配していたから、あとでちゃんと無事を報告してやるんだぞ?」

「そうですか、キリヤ君が……。ふふっ。わかりました」


 そう言って、嬉しそうに微笑む優香。

「それにしても。全員無事でよかったよ……。襲撃されているなんて聞いたときは、もう本当に焦ったんだよなあ」

 そして俺は急に足の力が抜けて、その場に座り込む。

「先生、一息つくのはまだ早いですよ? ゲートの修理の手配もそうですけど、まずやらなきゃいけないことがありますよね?」
「やらなきゃいけないこと?」

 俺が首をかしげながら言うと、優香はあきれた表情で答える。

「所長への連絡です! 上司への報告は社会人として、忘れちゃいけないことですよ……」
「そうだった!!」

 はっとした俺は、スマホを取り出して所長に連絡を入れた。

「所長、お疲れ様です。今、よろしいですか?」
『ああ。お疲れ様。もしかして施設の襲撃の件かい?』

 所長はなぜそのことを……? あの会議室にはいなかったはずだが。

「え、ええ。ご存じだったんですね」
『ゆめか君から聞いていたんだ』

 白銀さんが? いつの間に……。俺が研究所を出た後に話したのか?


「そう、ですか……えっと、じゃあ状況の報告を」

『よろしく頼む』

「はい。襲撃者たちは全員逃げていきました。そして生徒たちは全員無事だということだけ、取り急ぎ報告いたします。詳しい報告はまた後日、研究所にお伺いした時にお話しします」

『そうか。連絡ありがとう。君も疲れただろう。今夜はゆっくり休んでくれ』


 所長は落ち着いた口調でそう答えた。

 俺は所長のその落ち着きが妙に引っ掛かった。

 何かを隠しているような、そんな感じがしたからだ。

「ありがとう、ございます。あの……白銀さんは今、どうしていますか?」
『彼女は今、キリヤ君と一緒だよ。……ゆめか君がどうかしたのかい?』

 俺の問いにいつもの調子で答える所長。それを聞く限り、隠していることを俺に言うつもりはないらしい。

「……いえ。何でも」
『そうか』

 そして俺は所長との通話を終えた。

「なんだか浮かない顔ですね?」

 まゆおが通話を終えた俺の表情を見て、そう言った。

「あはは。そうかな」

 俺はごまかすようにそう答えた。

 まゆおや他の生徒たちには余計な心配をかけたくなかったからだ。

「ま、まあ気のせいだったら、いいんですけど……」
「ありがとな、まゆお」

 そう言って俺はまゆおに笑って返す。


 でも今回の件で、白銀さんのことがわからなくなった。

 彼女は俺たちの味方なのか、それとも敵なのか……。

 今度、研究所に行ったときに白銀さんとちゃんと話そう。

 このままじゃ、いけない気がするから……。

 それから俺たちは、屋上にいるシロたちの元へと向かった。



 ゆめかさんと別れた僕は、施設に戻る車内で一人悶々と考えていた。

 ゆめかさんはなぜ、僕たちをあのタイミングで研究所に招いたのか。

 そして運命に従うとは……。

 これは誰かの指示だったということなんだろうか。

「はあ。わからないことだらけだな。僕、本当に研究所でやっていけるんだろうか……」

 僕はそんなことを口に出し、茜色に染まる空を眺めていた。

 そんなことを悩んでいるとあっという間に車は施設に到着した。

 僕が施設に着いたとき、空には星が出ていた。

「ずいぶん遅くなっちゃたな……」

 そして僕は破壊されているゲートを見る。

「結構、乱暴な入り方をしたんだな……。もっと違う入り方ってできなかったのかな」

 僕はふいにそんな感想が口から漏れ出た。

「そうだ……優香は大丈夫なのかな。それに他のみんなも」

 そして僕は、みんながいるであろう食堂へ向かった。



 食堂。いつも通り生徒たちはにぎやかに食事を摂っていた。

 そして走って食堂に駆け込むキリヤ。

「みんな、無事!?」

 そんなキリヤに食堂にいた全員が視線を向けた。

「お、おかえりキリヤ!」

 俺はいつもの調子でキリヤに声を掛ける。

 するとキリヤは落ち着いたのか、

「はあ」と大きな息を漏らしていた。

「おかえりなさい、キリヤ君。みんなは無事だよ」

 そんなキリヤの元にいき、笑顔で答える優香。

「よかった。もう本当に心配したんだよ……。優香や他のみんなに何かあったらって……ごめんね、僕。何にもできなくて」

 キリヤは俯きながらそう言った。

「何もできなかったなんて、そんなことはないですよね? キリヤ君の能力でここの状況を覗き見たのでしょう? だから先生が飛んで来られた。キリヤ君の力がなければ、私達は今頃どうなっていたか」

 優香の言葉に顔を上げるキリヤ。

「優香……」
「だから何もできなかったなんて思わないでください。本当にありがとう、キリヤ君」

 そう言って、微笑む優香。

「ありがとう、優香……」

 そう言いながら、涙目になるキリヤ。

 それを見た俺は優香とキリヤは本当に良いコンビだなと思った。

 この二人が一緒なら、能力に苦しむ子供たちを救ってくれるだろう。

 そう思いながら、二人を見つめた。

「キリヤ、お腹空いてない? こっちに来て、一緒に食べよう!」

 そう言いながら、キリヤの手を引くマリア。

 照れながらもマリアに手を引かれるキリヤ。

 俺たちはいつも通りの楽しい時間を過ごしたのだった。
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