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第3章 毒リンゴとお姫様

第21話ー⑧ 眠り姫を起こすのは王子様のキス

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 まゆおは自分に技の完成に足りないものは何なのかを考えながら、素振りをしていた。

「一体何が足りないんだ。早くしないと、いろはちゃんが」

 技が完成したとして、本当に僕はいろはちゃんを救えるのだろうか……

 そんな不安が頭をよぎった。

「もしうまくいかなくて、失敗したら……」

 いろはちゃんはもう目覚めないかもしれない。

 技が外れて、いろはちゃんの身体を傷つけるかもしれない……

「また僕は、大切な人を不幸にするのかな……」

 そして素振りをしていたまゆおの手が自然に止まっていた。

 僕なんかが誰かを救うなんて……

「でも僕はいろはちゃんを救いたいんだ。ずっとずっと一緒に、いたい!」

 うまくいくのか、正直自信はない。でも大切な人を救いたいという気持ちはある。

「もしかして、僕の足りないものって……」

 それはとても簡単な答えだった。足りない何かの正体は『自信』。

 僕は僕を信じられなかった。

 いろはちゃんを救いたいって気持ちから頑張ることはできても、実際に行動する為には自分を信じないと動くことはできない。

「今は自分の剣技を信じるしかない。そして必ず、僕はいろはちゃんを救うんだ!!」

 そしてまゆおは再び、素振りを始める。



 それから次の週末がやってきた。

 僕は再び、研究所へ向かうことにした。僕の覚悟を所長に伝えるために。

「それで? 話とはなんだい?」

 所長は真面目な顔で僕にそう告げる。

 そして僕はそんな所長の目を見て、自分の思いを告げる。


「……僕は僕の仲間たちを信じます。まゆおもいろはも仲間を信じていました。だから僕もそんな仲間を信じて、今回の作戦を実行します!!」

「ほう……」

「どんな未来があるかなんて、やってみなくちゃわかりません。だったら、少しでも可能性のある方を僕は信じたい。僕はその思いを伝えるために今日ここへ来ました」


 それを聞いた所長はふっと笑いながら、僕に告げる。

「そうか。どうやら君の覚悟は決まったようだね。じゃあやってみなさい。私も君たちを信じよう」
「ありがとうございます!!」

 そして僕はいろはたちの待つ施設へ戻った。



 俺はいつもと同じように食堂で食事をしていた。

「お! センセー、今日はぼっちなの? 一緒に食べようか?」
「ぼっちって……まあそうなんだけどさ。いいぞ、一緒に食べよう」
「やった!」

 そうしていろはは俺の正面に座る。

「そういういろはもぼっちじゃないか? まゆおは一緒じゃないんだな」
「そうだね。なんだか最近のまゆおは忙しそうだからさ。邪魔したくないんだ。本当は一緒にご飯を食べたいけど、今は我慢!」

 そういっていろはは笑っていた。

「そうか……」

 俺も同じことをキリヤに思っていた。

 だからなんとなくいろはの気持ちに共感できる。

 そう、今は我慢だ。全てが終わったら、きっといつもの日常が戻ってくると俺はそう信じているから。

 そして俺はいろはと食事を楽しんでいるところにまゆおがやってきた。

「お! まゆお!! 調子はどうだ?」
「僕はいつも通りですよ」
「そうか。それなら、良かった」
「いろはちゃんの調子はどう?」

 いきなりの問いに驚くいろは。

「え!? アタシ!? いつも通りだけど……」
「そう。なら、よかった……」

 いろはの言葉を聞き、ほっと胸を撫でおろすまゆお。

 その様子を見て、俺はまゆおに疑問を抱く。

 もしかして、まゆおは何か知っているのか? 『ポイズン・アップル』のことを誰かから聞いていて、それで……。

「まさか、な」
「何がまさかなの?」

 俺の独り言にいろはが反応する。

「いや、何でもないよ」
「?? そう?」

 そしてまゆおはいろはの隣に座り、食事をはじめた。

 先ほどまで少し元気のなかったいろはだったが、今はとても楽しそうに笑っていた。その様子を見た俺は、この二人は本当に仲良しなんだと改めて感じて笑顔になった。

 このまま俺がここにいるのは、ちょっとお邪魔かな。

 そう思い、俺は食堂から出ることにした。

「じゃあ。二人でごゆっくりな!」
「は!?」

 いろはは頬を赤く染めて驚いているようだった。

 そんな姿を横目に俺は食堂を出て行った。



 ――さあ私の可愛いお姫さま。お眠の時間よ。

 その声が頭の中で響くと、急にアタシの胸に激痛が走った。

「何、これ……」

 アタシがその場にうずくまると、まゆおがアタシに駆け寄るのが見えた。

 とても不安そうな顔でアタシの身体を揺するまゆおの姿が見えると、そのままアタシの意識は途切れた。
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