上 下
67 / 501
第2章 変動

第13話ー⑥ それぞれが抱えるもの

しおりを挟む
 先に建物内に戻っていた僕は、医務室でレクリエーションの時にケガをした優香の処置をしていた。

「結構、やられたね……大丈夫?」
「は、はい。ご心配をおかけして、すみません……」

 申し訳なさそうな顔をする優香。

 そんな優香の顔を見て、僕は問う。

「どうしてこうなったの?」

 しかし優香は答えたくなさそうな表情だ。

「まあ言いたくないならいいけどさ。喧嘩とかじゃないんだよね?」
「……はい。ただ私が烏丸君の技をよけられなかっただけです。狂司君には何の非もありません。私のせいでこうなっただけですから」
「そっか。喧嘩じゃないなら、いいさ」

 そして優香は黙り込む。

「この辺かな……」

 僕は優香の傷の一つに手を当てる。

「……傷口も浅いし、これならすぐにふさがりそうだね」

 キリヤの手が触れると、優香の身体にあった傷は少しずつ塞がっていった。

「傷が……」

 それをみた優香はとても驚いているようだった。

「ふふ。これを使うのは優香が初めてなんだ。みんなにはまだ内緒だよ」
「は、はあ。でも、なぜなんですか?」

 疑問に思った優香はキリヤにそう問いかけた。

「なぜ、か……。うーん」

 キリヤは優香のその問いに少し考える。

 すると、そんなキリヤの様子を見た優香は慌てながら言った。

「い、いえ! あの言いたくなのなら、答えなくても大丈夫です!! すみません。余計なことを聞いてしまって……」

 そしてしゅんとする優香。

「あ、ごめん! あの、ただ理由がなくて答えるのに困っただけなんだ。別に言いたくなかったわけじゃないよ」
「そうでしたか。それなら、よかったです……」

 優香はキリヤのその言葉を聞き、安堵しているようだった。

 でも僕もなぜ能力のことを隠すんだろう……。別に話しちゃダメなことなんてないんだけどな。

 キリヤはそんなことをふと考えていた。

 たぶんだけど、まだ僕自身が不確定なこの能力のことを口外したくなかっただけなのかもしれない。

 僕はいつかこの力と向き合い、理解しあえた時に、先生やマリア、他のみんなに話せるといいって思う。

 でもそうなると、それまで優香にはちょっと気を遣わせてしまうことになるな……。

 そんなことを思っていると、僕はさっきの優香の態度が気になった。

 そういえば優香はさっき、なんであんな慌てて謝っていたんだろう。そんなに僕は怖い顔をしていたのだろうか……。

 僕はそんな疑問を抱きつつ、優香の手当を続けた。

 その後、手当を終えた僕たちは教室に戻った。

 僕は席につき、先ほど処置をした優香の傷口の回復具合を思い出して、新たな自分の力に手ごたえを感じていた。

「うん。あれくらいの精度なら使えそうかもね」

 そして僕は研究所でしていた所長との会話を思い出す。



「それから、もう一つ。君に言っておきたいことがある……」

 急に深刻な顔をする所長。

「どうしたんですか、そんな深刻な顔をして……。もしかして僕の身体に何かあったんですか!?」
「そうだね……。実はな、君にも複合能力が現れたみたいなんだ」
「複合能力……?」

 初めて聞くワードに僕は首をひねった。

「ああ。暁君も無効化の他に獣人化ビーストの能力があるだろう? それと同じで君にももう一つの能力が目覚めたってことさ」
「そうでしたか……」
「キリヤ君、あのな……」
「そんなことくらいで、深刻な顔しないでくださいよ! びっくりしたじゃないですか!」

 笑いながら、そう言って所長に返した。

 そして僕の態度に呆気に取られている様子の所長。

 たぶん所長は僕をフォローしようとして、慌てながら何かを言おうとしていたんだろう。

「落ち込まないのかい……?」
「え? まあ驚きはましたけど、落ち込む理由なんてなくないですか? それに能力が永遠になくならない事実を聞かされたあとなので、それ以上の驚きはないですね」

 僕は人差し指を立てながら、自慢げにそう答えた。

「そ、そうか。そうなら、よかったよ!」

 所長は僕のその言葉を聞き、安堵しているようだった。

「あの、それで。僕の複合能力って?」
「ああ、それなんだが……」



 あの時、所長が妙に深刻な顔をするから、僕は何事かと思ったけれど、でも話を聞いてみたら、実際は大したことじゃなかったんだ。

 僕はてっきり、『君の氷が君自身を蝕んできている!』とか『暴走したことで、命が半分以下になった……』とかそういう類のことかと思っていたんだけどね。

 ちなみに所長から聞いた僕の複合能力は、『植物』というものだった。

 植物の力を借りて、いろんなことができるのだとか。いろんなって言葉で括られたけど、所長自身も何ができるかはわかっていないらしい。

 僕自身もこの能力で何ができるのかはまだわからないけれど、できることの可能性はだいぶ広がったんじゃないかと思う。

 これからいろんなことを試して、この能力のことを理解していこう。

 きっとこの力は多くの人を救えるものになるはずだから……。

 そして僕は今日もいつものように学習ノルマを始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...