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第2章 変動

第11話ー③ 旅立ち

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 数日前のこと。僕はもうすぐ卒業する奏多に何かできないかと考えていた。

「何か贈り物をするとか? でも奏多って何がほしいのか全然わからないな……」

 僕は奏多のこと、何にも知らないんだな……。

 そんなことを思いつつ、僕は落胆のため息をついた。

 そしてこういう時こそ、奏多のことをよく知っている先生に相談したらいいのではと思い、僕は職員室へ向かった。

 奏多は僕からの贈り物を喜んでくれるだろうか。

 そんなことを考えながら、僕は廊下を歩いていた。

「そうだ! どうせなら、先生と二人で奏多に何か……ん?」

 職員室の前についた僕は、先生が誰かと一緒にいることに気づいた。

「奏多、か……」

 さすがに本人がいるところで何がほしいか相談するわけにはいかないな。

 そして僕は職員室を後にしようとしたとき、ある現場を目撃する。

「え……」

 それは、奏多が先生の背中にそっと手を回し、優しく抱きしめているところだった。そして先生もそんな奏多を受け入れていた。

 抱き合う二人を見て、キリヤは察した。

 ――僕の恋はここまでなんだと。

 そして僕はその場でしゃがみこみ、少しの喪失感を味わう。

「わかっていたけど、でもやっぱり辛いや」

 目頭が熱くなり、目に涙が浮かぶ。

 こぼれそうになる涙を堪えて、僕は静かにその場を去った。



 自室に戻った僕はそのままベッドに腰かけ、堪えていた涙をこぼす。

 こんな姿、誰にも見せられないよね……。

 僕は人生で初めての失恋をして、一人で涙を流していた。

 「奏多の想いはわかっているつもりだったんだけどな……」

 それから僕はしばらくの間、その涙を流し続け、やっと気持ちの整理ができた時に涙を拭った。

 僕も変わらないとね……。いつまでも同じところにはいられない!

 そして僕は次に進むため、ある行動を移すことにした。



 翌日、授業を終えた僕は奏多を屋上に呼び出した。

「キリヤ、どうしたんですか?」

 呼び出された意味が分からない奏多は、僕のことを心配しているようだった。

「もしかして、また先生と喧嘩を!?」
「ううん。違うよ。ただ、けじめをつけに来ただけ」
「……けじめ?」
「そう」

 そして僕は脈打つ心臓の鼓動を整えるために軽く息を吐いてから、ゆっくりと奏多に告げた。

「僕は奏多が好き。ずっとずっと好きだった」

 それを聞いた奏多は、少々困った表情をする。

 それはそうだよね。だって、奏多は僕のことなんて……。

 僕はそんなことを思いつつ、奏多の答えを待った。

 そして僕のその言葉をしっかりと受け止めた奏多は、僕に優しく答えた。

「ありがとう、キリヤ。私もキリヤのこと、好きですよ。……大切な家族として。そして仲間として。だから……」
「ありがとう。僕も、今は奏多のことを大切な仲間で家族だって思っているよ」

 そう言いながら、僕は精一杯の笑顔で返した。

「ごめんなさい」

 それを見た奏多は申し訳なさそうにそう言った。

「謝らないでよ! それにこれでスッキリした! 僕もやっと前に進めるよ!」

 僕は屋上の鉄格子に手を掛けて、空を見上げながら、奏多に言う。

「これからどんな未来が待っているか、楽しみだね。きっとたくさんの出会いと別れがあるんだろうな」

 そう言ったキリヤの背中を優しく見つめる奏多。

「……そうですね。私もこれからが楽しみです! ……キリヤ。私がいない間、先生のことを頼みましたよ」
「他の女の人が寄ってこないように?」

 僕は奏多の方に振り返りながら、そう言った。

「それもそうですが、メンタル面とかもですね! 先生はああみえて弱い部分がありますから。先生はキリヤのことをかなり信用しているようですので、このお願いはキリヤにしか頼めないなと思いまして」
「たった今振った相手に、恋人のこと頼むなんてね!」

 僕が意地悪そうに言うと、奏多はさらに悪い顔をしながら言った。

「私はそういう女ですもの。それにそんなキリヤだから、安心して頼めるのですよ」
「これはちゃんとしないと、あとから何をされるかわかったもんじゃないね!」

 そして僕たちは笑いあった。

 お互いに思う人は同じ。だから僕は奏多の頼みを引き受けることにした。

 それから僕は昨日の職員室での出来事を盗み見てしまったことを奏多に謝罪した。

 奏多は恥ずかしそうに頬を赤らめていたが、とても幸せそうに笑っていた。

 そんな奏多の姿を見ていたら、先生と奏多には二人で幸せになってほしいと僕は願うしかないとそう思ったんだ。

「奏多、頑張ってね」
「ええ。ありがとう、キリヤ!」

 ――そして僕の初恋は、終わりを告げたのだった。
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