白雪姫症候群－スノーホワイト・シンドロームー

第2章 変動

第9.5話ー② 聖夜のお祝い

　パーティーが開始して、１時間ほど経った頃、俺たちは行動に移す。

「よし！　じゃあせっかくのクリスマスだ！　今日もレクリエーションをするぞ！」

　俺は生徒たちに、向けてそう告げた。

「おお！　クリスマスレク、いいな！」
「やろう、やろう！　まゆおもいいよね？」
「う、うん」

　クリスマスマジックという事もあり、生徒たちはいつも以上にやる気を出していた。

「じゃあ、今日のレクリエーションは……『真冬の伝言ゲーム』だ！」
「「真冬の……伝言ゲーム？」」

　俺の言葉を聞いて、ぽかんとする生徒たち。

「先生、『真冬の』はつけなくてもいいっていったでしょ……。別に意味なんてないんだから」

　キリヤは額に手を当てながら、あきれていた。

「だって、その方がかっこいいかなと思ったんだよ……」
「あー、はいはい。じゃあルールを説明するよ！」

　キリヤは俺を放置して、ルールの説明を開始した。

　最近のキリヤは俺のことをどう思っているのだろう。このままでは教師としての威厳が損なわれつつあると、俺は危惧した。

「ルールは簡単で、通常の伝言ゲームと同様。このボックスにあるお題を同じチームの人に伝えていき、お題通りの言葉が言えたチームが勝利」

　キリヤの説明に全員が頷き、理解しているようだった。

「じゃあチーム分けをしよう！」

　そして俺たちはじゃんけんという、手のひらで３種類の形を作り勝敗を決める方法でチーム分けをした。

　勝チーム　剛、キリヤ、マリア、まゆお
　負チーム　奏多、真一、結衣、いろは

　そして俺は人数的な問題もあるため、判定員として、ゲームには参加しないことになっている。

「始めるぞ！　まずは伝える順番を決めてくれ」

　それぞれのチームが伝言する順番に並び、着席する。

　そして伝言ゲームは幕を開けた。

　伝言ゲームなんて小学生や中学生がするようなレクリエーションなのだが、それでも生徒たちはとても楽しそうだった。

　俺たちは楽しむ生徒たちの姿を遠くから見守りながら、

　――このままがずっと続けばいいのにな。

　俺はそんなことを思った。

「今回も僕たちの勝ち、だね。」

　真一は無表情で剛たちにそう告げた。

「くっそう！　なぜだ……なぜ勝てないんだ！！」

　剛は悔しそうに、床を両手でたたいていた。

「はあ。剛がヘタクソなんだよ……。なんであんなに簡単なお題を覚えられないわけ？　その頭は筋肉しか詰まっていないの？」

　キリヤは呆れて、額に手を当てながら、そう剛に告げていた。

「誰が脳筋だ！　俺だって、やるときゃやるんだよ！！」
「じゃあ、次はしっかりね」

　キリヤは不安そうな顔をしつつ、俺に目配せをした。

　俺は頷いてキリヤに応える。

　そう、これが作戦開始の合図だ。

　ここからが、このレクリエーションの本番……。

　マリアの誕生日企画の始動だ！！

「よし、じゃあこれが最後の勝負だ！　いいか、これ勝ったチームは……一万ポイントを贈与する！　みんな頑張れよー！」
「はいー！？　じゃあ今までのアタシたちの頑張りって……」

　いろはは少々不満そうなことを言っていたが、まあそれは置いておいて。

　ついに最後の勝負の幕が上がる。

　ちなみに今回の誕生日サプライズは数人の協力を得て行うことになる。

　勝チームのマリア以外の３人は今回の企画の真実を知っており、作戦開始を前に緊張しているようだった。

　俺はそれぞれのチームにお題の紙を渡す。

「まゆお、必ず成功させような！　そうしたら、きっとマリアは喜んでくれる。マリアが喜ぶ顔を見たいだろう？」

　そう言って、ガチガチになるまゆおに微笑む剛。

　そんな剛の表情に、まゆおの緊張は和らいだようだった。

「うん。僕も、見たい。桑島さんやみんなの笑顔」

　そして最後の伝言ゲームが始まったと同時に、俺は食堂の奥へと消える。



　先生と陰ながら準備してきた今日という日。

　僕はマリアの笑顔のために、この企画を必ず成功させたいと思っていた。

　最後の勝負が始まって、先生が立ち上がる姿が見える。

　ここから先生の合図があるまで、うまくタイムキープをしないと……。

　僕はそんなことを思いつつ、まゆおからの伝言を待った。

　まゆおは先生からの合図が来たとき、僕に伝言をしているフリをしてもらうことになっていた。

　そして食堂の奥から先生の合図があると、まゆおは僕の耳元でそっと伝える。

「準備、できたみたい」

　僕はまゆおに頷き、そしてマリアの耳元で囁くように伝える。

「暗くなるけど、怖がらないで」

　僕がそう言うと、食堂の明かりが急に消える。

「何……！？」

　突然のことに驚くマリア。

　そして食堂の奥で、温かい光が灯る。

「え……？」

　先生が蝋燭の灯ったケーキを手に、マリアの方へ歩いてくる。

　そして先生はマリアの前に立ち、

「誕生日おめでとう、マリア」

　そう言って、ケーキをマリアの前に差し出した。

　それを見たマリアは目を輝かせた後、喜びの涙で目を潤ませながら、笑っていた。

「ありがとう……」

　マリアはそう言いながら、服の袖で涙をぬぐう。

　そして食堂の明かりがつき、クラスメイトたちはマリアへのプレゼントとお祝いメッセージをそれぞれ贈った。



　俺は食堂で楽しそうに笑う生徒たちを見ながら、幸せな気持ちに満たされていた。

「先生、幸せそうだね」

　キリヤはそう言いながら、俺の隣にやってきた。

「ああ。みんなの幸せが俺の幸せだからな。……今年のクリスマスは、俺にとって大切に日になったよ」
「うん。僕もさ」
「キリヤが、クリスマスはマリアの誕生日だって教えてくれたおかげだな。ありがとう」
「ううん。僕の方こそ、ありがとう。僕だけじゃ、きっとこうやってみんなを笑顔にすることなんてできなかったかもしれない。それにマリアも。あんなに幸せそうなマリアは久しぶりに見たよ。だから先生には感謝してる」

　そう言って、キリヤはマリアを見ながら微笑んでいた。

　俺はキリヤのその笑顔からとても幸せな気持ちを感じたのだった。

「キリヤも幸せそうで、俺も嬉しいよ」

　そして俺は楽しそうな生徒たちの顔を見て、こんな日々がずっと続くことを願いながら、聖なる夜を過ごしたのだった。