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夏は過ぎていく。彼女もいなくて寂しく過ぎていく。来年は大学受験があるし、彼女を作るのは今年の夏だと思っていた。それで2学期の終わりに好きな子に告白をした。結果、簡単に振られた。そして第2候補の人に告白した。振られた。第3候補の人にも振られた。まさか、と思った。それなりに自信があったのだ。
「木下(きのした)くんの顔は好き。でも遊んでそうだからちょっと怖い」
と言われた。身長145センチの小柄な美少女、同級生のマリちゃん。俺はまったく遊んでないんだぜ。夏に君と遊ぶために、最近ずっとバイトを頑張っていたんだ。建設現場で汗水流して働いて、それで真っ黒に日焼けをしている。
「先輩はちょっと背が高すぎるから……。私、150センチないので……」
と言われた。一年生のミナミちゃん。そうだね、俺は178センチあるよ。君は小さくて可愛いらしい。
「お前、性的なアレをしたいだけだろ? そうはさせるか!」
と笑って言われた。そして腹にキツめのパンチをもらった。3年生のサキちゃん先輩。その小さな体に秘めたダイナミズムがあなたの美しさです。そうですね、俺は性的なアレがしたいだけなのかもしれない。いやいや、違うよ!
ただただ恋人が欲しかった。愛する人が欲しかったのだ。性欲は否定しない。高校2年生の男子が、下心無しで女子に告白などするものか。だけどそれだけじゃないんだ。青春は一度切りじゃないか。
「そう思うだろ?」
俺は友人の高橋慎吾(たかはししんご)の肩に手をかけて言った。
「俺は性的なアレなんてしたくない」
慎吾が真面目な顔をして言った。
「なんだって?」
「セックスなんてしたくない」
「……嘘だと言ってくれ」
「性欲を満たす為に女性と付き合うのは失礼だろ」
慎吾が真面目な顔をして言う。
「男子の恋心は性欲と不可分ではないか? お前は人間の欲望を否定するのか?」
「欲望は否定しない。ただし我々は、例えば性欲に人生のすべてをかけてはいけない」
「人生をかけてもいいじゃないか。当たって砕けろ、だろ? 俺は3人に告白して全員に振られた。後悔はしていない」
後悔はしていないが絶望している。
「お前はただ、そこら辺にある綺麗な花を摘もうとしただけだろ。身近にいる可愛い子に告白しただけじゃないか」
慎吾が呟いて言った。
「可愛い子に告白するのは当たり前だろ。それじゃあ誰に告白すればいいんだよ」
「真に愛する人に告白をすればいい。俺はそうした」
慎吾が深くため息をついて言った。えええ、まさか。
「美咲(みさき)ちゃんに告白したの? 慎吾?」
驚いた。美咲ちゃんは慎吾の幼なじみだ。幼稚園時代からのあこがれの人だが、ずっと告白できなかったのだ。
「結果から言うとフラれた。『慎吾君は私にとって家族と同じだから、恋愛は出来ない』と言われた」
慎吾が何もないテーブルの上をじっと見つめている。
俺達は駅前のマクドナルドの、二階席の隅っこに座っている。俺達の他にはベビーカーの赤ちゃんを連れたお母さんと、若いサラリーマンが一人だけ。店内はガランとしている。
「それで?」
俺は慎吾に訊いた。
「俺は声を上げて泣いてしまった。美咲ちゃんの部屋で泣いた。美咲ちゃんは黙って俺の頭をなでてくれた」
慎吾が淡々として言う。それはだいぶ凄いシチュエーションだな。
「幼なじみって大変だな……」
俺は慎吾の肩に手をかけて言った。心から同情をする。俺達はフラれた同士だ。
「毎年……バレンタインのチョコレートを貰ってたんだよ」
慎吾が頭を下げて低い声で言った。
「幼なじみだもんな……」
「幼なじみだとしても、高校生にもなったら好きな人にしかチョコはあげないだろ? そう思うだろ? 拓也(タクヤ)!」
慎吾が俺の胸ぐらを掴んで迫ってくる。厄介な奴だ。だけど気持ちは分かる。分かるぞ。
「女の子はさ、お父さんにもチョコをあげるじゃん? お前のチョコはそれと同じだったんだよ。家族同然だからチョコをあげようっていう美咲ちゃんの優しい気持ちだ。それは分かるよな?」
俺は慎吾の目を見詰めて言った。慎吾も俺の目をじっと見ている。ちょっとお互いにキモい。
「美咲ちゃんはマジで素敵な人なんだよ!」
慎吾が嗚咽を漏らして言った。コイツ、本当に泣いてやがる。
「素敵だよな、コケティッシュだよなあ」
俺は同情して言った。
「コケティッシュって何?」
「俺も知らなかった。ちょっと調べてみる」
俺はスマホを出して検索をしてみた。コケティッシュ。
「コケティッシュ。セクシーに近い、小悪魔的に艶めかしい。という事だそうだ」
俺は言った。
「そう。その通りだ。美咲ちゃんはコケティッシュだよ……」
慎吾が泣きに泣いた。夕暮れ時のマクドナルドの店内で、振られた高校生男子が2人、涙目になって肩を寄せ合っている。これほど悲劇的な情景が他にあるだろうか?
「木下(きのした)くんの顔は好き。でも遊んでそうだからちょっと怖い」
と言われた。身長145センチの小柄な美少女、同級生のマリちゃん。俺はまったく遊んでないんだぜ。夏に君と遊ぶために、最近ずっとバイトを頑張っていたんだ。建設現場で汗水流して働いて、それで真っ黒に日焼けをしている。
「先輩はちょっと背が高すぎるから……。私、150センチないので……」
と言われた。一年生のミナミちゃん。そうだね、俺は178センチあるよ。君は小さくて可愛いらしい。
「お前、性的なアレをしたいだけだろ? そうはさせるか!」
と笑って言われた。そして腹にキツめのパンチをもらった。3年生のサキちゃん先輩。その小さな体に秘めたダイナミズムがあなたの美しさです。そうですね、俺は性的なアレがしたいだけなのかもしれない。いやいや、違うよ!
ただただ恋人が欲しかった。愛する人が欲しかったのだ。性欲は否定しない。高校2年生の男子が、下心無しで女子に告白などするものか。だけどそれだけじゃないんだ。青春は一度切りじゃないか。
「そう思うだろ?」
俺は友人の高橋慎吾(たかはししんご)の肩に手をかけて言った。
「俺は性的なアレなんてしたくない」
慎吾が真面目な顔をして言った。
「なんだって?」
「セックスなんてしたくない」
「……嘘だと言ってくれ」
「性欲を満たす為に女性と付き合うのは失礼だろ」
慎吾が真面目な顔をして言う。
「男子の恋心は性欲と不可分ではないか? お前は人間の欲望を否定するのか?」
「欲望は否定しない。ただし我々は、例えば性欲に人生のすべてをかけてはいけない」
「人生をかけてもいいじゃないか。当たって砕けろ、だろ? 俺は3人に告白して全員に振られた。後悔はしていない」
後悔はしていないが絶望している。
「お前はただ、そこら辺にある綺麗な花を摘もうとしただけだろ。身近にいる可愛い子に告白しただけじゃないか」
慎吾が呟いて言った。
「可愛い子に告白するのは当たり前だろ。それじゃあ誰に告白すればいいんだよ」
「真に愛する人に告白をすればいい。俺はそうした」
慎吾が深くため息をついて言った。えええ、まさか。
「美咲(みさき)ちゃんに告白したの? 慎吾?」
驚いた。美咲ちゃんは慎吾の幼なじみだ。幼稚園時代からのあこがれの人だが、ずっと告白できなかったのだ。
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慎吾が何もないテーブルの上をじっと見つめている。
俺達は駅前のマクドナルドの、二階席の隅っこに座っている。俺達の他にはベビーカーの赤ちゃんを連れたお母さんと、若いサラリーマンが一人だけ。店内はガランとしている。
「それで?」
俺は慎吾に訊いた。
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慎吾が淡々として言う。それはだいぶ凄いシチュエーションだな。
「幼なじみって大変だな……」
俺は慎吾の肩に手をかけて言った。心から同情をする。俺達はフラれた同士だ。
「毎年……バレンタインのチョコレートを貰ってたんだよ」
慎吾が頭を下げて低い声で言った。
「幼なじみだもんな……」
「幼なじみだとしても、高校生にもなったら好きな人にしかチョコはあげないだろ? そう思うだろ? 拓也(タクヤ)!」
慎吾が俺の胸ぐらを掴んで迫ってくる。厄介な奴だ。だけど気持ちは分かる。分かるぞ。
「女の子はさ、お父さんにもチョコをあげるじゃん? お前のチョコはそれと同じだったんだよ。家族同然だからチョコをあげようっていう美咲ちゃんの優しい気持ちだ。それは分かるよな?」
俺は慎吾の目を見詰めて言った。慎吾も俺の目をじっと見ている。ちょっとお互いにキモい。
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慎吾が嗚咽を漏らして言った。コイツ、本当に泣いてやがる。
「素敵だよな、コケティッシュだよなあ」
俺は同情して言った。
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「コケティッシュ。セクシーに近い、小悪魔的に艶めかしい。という事だそうだ」
俺は言った。
「そう。その通りだ。美咲ちゃんはコケティッシュだよ……」
慎吾が泣きに泣いた。夕暮れ時のマクドナルドの店内で、振られた高校生男子が2人、涙目になって肩を寄せ合っている。これほど悲劇的な情景が他にあるだろうか?
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