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新たな生命
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しかし、ジルヴァーノの顔は穏やかなままだった。
「大丈夫です。とっくに話は終わって、母がピアを連れて帰りましたから」
「そうだったのですね。良かった……ピア様は大丈夫でしたか?随分と落ち込んでいらしたようでしたが」
「仕方ありません。もう大人になったというのに、引き際を誤ったピアが悪かったのです」
分かってはいるけれど、傷ついたであろうピアの事を考えると、アリアンナの胸が痛む。
彼女の心情を悟ったジルヴァーノは、彼女の頬に手を置いた。そして優しく頬を撫でる。
「あなたが心を痛める必要はありません。これはピア自身の問題なのですから。彼女は決して心から竜たちと仲良くなりたいと思っていた訳ではなかったのです。それが竜たちにもわかっていたのでしょう」
ジルヴァーノの言葉に、アリアンナは何も言えなくなってしまう。なんとなくわかっていたのだ。ピアがロワと仲良くなりたいと思っている理由を、銀の竜はわかっているのだろうと。だからと言ってそれを責める筋合いはない。それだけピアは、ジルヴァーノの事が好きだったのだと言えるのだから。
『ピア様の正直さが羨ましいと思ってしまう』
自分の想いに少し前まで確信が持てず、宙ぶらりんになっていたアリアンナからすれば、ピアの真っ直ぐな気持ちは羨ましく思えた。そんな事を思っているとは知らないジルヴァーノが、彼女を気遣うように言葉を紡ぐ。
「ピアももう休暇が終わります。学園に戻っていつも通りの生活をするようになれば、すぐに忘れるでしょう」
「……そうなるといいですね」
本当になるといい。学園で楽しい事をたくさん見つけられるといい。そう思うアリアンナだったが、果たしてそれはピア自身を思っての事なのか自分の願望なのか……
そんなアリアンナの頬を撫で続けていたジルヴァーノの手が、不意に止まる。
「アリアンナ様、そんな顔をなさらないでください。あなたが彼女の事で悩む必要はありません」
そう言った彼の手は彼女の頬から離れ、スッと髪の間を滑るように首元を滑りながら肩へ移動した。
そのまま互いに見つめ合う。そして、まるでそうなる事が当然のように、二人の距離が近付いた。ドキドキと鳴り響く鼓動を感じながら、戸惑いつつも受け入れる姿勢を見せるアリアンナ。あと少しで二人の影が重なろうとしたその時。二人の間にぬぼっと銀の竜の鼻先が入り込んできた。そのままフンと鼻息を出す銀の竜。
「……ふ、ふふふ」
「……あははは」
可笑しくなった二人は、暫く笑っていた。
休暇が終わり、再び社交界が賑やかになる。ピアも学園に戻った事で、竜舎には平和が戻って来た。アリアンナも竜舎は勿論、お茶会やら夜会やらと忙しくしていた。気付けば春の訪れを感じる季節になっていた。
「!」
王太子の執務室で仕事を手伝っていたアリアンナは何かを感じ、窓辺に立ち周囲を見渡した。
「どうした?」
「なんだろう、何かに呼ばれたような……そうでないような」
「どっちなんだい?」
王太子が突っ込む。ドマニも不思議そうにアリアンナを見るが、彼女自身も上手く説明が出来なくて首を傾げてしまう。
しばらくすると、何やら部屋の前が騒がしくなった。
「なんでしょう?」
ドマニが確認しようとドアに近づくと、タイミングよくノックの音が響いた。
「はい?」
ドマニが扉を開けると、そこに立っていたのはジルヴァーノだった。
「竜舎から走って来たのですか?」
ゼイゼイしているジルヴァーノをドマニが中に通した。アリアンナが慌ててお茶の準備をする。
「どうした?おまえが慌てるなんて珍しいな」
王太子が言うと、ジルヴァーノは汗を光らせながら答えた。
「すぐに、知らせなくてはと、思い、まして」
息が続かないジルヴァーノに、アリアンナがお茶を渡す。竜舎から執務室までは結構な距離があるにも拘らず、一気に走って来たのだろう。温めに淹れたお茶を一気に飲んだジルヴァーノが、大きく息を吐き出した。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。ですが、すぐにでもお知らせしたかったので」
「わかったから落ち着け。それで?一体どうした?」
大きく呼吸をしたジルヴァーノが、真っ直ぐに王太子を見た。
「ロワが卵を産みました」
「大丈夫です。とっくに話は終わって、母がピアを連れて帰りましたから」
「そうだったのですね。良かった……ピア様は大丈夫でしたか?随分と落ち込んでいらしたようでしたが」
「仕方ありません。もう大人になったというのに、引き際を誤ったピアが悪かったのです」
分かってはいるけれど、傷ついたであろうピアの事を考えると、アリアンナの胸が痛む。
彼女の心情を悟ったジルヴァーノは、彼女の頬に手を置いた。そして優しく頬を撫でる。
「あなたが心を痛める必要はありません。これはピア自身の問題なのですから。彼女は決して心から竜たちと仲良くなりたいと思っていた訳ではなかったのです。それが竜たちにもわかっていたのでしょう」
ジルヴァーノの言葉に、アリアンナは何も言えなくなってしまう。なんとなくわかっていたのだ。ピアがロワと仲良くなりたいと思っている理由を、銀の竜はわかっているのだろうと。だからと言ってそれを責める筋合いはない。それだけピアは、ジルヴァーノの事が好きだったのだと言えるのだから。
『ピア様の正直さが羨ましいと思ってしまう』
自分の想いに少し前まで確信が持てず、宙ぶらりんになっていたアリアンナからすれば、ピアの真っ直ぐな気持ちは羨ましく思えた。そんな事を思っているとは知らないジルヴァーノが、彼女を気遣うように言葉を紡ぐ。
「ピアももう休暇が終わります。学園に戻っていつも通りの生活をするようになれば、すぐに忘れるでしょう」
「……そうなるといいですね」
本当になるといい。学園で楽しい事をたくさん見つけられるといい。そう思うアリアンナだったが、果たしてそれはピア自身を思っての事なのか自分の願望なのか……
そんなアリアンナの頬を撫で続けていたジルヴァーノの手が、不意に止まる。
「アリアンナ様、そんな顔をなさらないでください。あなたが彼女の事で悩む必要はありません」
そう言った彼の手は彼女の頬から離れ、スッと髪の間を滑るように首元を滑りながら肩へ移動した。
そのまま互いに見つめ合う。そして、まるでそうなる事が当然のように、二人の距離が近付いた。ドキドキと鳴り響く鼓動を感じながら、戸惑いつつも受け入れる姿勢を見せるアリアンナ。あと少しで二人の影が重なろうとしたその時。二人の間にぬぼっと銀の竜の鼻先が入り込んできた。そのままフンと鼻息を出す銀の竜。
「……ふ、ふふふ」
「……あははは」
可笑しくなった二人は、暫く笑っていた。
休暇が終わり、再び社交界が賑やかになる。ピアも学園に戻った事で、竜舎には平和が戻って来た。アリアンナも竜舎は勿論、お茶会やら夜会やらと忙しくしていた。気付けば春の訪れを感じる季節になっていた。
「!」
王太子の執務室で仕事を手伝っていたアリアンナは何かを感じ、窓辺に立ち周囲を見渡した。
「どうした?」
「なんだろう、何かに呼ばれたような……そうでないような」
「どっちなんだい?」
王太子が突っ込む。ドマニも不思議そうにアリアンナを見るが、彼女自身も上手く説明が出来なくて首を傾げてしまう。
しばらくすると、何やら部屋の前が騒がしくなった。
「なんでしょう?」
ドマニが確認しようとドアに近づくと、タイミングよくノックの音が響いた。
「はい?」
ドマニが扉を開けると、そこに立っていたのはジルヴァーノだった。
「竜舎から走って来たのですか?」
ゼイゼイしているジルヴァーノをドマニが中に通した。アリアンナが慌ててお茶の準備をする。
「どうした?おまえが慌てるなんて珍しいな」
王太子が言うと、ジルヴァーノは汗を光らせながら答えた。
「すぐに、知らせなくてはと、思い、まして」
息が続かないジルヴァーノに、アリアンナがお茶を渡す。竜舎から執務室までは結構な距離があるにも拘らず、一気に走って来たのだろう。温めに淹れたお茶を一気に飲んだジルヴァーノが、大きく息を吐き出した。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。ですが、すぐにでもお知らせしたかったので」
「わかったから落ち着け。それで?一体どうした?」
大きく呼吸をしたジルヴァーノが、真っ直ぐに王太子を見た。
「ロワが卵を産みました」
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